第3話 治安維持組織

俺は真っ白な空間にいた。

そこは真っ白な椅子以外何も無くて、気づいたらここにいた。どれくらいいたのかはわからない。


「やぁ、目が覚めたかい?」


「だ、誰だ!」


いきなり声が響いた。すると目の前に人?が現れた。


「………? あぁ、そうだった。君は見えるんだったねぇ。見えてるのかな?」


声からするに………少年くらいか?

俺の目の前には金色の何かが人の形に縁取って光っていた。


「へぇ、形までは見るんだ。うんうん、充分だね」


心が読まれた!? 何者だ?


「あはは! ごめんごめん、では当たり前だったけど、この世界じゃまだこのレベルになってなかったね」


「お前は誰だ。そしてここはどこだ」


「そうだねぇ………ここは精神世界。“夢の中”とも言えるかな」


「…………」


「そんな気張らないで。僕は君に危害を加えるつもりはないんだから。あっ、もう時間かぁ〜。じゃ次はもう少し強くなっててね」


「は!? 時間!? 次!? どういういm」


金色を縁取った何かが消えると急に辺りが黒く染まって俺は意識を取り戻した。



◇ ◇ ◇



「あ、気が付いた?」


目を覚ますと木目の天井が目に入った。

体を起こすと俺はベッドにいて、隣に白衣を着た女の子が安心したような表情を浮かべていた。


「良かったぁ〜もう3日も目を覚さないから死んだんじゃないかって思ったよ」


「ここ…………は?」


「ここは私のお家。あそこで倒れてた君を助けたの」


「…………」


確か、あの時誰かが来て……………だめだ。思い出せない。


「私はハンナ。治安維持組織、警察のリーダーよ。君は?」


治安維持組織? 警察? なんだそれ。

わからない単語に戸惑いながらも質問に答える。


「俺はシオだ」


「シオ、よろしくね。ところで、君はスラム出身の人間だよね」


さっきから意味のわからない言葉が出てくるな。


「スラムってなんだ?」


「あー…………そこからかぁ。じゃあ諸々説明しようか」



◇ ◆ ◇ ◆



「……………へぁ? てことはここは表側の世界なのか!?」


「そう、こっちではユートピアと呼ばれているわ」


「頭がパンクしそうだ」


「ま、ゆっくりすると良いわ。夜ご飯になったらまた来るからそれまで自由にしてて。あ、部屋からは出ないでね!」


そう言うとハンナは部屋を出て行った。

ハンナ、可愛かったなぁ。


部屋にはベッドと机、本棚が置かれていた。窓には何故か格子があったけど。

本棚にはたくさんの本が置かれていた。


「色々あるな。絵本に小説、図鑑まである」


床から天井まで本が敷き詰められていた。

その中で目の惹かれるタイトルがあった。その本は【夢の向こう側】というタイトルだった。

パラパラと読んだ。本の要約すると「非能力者こそ本物の人類であり、能力者は根絶やしにすべき」という内容だった。この本で書かれている事は馬鹿馬鹿しく聞く人が聞けば罵詈雑言の嵐だろう。

けど、俺にはなぜか魅力的に見えた。


「夢の向こう側、かぁ。こんな世界だったら」


けど、俺はたぶん能力が覚醒した。じゃなきゃあの能力者は倒せなかっただろう。という事は、夢の世界で俺は根絶やしにされる側になるのか。


色々考えているとドアがノックされてハンナが入ってきた。


「ご飯持ってきたよ〜って、シオ文字読めるんだ」


「うん、友達に教えてもらったから」


俺に文字の読み方を教えてくれたのはリュアだった。裏側の世界、ハンナの世界で言うスラムでは文字の読めない奴が殆どだった。


「ふ〜ん、その友達は?」


「色々あってもう会えないんだ」


「…………ごめん、デリカシーなかった」


「いや、いいよ。わかる訳ないし。うま!」


ふわふわの飛び出しそうなパン、体の内側から熱くなるスープ、味のある肉。どれもあっちじゃ食べれないものばかりで俺はすぐに完食してしまった。


「ふふっ気に入ってくれてよかった。じゃあ少しお話ししてもいいかな?」


食べ終わったのを見計らってハンナが話を始めた。


「さっきも言ったけど私の作った警察は作ったばかりで人手が足りないの。そこでシオにはこれに入ってもらいたいの!」


「俺、自分の能力わかってないけどいいの?」


助けてもらった身としては恩返しはしたい。けど、はっきり言って役に立つかどうか…………


「そこに関しては心配しなくていいわ。仲間に鍛えてもらうし、なにより私は最強だから手伝ってあげるわ」


「…………ハンナが?」


俺よりも小さく突けば折れそうな体をしてるハンナが最強? いやまあ能力者なら有り得るか。


「私は他人の能力を再現できるの」


「再現?」


「そう、例えば炎を出すことが出来る能力者がいたとするでしょ? 私が実際にその場面を見ればその能力が使えるようになるの」


「…………チートだろ」


さっき読んだ本の言葉を使ってみる。たぶん使い方は合ってるはず。


「そんな言葉どこで覚えたのよ。ま、いいわ。結局シオは入ってくれるの?」


「ああ!」


力強く頷くと、ハンナがニコッと笑ってくれた。

その笑顔は女神様のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の向こうへ リアン @556514

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