第30話 合否
「不合格……?」
ガイア、もとい試験官が告げる。
「私をここまで連れてくるルートや護衛の仕方は大変良かったです。しかし最後、あなたは私を返り討ちにしようとしましたね」
「はい」
「騎士というのはいかなる状況であっても人命を優先しなければなりません。確かにここで私を討つ事であなたは生きのび、この先多くの命を救うでしょう。しかし、それはあなたでなくても良い。ほかの騎士でもできることでしょう?」
もっともな意見だ。多くの命を優先する、という点においてのあの場での行動は、私が倒れることが1番良いだろう。
しかしいくら騎士が命を優先するからといっても、いくら騎士が国の駒だとしても、その場しのぎの綺麗事で救われる命の期限なんてたかが知れてる。
「……見なさい」
ガイアさんは自らの肢体を私へ見せてくる。そこにはアザや切り傷、火傷痕など痛々しい傷があり、内ももの股間付近にはタリーマークが数多く刻まれていた。
女が騎士になるということがどれほど難しいことか、女がここへ来るとどういう扱いを受けているか、私に伝えようとしてくれている。
「それでも私は上がりますよ」
彼女は身体を見せて、悔しくて恥ずかしかっただろう。そんな彼女だからこそ、私の言葉を聞いて驚いた様子だった。
「私の代わりにじゃないけれど、あなたは頑張ってね」
ガイアさんは近くにいた騎士に指で丸を作った。私はどうやら、適正試験をクリアしたらしい。
「ありがとうございます」
私はガイアさんにお辞儀をし、2人で広域修練所の門まで戻った。もちろん戻ったあとガイアさんは湯を浴びて不純物を落としていた。
――――合格発表――――
騎士採用試験から2日経ち、合格者の名前が貼り出される育成修練所の前に私は立っていた。
しばらくすると騎士が丸まった紙を広げ、壁についている大きな連絡板に貼り付けた。
(アーサー、アーサー、アーサー……)
「――!」
あった。合格者の欄にアーサーの文字が。
「アーサーお嬢」
「うひゃい!!」
後ろから剣技試験の時の老騎士が話しかけてくる。合格した喜びと、急に声をかけられた驚きで変な声が出てしまった。
「な、なんですか」
「無事合格おめでとうございます。晴れてアーサーお嬢も騎士の訓練兵として王国へ仕えるわけですが……」
老騎士は1枚の紙と金属の紋章を渡してきた。
紙には王の城への招待状が入っており、金属の紋章にはサンクロス王国を象徴する太陽のシンボルが刻まれていた。
「アーサーお嬢の話をサナー王にしましたら、直接会って話がしたいと言われ招待状を預かりました。紋章の方はこの国のフリーパスのようなものです。王国の要である施設にならいつでも無料で入れます」
老騎士はそう告げると姿を消してしまった。結局名前も役職も知れずに離れてしまい、自分の母への謎も深まるばかりだった。
その後は入隊式や宿舎の案内、修練場や修練タイミングの詳細などの説明を受け、晴れて立派な訓練兵となった。
気になる王への謁見や母の出自の謎などは、また別のお話で。
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