第23話 幼狼①


 訓練兵から騎士に引き上げられて1週間が経った。修練内容は訓練兵の時よりもしんどくなっていて、さらに慣れない鎧も着なければならない。


 毎日キツい修練と下層の見回り。でも、騎士長様が期待してくれていると考えると頑張れる。


 それと、ソラとは配属先が異なり離れてしまった。小さい頃から一緒に切磋琢磨してきたために、離れるのは少し寂しい。でも、お互いの夢が叶った。そこは喜ばしいことであり、ソラに負けないようもっともっと高みを目指す。


「……だな……」


 建物の隙間で男数人が何かを話していた。怪しい格好をしていることも無かったのであまり気にしていなかったが、直後、気になる事を話し始めた。


「例の計画は大詰めだ。マーリン殿に連絡して会館の爆破許可もらってこい」


「ああ。わかった」


 この耳ではっきりと、マーリン殿に爆破許可という言葉を聞いた。国民の安全を守る騎士として見過ごせない。それに、マーリンと言えば、下層区画を守備している俺の先輩にあたる人物だった。


 ことの真相を確かめるべく、俺は彼らに話しかけに行った。


「今なにか良からぬことが聞こえたが? マーリン殿とは?」


 男達は慌てた素振りを見せることなく俺へと振り返り、表情も変えることなく話し始めた。


「これは騎士様。私達はマーリン殿に新しく出来た会館のオープンパーティーを準備しろと言われていまして。少し派手にしようと、爆竹や花火を鳴らすのに許可を取ろうと思ってたところなんですよ」


「あぁ、そうだったのか。呼び止めて悪かった」


 嘘だ。こいつらは嘘をついている。普通花火や爆竹の点火を爆破なんて言わない。しかし、人気の無いここで噛み付くのも得策ではない。


 俺は彼らを逃がすフリをしてあとを追い、一体何を企んでいるのか突き止めることにした。


 俺は建物の隙間から出てその場を離れる。離れた場所から彼らを見ていると、人目を避けてとある建物へと向かっていった。


 目的の建物周辺に着いた彼らはより人目を気にする素振りをしながら何かをしている。


 (こいつらまじか……!)


 彼らはパッと見ただけでは分からないような場所へ爆薬を設置していた。俺はマーリンさんに許可を取りに行った男よりも早くマーリンさんのところへ行くため、建物の屋根へ登って育成修練所へダッシュした。


 入り組んだ地面を走るより、開けている屋根伝いの方が遥かに早く着く。しかしそんな俺の考えは、複数の爆破の音によって壊される。


 (まさかもう……。いや、違う――!)


 俺が見た建物とは違う場所にあった建物が派手な爆発を起こしていた。しかもそこには建物が密集していて、近隣から火災や悲鳴が沢山上がっている。


 俺は屋根の上で考えた。被害を広げることなく解決できる策を。


「お、こんなところで何してるのウミ」


 背後から声がした。その声は聞き覚えのある甘くて優しい声だった。


「ア、アーサー騎士長様こそどうしてここに?」


 相変わらず小さいけれど、隙がなく風格のある立ち姿だった。


「いやー中層に居てさ、下層の見回り行こうとか思ってたら爆発音したからぶっ飛んできたんよー」


 ぶっ飛んできたという表現が比喩ではなく直喩なのが分かってしまうのがこの人の恐ろしいところだな。なんて考えていると、アーサー騎士長様は煙の昇っている建物へ直行していた。


 (ほんと早いな……)


 俺もアーサー騎士長様の後に続いて現場へ急行した。

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