貴方の瞳は何色ですか

@kusanagireito

第1話 その瞳を

玲花 ……終わらない。


咲 何が?


私は机に突っ伏したまま、紙をひらひらと咲に見せる。


咲 あー……依頼書の整理?


玲花 あぁ……


咲 じゃあ、私はこの後用事があるので帰りまーす


玲花 え?あ、ちょっと待っ……


咲は素早く鞄を持って、部屋から出て行った。

私ははぁ、とため息をつく。


玲花 ……逃げた…


私はため息をつきながら、椅子に座って依頼書の整理を続ける。

……そう、私の高校生活は平凡そのものだった。

これといった趣味もなく、無難に毎日を過ごしている。


玲花 ……やっぱり帰りたい。


潜入捜査とはいえ、なんで私がこんなことしなきゃいけないんだろう。


ー次の日ー


担任 お前ら席につけー


ガラッと教室の扉が開くと同時に、担任が入ってきた。

担任が教卓に立つと、全員席につく。


担任 えー、今日は転校生を紹介する。


玲花 (転校生。……資料通り、氷室紅音を私の瞳の虜にして、仲間に加えないといけないわね。)


と思っていると、転校生が教室に入って来る。

転校生は華奢で可愛い女の子だった。

男子がざわめく。


? 私は氷室紅音、と言います。皆さんよろしくお願いします。


担任 じゃあ、氷室の席はあそこな。


担任が指差すのは、私の隣の空席だった。


玲花 (……隣の席、計画通り。)


私はちらりと氷室を見る。

氷室はこちらを見て微笑み、会釈してきた。

玲花も小さくお辞儀する。

そして、授業が始まった。

私は頬杖をつきながら、窓の外を眺める。


四時間目も無事に終わり、玲花は二つのお弁当袋を持って立ち上がる。


玲花 はあ……


氷室はまだ転校したてで、色んな人に囲まれていたから一人で食べることにする。

私は教室を出て、学校裏に向かう。学校裏には見慣れた人物が立っていた。


玲花 ……またここにいたのか。玲斗


玲斗は私の方を見た。


玲斗 咲耶さん。


玲花 こっちでは、玲花だ。……あと煙草、お前は吸うなと言ったはずだぞ?


と言いながら、玲斗の煙草を取り、咥える。


玲斗 ……それ、間接キスになりますが。


玲花 ?……確かにそうだな。


煙を吐き、煙草を地面に落としてぐりぐりと踏みつける。


玲花 お前も、そういうことを考える年頃か。


玲斗 ……幸せも何もない世界で生きてきたから、そういうのが今になって出てきてるんですよ。……今も、貴方を嫁にしたいと思ってます。


神楽 そうか。だが、私は年下と結婚するつもりはないのでね。あーそうだ。これ、お前の分の弁当な。


私はその場に座り込む。

そして、もう一つのお弁当袋から弁当箱を取り出し、いただきますと言うと黙々と食べ始める。


玲斗 アンタ、いつも律儀だな。


神楽 これが普通だろ。


ふと視線を感じて顔を上げる。

すると、氷室がこちらを見ていた。

私は気付かなかったフリをして、キョロキョロと周りを見てから、食事を再開する。

氷室が包帯越しにこちらを見てるのが分かる。


玲花 (用があるなら、さっさと来ればいいのに。)


玲斗 ……いただきます。


玲斗も無視を決め込んだようだ。


玲斗 アンタって、ほんとモテるよな。


玲花 そう?私にはモテているのか、分からないけど。


私は氷室が見てるので、女口調に戻す。


玲斗 ……バレンタインに、チョコを男にも女にも数千個以上は貰うのにか?数千個の中には他国の人のも入ってるんだろ?


玲花 そんなの全部、義理チョコでしょ?


玲斗が何故かため息をつく。


玲斗 ……アンタ、自分がどれだけ美しくて、中身がいいか分かってないだろ。有名なモデルにも認められて、色んなところからオファーもらってるってのに…それでも気付かないとか……流石に鈍感すぎるだろ。


玲花 ……私は貴方にだけは、鈍感と言われたくなかったわ…


私は玲斗の言葉に、動揺を隠せない。


玲斗 ……俺、アンタのこと好きだ。


玲花 知ってる。


と、返事を返す。


玲斗 ……反応薄すぎるだろ。


私は大きく伸びをする。


玲花 ねむ……んー…玲斗


と、声をかける。


玲斗 なんだ?


玲花 眠いから、膝貸して。


玲斗 ……は?


