第28話 白狼の師の師


 次は戦闘修練所で剣技試験が行われる。この試験は実際に騎士へ剣を打ち込み、文字通り剣技の腕前を試す。


 剣は木刀、防具は軽い兜と鎧。これらを使い騎士を打つ。


 私はこの時とてもワクワクしていた。母や村の人以外に剣を打つのが初めてだったからだ。サンクロス王国の騎士ともなれば、それはもう強いのだろうと、今か今かと順番を待った。


「次、女」


 名前ではなく女って言われた。アーサーって呼んでくださいよ。


 試験官に呼ばれ修練所に入ると、複数の騎士が筆と紙を持ち、中央には木刀を持った老人が立っていた。


 私の姿が見えた途端周りがざわつき出す。新手の羞恥プレイですか。


「剣技試験を始めます。剣を構えて」


 老人が言う。


 私は黄金の剣キャリバーンを拾った日からずっと母に教わり続けていた剣の構え方をする。すると老騎士は細い目を見開いた。


「……これは試験とは関係無いが、その構えはどこで?」


 変だったのか、はたまた見た事がないのか。どちらにせよ隠す理由も無いので母から教わった事を伝えた。


 すると老騎士はなぜか優しい顔になり、ぽつりと呟いた。


「これは加減出来ませんな」


 老騎士の構え方が変わる。


 腰を落として姿勢を下げ、右手で剣を担ぐようにし、左手は地に触れるギリギリに垂らす。私が母に教えられた剣の構えであり、目の前の老騎士が構え直した姿勢でもある。


 私と老騎士はお互いを真っ直ぐに観て、体の筋肉を弛緩させる。


「始め!」


 試験官からの合図で私と老騎士の筋肉に爆発的な緊張が走る。互いの体は一瞬にして向かい合い、剣を振りかぶる老騎士としっかり目が合った。


 私と老騎士の剣は勢い良くぶつかり、その衝撃は周りの試験官達にも届くほどだった。


 この老騎士の特筆すべき点は、母とも村の人とも違う剣への力。剣に感じる重み。


 私には何もかも新鮮で、この老騎士との戦いをもっとしたいと思っていた。


 何度も何度も剣を打ち、躱し、走り、突き、受ける。そうしているうちに体も温まり、私の動きがより洗練されていくのがよく分かる。


「お母さんは元気かね?」


「――!」


 私は老騎士のその言葉に意識が逸れてしまい、打ち込む角度を誤ってしまう。そこを彼は見逃さなかった。刃先で私の剣を受け流し、そのまま切先が私の喉元でピタリと止まる。


「やめ!」


 長いような短いような剣の打ち合いは、試験官の合図で終了した。老騎士は剣を収め一礼する。私もそれにならい、剣を収めて一礼した。


「あの、なんで母を?」


 私は修練所からおい出される前に老騎士へ問う。彼は顎に手を当てしばらく悩み、こちらを向いて剣を見せた。


「君のお母さんは私の一番弟子でしたからね。アーサーお嬢」


 老騎士は頭を下げる。周りの試験官や同じ空間にいた受験者は一斉に私の方へ視線を送った。恐らく実力のあるこの老騎士が、女である私へ頭を下げたのがとても不思議だったのだろう。私も不思議だ。


 それに彼は私をアーサーお嬢と言った。私は、母との関係もあるこの老騎士にとても興味が湧いた。


「ぼさっとしてねぇで、さっさと体術修練所へ行け」


 次の体力試験のため、私は戦闘修練所を追い出された。


 体術修練所へ行き体力試験を実施した私は、持久走とトレーニングをやらされた。持久走は、全力疾走で何分間走る り続けることができるのか。トレーニングでは、腕立て伏せ、腹筋、スクワット、重量上げをやった。どれも周りの男より多く走り、多く回数をこなせていたと思う。


 体力試験で審査している点は恐らく体の基礎が出来上がっているかどうかだろう。女が騎士になる事を良しとしない人からのの力が働かなければ、私はそこそこ良い成績のはず。多分、おそらく、きっと。


 早めに終わった体力試験の感触も程々に、最後の適正試験を行うため、私は広域修練所へと足を運んだ。

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