美鈴、何やら魔王の話をしているみたいだよ

 ここは闘技場。観覧席には、多いとまでいかないが集まってきていた。

 そして魔道具により、対戦表が空間に浮かび上がる。


「ほう……これはどういう仕組みなんだ?」

「ファルス、仕組み的にはよく分からん。だが、そう云う魔道具らしい」

「なるほど……それで、これはどうみればいい?」


 そう問われドラバルトは、対戦表の見方を教えた。


「……と、いう事だ。それで俺は、最後の十番目らしい」

「んー……オレは、五番目か。それまで、ここで待機してればいいんだな?」

「ああ、そうなる。だが、思ったよりも人数が多いな」


 それを聞きファルスは首を傾げる。


「多いって、普通はそうでもないのか?」

「どうだろうな……俺がここに居た時は、四か五名ぐらいだったはず」


 ――それって……多分、当時のドラバルトを恐れてだと思いますよ。


「それが増えている、か。なんか……嫌な予感がするんだが」

「ファルス、それはどういう事だ。……お前の勘は、意外に当たる。この一ヶ月、そのお陰で助かったことがあったからな」

「勘か……まあ似たようなものかもな。ドラバルト……この試合、気をつけた方がいいかもしれん」


 そう言いファルスは、真剣な表情でドラバルトをみた。


「まさかとは思うが、対戦相手が俺を狙っているのか?」

「全てかは分からん。だが、この闘技場にきた時から嫌な空気が流れていた。それだけじゃない、どこからか分からないが……多数の視線もな」

「……どうなっている? もしそれが本当ならば……俺は、歓迎されていないのか。それとも……偽物だと思われて……」


 ドラバルトは、悔しさの余り下唇を噛んだ。そのため唇を切ってしまい、血が滲みでる。


「オレの予想だが、前者だと思うぞ」

「根拠はなんだ?」

「お前が魔王の配下で最高幹部だったからだろうな」


 そう言われるもドラバルトは、納得がいかないようだ。


「そのことと、どう関係がある?」

「魔王を嫌う者にとっては、お前の存在自体を消したいのだろう」

「……それほどまでにテルマ様の存在を、嫌う者が多かったという事か」


 それを聞きファルスは首を横に振る。


「いや、テルマと云うよりは……魔王の存在だろうな」

「そうか……もしそうならば、今後魔王という存在を出現させてはいけない」

「ドラバルト……それは本心か?」


 ドラバルトの口からその言葉を聞き、ファルスは不思議に思った。


「当然だ。確かにテルマ様は、強くて皆に恐れられていた。だが、本来は心の優しい方だったのだ」

「言っている意味が理解できん」

「テルマ様は、元々この世界の者じゃない」


 それを聞きファルスは驚いた。


「まさか……ミスズのように召喚された勇者なのか?」

「そうなのだろうな。最初の頃は、女神の指示に従っていたらしい。だが、やらされていることに疑問を抱き始めた――」


 そう言いドラバルトは、魔王テルマから聞いた話を語る。

 それをファルスは、顔を引きつらせながら聞いていた。


(なるほど……かつては魔王自体、存在しなかった。いたのは、魔族という存在のみ。だが魔族の中には良い者も存在する。

 それなのにスイクラムは、その善良な魔族までも殺させていたと云うのか。そればかりではなく、魔族以外にも悪さを平気でする者も居たって……)


 そう考えていたファルスの顔は、怒りの余り真っ赤になっている。


「ファルス……お前が怒るのも分かる。俺も、そのことを聞き腹が立ったからな」

「そうか……そうなるだろうな」

「それでだ……一番、状況からしてミスズが近い」


 それを聞きファルスは頷いた。


「確かにな。ミスズは、スイクラムにより酷いめに遭っている。そうなると、魔王になる確率が高い」

「そういう事だ。……今思うと、ミスズのしもべになったのは……そういう事だったのかもしれん」

「そうかもな。まあ、他の理由かもしれぬが……」


 そう言われドラバルトは、ファルスが何を言いたいのか分からず困惑する。

 そしてその後も、二人は話を続けていたのだった。

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