第24話 幼狼②
アーサー騎士長様に追いつくと、煙の昇っている建物にはデカデカとこう書かれていた。
「ロ、ロリアーサー教……?」
アーサー騎士長様はプルプルと震えている。恐らくこれは笑いをこらえたりしてるのではなく、怒りに震えている。小さい背中からその怒りがよく伝わってきている。
「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」
彼女は俺が思ってるよりもブチギレていた。めちゃくちゃ地団駄を踏んで、子供の癇癪かってぐらい荒れている。
そしてアーサー騎士長様は俺の方へ振り返り、看板に指をさして言った。
「あれ知ってた?」
「いえいえ全然知らないです」
膨れた顔でめっちゃキレてる。
「さてはマキュリーだな?」
アーサー騎士長様は周りをキョロキョロしている。それよりも早く火の手を防いだ方が良いのでは、と口から出かけたが、意見しない方が良さそうだった。
ドゴオオォォンッ――!
もう1箇所で爆発が起きた。恐らく、俺がさっき見ていた建物だろう。
俺はさっき見た怪しい男達の話をアーサー騎士長様伝えると、「ここは私が何とかするから、ウミはもう1つの爆破場所に急いで」と言われた。
言われた通りに、俺は先程の怪しげな男たちが爆弾をしかけていた建物へ向かった。
――――爆発現場――――
建物の周辺は先程よりも酷く、破壊された建物の瓦礫が他の建物にめり込み二次被害を起こしている。火災もこちらの方が酷く、人々の悲鳴も沢山聞える。
まずは周辺の人の避難を優先しようと思い、俺は必死に避難を呼びかけた。
「早く避難してください! 火災が酷くなる可能性があります!」
阿鼻叫喚の地獄絵図とはこの事か。悲鳴や怒声で俺の声はかき消され、避難誘導は滞るばかり。
この場には俺1人しか騎士もいない。こんなんじゃ、被害が大きくなる一方で、俺は考える事しか出来ない。
しかし、それでも呼び掛け続ければ、誰かが俺の声を聞き助かるかもしれない。
考えるという思考停止をするのではなく、身体を動かし脳を回し口を開け。
「避難してください!」
「火災の広がっていない建物の方へ逃げてください!」
俺は懸命に叫んだ。しかし依然として状況は変わらない。俺にはアーサー騎士長様のような宝剣は無く、マキュリー聖騎士のような力も無い。
何度も何度も自分の無力さを悔やむが、悔やんでいる時間で人々が危険になるのなら悔やむ時間なんか要らない。
「煙をなるべく吸い込まないようにしてください!」
あぁ、ダメだ。
自分には限界がある。挫けそうだ。
10分だろうか、20分だろうか。叫び続けて国民を避難させ、救えぬ命に目を瞑って、悔やむ時間すら惜しんで。
俺には何も出来ない。俺の目指していた格好良い背中も、憧れた立ち姿も、結局は力のある人間が勝ち取るモノなんだと実感している。
結局は命の取捨選択をするしかない。今の俺では、もしかしたらこれからも。
「諦めんなウミ!」
俺の叫び声と国民の悲鳴の中に、確かに聞こえた俺の背を押す声。
でも無理だ、俺には。
「お前が無理だって思った時、いつも背中押してやっただろ?」
ドン――
誰かに背を押された。
振り返るとソラが居た。
「こんなに火が……、人だっていっぱい……」
俺は地に膝が着きそうだった。するとソラは俺の腕を持って立たせてくれた。
「もう大丈夫だ。お前のおかげで逃げれた人が俺達を呼んだんだ。お前のやった事は正解だったんだよ!」
ソラは俺の肩に腕を回す。
直後、大勢の足音が火災の音に混じり聞こえてきた。他の騎士や消火隊が来た。
「急いで消火しろ!」「逃げ遅れた人を探すんだ!」
合流してきた人々がテキパキと作業を始めた。
俺は潤んでいた瞳をぬぐいソラを見た。ソラは拳を突き出してニカッと笑う。
「サンキュ」
俺もソラに拳を突き合わせる。俺は1人だったけれど、必ず最後は1人じゃないんだと、そう思わせてくれたソラに感謝しかない。
ドタドタドタドタ――
追加の人の足音が聞こえてきた。しかし彼らは消火隊や騎士ではなく、白いローブを被った人達だった。それに彼らは10人や20人ではなく、もっと人数がいる大所帯だった。
「消すな!」
突然現れたローブの人達は次々と消火隊や周りの騎士達に攻撃を始めた。それぞれが剣や槍などの武器を持ち、まるで最初からここへ攻撃するために来たかのような気迫で迫ってくる。
崩れる建物と広がる業火、人を助けようとした人を襲う異常集団。
一体この下層に何が起きているのか、俺は確かめなくてはならなくなった。
俺の先輩であるマーリンさんに。
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