聞こえなかったのか。


玲花 眠たいから、枕になって。


玲斗の膝に頭を乗せる。

玲斗はため息をつきながらも、退かそうとはしない。


玲花 ……温かい。


玲斗 生きてるからな。


玲花 生きてる……生きてる人間って、こんなにあったかいのか。


玲斗の手を握る。

玲斗は私の手を握り返し、言った。


玲斗 ……アンタ、今までずっと冷たくて暗い地下牢の中にいたもんな。


玲花 ……そう、だね。冷たくて暗い地下牢の中にいた。……でも、今は違う。


玲斗 あぁ。もう、あそこには戻らせない。俺達がアンタを守るから。


玲花 ……あぁ


あそこから私を救ってくれたのは、

「神楽」という名前を持つ、あの人だった。

「咲耶」という名前をくれたのもあの人だった。

もう、奪われない。もう二度とー


それから数日が経ち、放課後になる。

私は数日間で氷室と仲良くなり、家が隣だということなので、一緒に登下校をするほど仲良くなっていた。

下校中。


氷室 私、玲花さんのファンなんです。


玲花 ふふ。それはありがとう。


氷室の瞳はキラキラと輝いていた。


氷室 そういえば、玲花さんって目のとこに包帯をつけていますが、怪我でもしてるんですか?


玲花 あぁ。昔交通事故で、怪我をしてしまって。


氷室 そうだったんですか……


そんなことを考えていると、玲斗が氷室のことを睨んでいた。


玲花 (あ、あの顔は本気だ)


と心で思うももう遅い。

私は素早く立ち上がり、その場を後にしようとすると手首を掴まれる。


玲花 なに?どうしたの?玲斗くん。


氷室が私の方を見て、ではまた明日と言い帰って行った。

玲斗は家に入り、玄関を閉めると、やっと手を離した。


玲斗 ……咲耶さん、氷室と距離が近すぎです。


玲花 なんだ?嫉妬しているのか?……氷室は女の子だぞ?


玲斗 相手が女だろうが、赤子だろうが嫉妬しますよ。俺の執着心の強さ、舐めないでください。


私ははいはい、と言いながら鞄を下ろす。


玲花 ……嫉妬深い男は、嫌われるぞ。


と、ソファに腰を下ろしながら玲斗に言う。


? おかえり


と言いながら、悠斗が部屋から出て来た。


玲花 ただいま。……悠斗。玲斗がしつこいから、どうにかしてくれ。


悠斗 玲斗。咲耶に迷惑をかけるなと言ったはずだぞ?


玲斗 そういう兄貴はどうなんだよ。


口喧嘩をし始めた二人を尻目に自室へ戻り、私は制服を脱ぎ、普段着に着替える。

はぁ、とため息をつくと、白い狼が私のことをジッと見つめる。


玲花 神楽さん。


と名前を呼ぶと、狼が小さく鳴き、近づいて来た。


玲花 ふふ。貴方も心配性ですからね。私は大丈夫です……でも、ありがとう。


私は神楽さんの頭を優しく撫でる。


玲花 氷室を落とすの、もうすぐできそうです。これが完了したら、たくさん褒めてくださいね。


神楽 えぇ。たくさん褒めてあげる。


頬が緩むのを感じる。

神楽は優しい。神楽が優しくしてくれるだけで、私は嬉しい。


玲花 早く終わらせて、神楽さんとの時間を作りたいです。


神楽 私もそう思うよ。


玲花は無言で頷きながら微笑んだ。


ー次の日ー


氷室 玲花さん。貴方の瞳は何色なんですか?私、玲花さんの目を見てみたいです。


玲花 急、だな……(今、ちゃんと言った。案外早かったな。まぁ、仕事が早く終われるから、いいか……)


私は包帯を取り、ゆっくりと目を開ける。


氷室 !青と紫のオッドアイ……綺麗です。


と言っている氷室の目が、トロンとしたものに変わる。


氷室 ……私、神楽さんに会えて幸せです。


玲花 そうか。(洗脳成功。)


玲花はすぐに包帯を付け直す。

氷室はそれを残念そうに見ていた。


玲花 お前にはたくさん働いてもらうぞ。


氷室 はいっ!神楽様のためなら、なんでもします!


玲花 いい子だ。じゃあ、ここからは玲斗に案内させるから、またな。


と言いながら、氷室の頭を撫でる。

氷室は嬉しそうに笑う。


玲斗 じゃあ、行くぞ。


氷室 はいっ!


去って行った二人の背中を見つめ、玲花はため息をつく。


玲花 …やっと心置きなく、運動できる仕事が請け負えるな。


そう呟き家に帰ると、咲がいた。


玲花 咲。そっちも仕事、終わったのか?


咲 うん。運搬疲れたー咲耶、目見せてよー


玲花 ……


黙ったままでいると、咲があっという声をあげる。


咲 そっか。条件があったね。……貴方の瞳は何色ですか?


私はするりと包帯を外し、ゆっくりと目を開けた。

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