第32話 裏切りへの火
アーサー騎士長様のことが気になり、ソラと一緒にロリアーサー教の教会へ向かっていた。向かっている途中にソラへ事件の経緯を説明し、ロリアーサー教の教祖がマーリン先輩という事も説明した。
ドゴォン――!
離れた場所で爆発音が聞こえた。それも1回や2回では無い。
「どうなってんだよマジで……」
ソラはこの事件に心底呆れているようだった。対立宗教の争いの被害を、ここまで広げるとは俺も思っていなかった。
爆発したと思われる場所からは火災が発生している。
「俺は騎士長様の方に行くから、ソラは他の場所で避難誘導を頼む」
俺はソラの返事を聞く前に教会へ向かった。後ろからソラの声が聞こえるが、俺は振り返らず走った。
ロリアーサー教の教会前に着くと、多くの黒いローブを着た人間の死体が転がっていた。周りには騎士や消防隊が必死に消火活動を行っている。
ガラガラガラ――
爆破されたであろう教会の瓦礫が動いている。中にまだ人が居るかもしれない、と思った時、既に体は動いていた。
慣れない鎧が動きを制限し、灼熱の瓦礫が行く手を阻む。重い、痛い、熱い。それでも、騎士として自分を犠牲にしてでも助けなければならない。
ガラ――
動いていた瓦礫をどかしきるが、そこに人の姿は無かった。しかし人の代わりに、地下に繋がっていそうなハッチを見つけた。
(地下があるのか。ただの武装宗教団体じゃなさそうだな)
俺は地下ハッチを開け中へと進んでみる。熱が籠って蒸し風呂のようになっているかと思いきや、地下は案外涼しかった。この寒暖差は、地下が奥へと続いている証拠だ。
コツ、コツ、コツ。自分の足音が暗く何も無い空間に響く。
「…………だろうが!」
男の怒声が聞こえた。
「……って言ってんじゃねぇか!」
相手の怒声も聞こえた。
俺は声の響く方へ走る。段々と怒声は大きくなっていき、やがて金属と金属がぶつかる甲高い音も聞こえ始めた。
暗闇から光の漏れる扉があった。怒声も剣戟音もそこから音は聞こえ、俺は勢いよくドアを蹴破った。
そこに居たのは……。
「マーリン先輩――ッ!」
ロリアーサー教教祖にして、俺の先輩であるマーリン。普段は声が小さく何言ってるか分からない先輩が、目の前の男との口論では聞いたことも無いような怒声を発していた。
彼は白に金の装飾が入ったローブを身にまとっていて、手にはアーサー騎士長様の絵が入った盾と剣を握りしめている。
対する相手は全身黒いローブを羽織り、マキュリー聖騎士よりも小さなハルバードと、陰キャマキュリーを愛でる会と書かれた盾を持っている。
「あ、ウミ氏か。このうつけ者がそれがしのロリ騎士長をけなすのでござるよ! 全くもって不愉快極まれりでござるな。フンスフンス」
「そなたウミ氏というのでござるか。貴殿はロリ騎士長なんかよりも、あのスケベそうな陰キャのマキュリー殿の方が性癖でござるよな? ドュフ」
キモすぎる。
コイツらはどこまでも自分のことしか考えていない。
だから民衆をも巻き込んだテロを起こし、個人の尊厳を無視した宗教団体なんて作れるんだ。
「もういいアンタら。動機は何となく分かった。」
俺はエクスカリバーを左手の篭手に添わせて構える。ギャリギャリと音を立てながら刀身と篭手は擦れ、聖剣と俺の殺る気に火がついた。
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