夢の向こうへ
リアン
第1章 夢の世界
第1話 異能の力《能力》
この世界には《能力》という異能の力を持つ人間がいる。
《能力》が現れると世界は大きく変わって、《能力》を持つ人間によって幾度も戦争を繰り返した。そして、ある者が世界を束ね、世界は平和になった。
表向きは…………
◇ ◇ ◇
「はっ! はっ!」
「あっちに行ったぞ! 追いかけろ!!」
細く薄汚れた路地裏を必死に逃げ回る。能力の無い人間には人権が無い。
表側じゃ無能力者にも人権はある。けど、それは表側の話。俺の住むこっちにはそんなルールは無い。
「くそっ! また逃げられた!」
「……………」
俺がこの世界で生きるためには表側から物を盗んで生きるしかない。だから毎日あの黒服と追いかけっこをしてる。あいつらは無能力者、だからまともにトレーニングもせずにいる。だから俺を捕まえられない。
今日盗んできたのは肉だ。
今日は珍しく腐ってない肉が捨てられてた。捨てられた物を拾っただけなのに、あいつらときたら。
「いただきます」
手を合わせて焼いた肉を頬張る。久しぶりに食べた肉は口の中で肉汁を撒き散らし旨味でいっぱいにさせる。
「はぁ…………美味い」
「おっ! いいの食ってんじゃん。俺にもくれよ」
肉を味わってると頭上から男の声が聞こえた。上を見ると緑髪の青年が俺の肉を目を輝かせながら見ていた。
「嫌だね、自分で取ってこい。リュア」
青年、リュアにベーッと下を出す。
こいつはリュア、俺の…………まあ、なんだ、仲間みたいな奴だ。俺ら裏側で住む子供は大体がグループになって生活している。
俺は食料の調達を、リュアは戦闘を任されている。
「これならやるよ」
俺は目を輝かせるリュアにカチカチになったパンを渡す。
「おぉ! やっぱ優しいな! ありがとな」
リュアはニコニコしながらパンを頬張る。まったく、なんでこいつの笑顔はこんなにも眩しいんだ。
「そうそう、伝えとく事あったんだ。向かいのグループ、死んだらしいぞ」
「ふ〜ん、そっか」
グループが死ぬのはよくある事。ちなみにここで言う死ぬはリーダーが殺され別のグループに吸収されること。ちなみに吸収されると…………
「ま、お前がいれば大丈夫か。頼むぞ」
俺は持久力、俊敏性は高いけど戦闘力は皆無だ。力があれば黒服を薙ぎ倒してるしな。
「おう! リュア様がいればお前は安泰だから、安心して盗んで来い!」
俺らはたった2人のグループ。けど、この10年間一度も死ぬことなく生き続けてきた。
だから、この先もこの幸せではないけど辛くもない生活が続くんだろう。
◇ ◇ ◇
「…………………は? おい、どうなって…………なんで???」
いつも通り、食料を盗んでアジトに戻ってきたある日、アジトの入り口の前にそれが無惨にも倒れていた。
そこにあったのは腕と両足が曲がることのない方向に曲がり、変色した肌、殴られ顔が陥没した親友のリュアの遺体だった。
リュアは強い。そこらへんの子供、大人にだって負けやしない。そんなリュアが負けるなんて…………
俺はとりあえずリュアを抱えてアジトの中に入る。
リュアを水で洗い地面に穴を掘る。そしてリュアを穴の中に入れる。
「ここで住んでればこういう事は良くある。そう、よくある事だ。けど………許せないよな、リュア」
穴を埋めて板を刺しリュアの名前を刻み手を合わせる。
気が済むまで手を合わせて立ち上がって隠し部屋に向かう。ここには俺とリュアの思い出が詰まった大切な物がたくさん置いてある。
俺は部屋の奥深く、箱の中から一本のナイフを取り出す。
「やられたら、やり返す。当たり前だよなぁ、リュア」
ナイフはこの灰色の世界に似合わぬほど輝かしく銀色に光る。
◇ ◇ ◇
リュアをやった奴の正体は大体予想できる。向かいのグループを吸収した奴だろう。最近のあいつらの行動はマークしてた。けど、こうなるとは思わなかった。リュアが負けるなんて。
俺は目標のグループのアジト前に着いた。
「おい、誰だお前」
「止まれ」
アジトの前には門番らしき奴が2人いた。
俺はナイフを持つ手に力を込めて
「殺してやるよ」
狂気を秘めた笑みを浮かべる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます