第27話 騎士を目指すということ


 下層での出来事を周りの騎士に伝え、人命救助と消火活動へ人員を派遣した。中層へ向かう途中にチラッとウミに向かわせた場所を見たが、あちらでも戦闘があったようだった。私の時とは違い、白いローブを身にまとった人が大勢倒れている。


 彼にとっては酷な事だっただろう。しかし、誰かの命の上に、初めて救える命があるという事を学ぶ良い機会だったのかもしれない。


 綺麗事だけでは命は救えない。私がサンクロス王国騎士になる時に最初に学んだことだ。



 ――――数年前――――



「女が騎士になるだぁ? ナマこいてんじゃねぇぞ!」


 地元の村から1番近かった大きな都市がサンクロス王国だった。猟師は獣を相手にするが、私は人を相手に戦いたかったため騎士を目指した。


 初めてのサンクロス王国は右も左も分からないぐらいデカくて、私に様々な感動と刺激を与えてくれた。


 (王国の騎士は女が騎士を目指すとキレるのか。こわ。)


 私は怒鳴られても気にせず、色んな騎士に話しかけていた。


 ちょこちょこご飯を挟みつつ、日が暮れるまでしつこく中層を周った結果、騎士の採用試験が4日に後に行われる事を知った。


 私は日雇いの仕事をこなしつつ王国に滞在し、来たる騎士採用試験まで体を温めていた。



 ――――4日後――――



 育成修練所にて開催される騎士採用試験。私はこの日のために、日雇いの仕事で例年の試験内容を小耳に挟んでいた。


 騎士採用試験には、筆記試験と剣技試験、体力試験に、適性試験と、計4つの試験を行う。


 4つの試験の総合点で合否が別れるのだが、合格ラインの点数は300点。仮にひとつの試験が0点でも、ほかの3つが満点なら合格ができる。


 私はこの4日間、試験対策として筆記試験の勉強をしていた。剣技と体力と適性は、自分の力を信じることしか出来ない。筆記なら、付け焼き刃でも点数をあげられる可能性がある。


 過去問をかき集めて頑張って勉強した。


「それではまず、筆記試験を始める。」


 女ってだけで周りの視線を集めていた。試験始まってるんだからこっち見るなよ。カンニングだと思われるぞ。


 筆記試験の内容は、基本的な文字の読み書きと数字の計算、サンクロス王国の歴史と、国歌の穴埋め問題。


 村にいた頃に母から読み書きは教わっていて、簡単な数字の計算も出来ていた。だから勉強したことといえば、サンクロス王国の歴史と国歌を重点的にしていた。


 所々分からない部分はありつつ、それなりに回答できていたと思う。


 しばらく経ち、試験官の止めの合図で一斉に回答を止める。1枚1枚試験官が回収にまわり、私の時だけ舌打ちをされた。悲しい。


「国歌斉唱!」


 私は問題を解いている時ずっと疑問に思っていた。なぜ国歌の穴埋めがあるのか。その答えは、筆記試験のあとに国歌の斉唱をし、国への理解と忠誠を確かめるため。


 前奏が流れ始める。しかし私はここでも不思議に思ったことがある。


 私はこの歌を知っている。以前母が口ずさんでいたからだ。試験の文字だけを見ていたためか気が付かなかった。


「栄華をその手に握りしめ〜、向かうは見上げる太陽の〜、更に上へと続く空〜。剣を掲げて旗を振り〜、世界を1つに王の手に〜。我らが王国サンクロス〜。光は闇を〜、包み込む〜」


 国歌斉唱が終わり、私たち受験者は次の試験会場へと案内された。

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