第2話 蹂躙と覚醒

俺は門番の2人の首に銀線を走らせると赤い噴水が噴き出して2人は力無く地面に倒れ込んだ。


「次、次だ」


ナイフをしまい、アジトの中に入る。門番がやられてるのに気づいてないのか中にいる人間は俺になんの反応を示さなかった。きっと増えすぎたメンバーのせいで正確に判別出来ないんだろう。


俺はバッグから丸い球を取り出してピンを抜く。そしてそれを床に落としてバックステップで距離を取る。

数秒後、そこは血と肉の焼けた臭いが広がり、数多の肉塊が散らばっていた。


メンバーを殺しながら中を進む。殆どがただの人間で、能力を持っている奴はいなかった。


建物の最深部、おそらくリーダー格がいるであろう部屋の前に立った。ドアの装飾は今までの廃れた世界とは比べられないほど豪華だった。


ドアを蹴破って中に入る。中には屈強な男と派手に着飾ったヒョロイ男が1人いた。


「お前らが、リュアを殺したのか?」


「ふむ…………知りませんよ。ロア、頼みますよ」


着飾った男が屈強な大男、ロアと呼ばれてる奴に声を掛けると、男が前に出てきた。


「誰だか知らないが、お前強いんだな。俺たちの仲間にならないか?」


「ふざけるな、誰がお前らなんかクズの仲間になるかよ」


リュアを殺した奴なんかと仲間になれるかってんだよ。

ナイフをロアに向ける。


「はぁ、もういいや。残念だけど死んでくれ」


巨体に見合わない速度で突っ込んできた。

なんとか反応してロアのナイフに自分のナイフを合わせる。


「ハハっ! 弱いなぁ!」


「ゔっ!」


かたや貧相な体、かたや筋骨隆々の大男、力の差は歴然で俺はそのままナイフを振り抜かれ壁に飛ばされた。


「ほらぁ、仲間になれよ〜。仲間には怪我を治す能力者もいるからすぐに治るぜ〜?」


「……………お前らは、どうやって能力者を引き入れたんだ」


起き上がってロアの方を向く。ロアは薄気味悪い笑みを浮かべてナイフを弄んでいた。


「ん〜? それはリーダー担当だからわかんねえな。俺に勝ったら聞いてみろ!」


「!?」


ロアが消えた。

かと思おったら次の瞬間、脇腹に鋭い痛みが響いた。


目の前の空間にロアがスゥーっといきなり現れる。


「俺の能力は透明化だ。息を止めてる間は透明になれるし、服や武器も透明になる」


笑うとロアがまた消えていく。

そして今度は背後から激痛が走る。


「ほらほら、早く対処法を見つけないと死ぬぞ!?」


ただただ切り刻まれる。

防御をしようにもナイフがどこから来るかもわからないから防ぎようがない。


「本当に仲間にならねぇのか? 無能力で俺とここまでやり合える奴を殺すのは惜しい。今ならすぐに助けられる」


「はぁ、はぁ…………誰が、仲間になるかよ。こっちは、仲間が殺されてんだよ」


血を流しすぎて今にでも倒れそうな体をなんとか気合いで持ち堪えさせる。気を抜けば今にでも倒れるだろう。


「はぁ…………残念だよ。こんな優秀な人材を手に掛けなきゃいけないなんてよ」


ロアが消えた。

次の攻撃を受ければ良くて失神、悪けりゃ死ぬな。


「(見えない相手に目を開けてる必要は無い。身体で感じろ、ロアの気配を)」


目を閉じて第六感に任せる。これが俺に出来る最後の抵抗だ。


「(俺に全部が見えれば!!)」


『ならば、お前に“力”を分けてやろう』


俺は自分の力の無さに強く怒りを抱いた。

その瞬間、頭の中に“声”が響いた。


『特別だぞ? タダで死ぬのはつまらんからな。さぁ、目を開けてみろ』


「(み、見える!?)」


“声”に言われるがままに目を開ける。するとどうだ、消えたはずのロアが真正面に立っていてナイフを振りかざしている寸前だった。


俺はナイフを当てなんとか直撃を避けた。


「んな!? なんでわかった」


「はぁ………はぁ………」


見えるようになった。けど、戦況が変わった訳じゃない。力は負けたままだし、もう体力も残ってない。


「まあいい。どうせ偶然だ。次で決める」


ロアは………消えなかった。

そして今度は右回りで近づいてくるロアをギリギリまで引きつけてナイフを振り抜く。


「ぐあぁ!!」


ロアは一切避けようとしないでナイフによって胸を切られた。


「ど、どうやってわかった!」


「知るかよ………けど、なんかいけそうだ」


ロアの顔に焦りが出てきた。なんか気分的にもイケそうな気がしてきた。

気付くと出血は止まって何故か傷が塞がってた。


「ぐぅうう…………死ねよ!!!」


ロアの攻撃が単調になった。真正面からくるのをいなしてはナイフを振り抜く。さっきと状況が反転した。


「ロア! なにをしている! 無能力者に負けるなど許さないぞ!!」


「うるせぇ!!」


ロアが突っ込んでくる。

俺はそれに合わせてポケットから手榴弾を取り出してロアの進行上の足元に向かって投げる。

傷を負って反応が鈍ったロアにはそれを避けるのは無理だった。


「……………後は、お前だけだ」


「な、なんで、なんでだ!! こんな、こんな何も持たない奴が私のような持っていr」


「不愉快だ。喋るんじゃねえよ」


さっさと男の首を切り離す。


終わった。終わったよ、リュア。


地面に大の字で倒れ込む。

今になって人を殺した感覚が体を駆け巡る。手足が震えてる。これは…………どういう感情なんだろうな。


「リーダー! なんの音ですか!?」


「…………はぁ?」


いきなりドアが開けられる。

そこには大量の人がいた。そいつらは全員武装していて、人数は…………多すぎる。


「まだいたのか」


なんとか立ち上がった。立ち上がっただけ。もう動けない。

虚勢でナイフを奴らに向ける。


「リーダーの仇! 覚悟しろ!」


一斉に向かってくる。もう終わりだ。俺にしては良くやった方だな。だよなリュア?


俺は目を閉じて力を抜いた。


「タダで死ぬのは許さんと言ったろう。お前が死ぬのは時期尚早だ」


誰かの声が聞こえた。その瞬間、悲鳴が木霊した。

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