第26話 身の内の静かな怒り


 ウミに行かせた方は大丈夫なのだろうか。


 私は瓦礫をぶった斬りながら逃げ遅れた人を救出して回っていた。爆発に巻き込まれた人はあらかた安全な場所まで運んだが、私1人では全員分の応急処置は出来ない。


 ふざけた宗教みたいなもん作って、周り巻き込んで何者かに解体されそうになるって、どんだけはた迷惑なんだよ。


 恐らく会合で下層区画の兵長が言っていた違和感の原因はこの宗教だろう。とある場所では同じ宗教の話が合う者同士が活気づいていて、とある別の場所では相反する考えの別の宗教とバチバチになっている。


 私にはこんなキショい宗教を作る意味が分からないが、人々が協力し、より良い方向に一致団結するのならば目を瞑っただろう。


「やめて頂こうかアーサー騎士」


 爆発現場を動き回っていると、黒いローブを着た人がめっちゃ来た。


「お前らか」


 答えを聞かずとも分かる。恐らくこいつらがここを爆破した敵宗教団体。私が救出していたのを止めたという事は、周辺のロリアーサー教信者を巻き込む事を前提とした計画だったのだろう。


 この者らがサンクロス王国国民の命を脅かすというのなら、私は容赦なく黄金の剣キャリバーンを振るう。


「『一時いちじ敗北はいぼくえて夢想むそう。そのさきいただきにのぼ無双むそう』」


 宝剣の力を使うための詠唱は、放つ力のイメージを明確にしなければならない。詠唱中に剣を振るうと、イメージが崩れて力を使えない。


 だから無防備な状態で詠唱しなければならない。


 それを知ってか知らずか、黒いローブ達は私に刃を向けてくる。


 鎧を着ているとはいえ、刃による裂傷はなくとも、武器を振るわれる衝撃は喰らう。めちゃくちゃ痛い。


「『ただの一騎いっきにして、当千とうせんす』」


 ――――!


 すごい痛い。


 鈍痛が身体中を駆け巡り、何度も私の詠唱を邪魔しようとしてくる。でも、そんな痛みだけでは、アーサーは止められない。


「『心象具現の異界機構リ・サブリミナル』」


 私は光り輝く黄金の剣キャリバーンを掲げた。すると光が辺り一帯を包み込み、黒いローブ達も巻き込んで光は大きくなっていく。



 立ち上っていた煙も、爆破で崩れた建物も無い。あるのは広大な水面と晴天、そして私と黒いローブ達。


「な、なんだここは!」


 黒いローブ達は慌てている。先程まで見ていた建物の密集地とは違い、彼らにとってはとても異質な異界に見えているだろう。


「ここは私の心の世界。何でも私の思い通りになるんだぜ」


 私は近くにいた黒いローブに向け指を降ろす。すると宙から光の剣が現れ、私の狙った黒いローブの頭上に落ちた。


 光の剣が刺さった黒いローブは即死し、水面に血が滲み出る。周りの黒いローブ達は私から大きく距離を取り、自分らの頭上を警戒している。


 そんな彼らの意表を突くように、私は指を動かす。


 光の剣が複数出現し、1本1本が独立した動きで黒いローブ達を刺し殺していく。


「な、なんなんだ!」


 静寂に包まれていたこの世界は今、黒いローブ達の叫び声がよく聞こえる。美しく綺麗だった水面は血で濁り、光の剣が次々と死体を増やしていく。


「首謀者は誰だ」


 私は彼らに指を動かしながら光の剣を飛ばす。


「ラ、ランスロット殿です!」


「なるほど。お前、私の目の前に来い」


 私は指を止め、発言した黒いローブを私の前まで歩かせる。黒いローブが歩き出すと同時に、私は再び指を振る。


 大量の光の剣を宙へ生成し、呼んだ者以外を鏖殺する。


 いつの間にか足場の水面は赤黒く変色していて、それに呼応するかのように空も赤黒くなっていた。私の前に来た黒いローブはガタガタと体を震わせ、必死に謝っていた。


「ランスロットって、あのランスロットか?」


 私の声に反応し、目の前のやつはベラベラと話し始めた。


「ランスロット殿が私達、陰キャマキュリーを愛でる会の教祖でして、この計画を考えたのも、全てランスロット殿が発端でした!」


 宗教名キッショ。


 ランスロットとはサンクロス王国騎士の1人。私の管轄では無いが、次期兵長候補として名前が上がっていた男だ。


 ボソボソと喋るが仕事は真面目にこなし、仲間内ではテンションの高い一面があった。そんな男がキモイ宗教を作り、キモイ宗教を攻撃していることになる。


 私は目の前の黒いローブを斬り払ってこの異界を解除し、未だ火災の止まらないキモイ宗教の教会の前に戻ってきた。


 こんなバカげた事件の真相を話してもらうべく、私は彼のいる中層へと向うことにした。

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