第22話 嵐の前の静けさ


 ――――ロリアーサー教教会――――


 下層のとある建物。そこには少し前に新しく誕生した宗教の信者が通っている。名を、『ロリアーサー教』。信仰対象はサンクロス王国騎士長アーサー。小柄な体で魅惑的な身体を持ち、綺麗な金髪と青い瞳、そして可愛らしい顔が人気の人物だ。


 狂信的なファンが多い彼女だが、宗教を作られるまでに至った。


「なかなか信者が集まってきましたな。ドゥフフ」


「元々ロリ騎士長殿を崇拝している人は多かったってことですな。ブヒヒ」


 サンクロス王国の国民は約2700万人。その中の2万人程が既にロリアーサー教へ入信していて、これからも徐々に増えていくと思われる。


 彼らは信者から資金を調達し、武器を買い、とある宗教との勢力争いを考えていた。信者の数を物理的に減らし、こちらの信仰対象の方がより優れていて、より信者数が多いと証明したいのだろう。


「さて『マーリン』殿、そろそろ宣戦布告でもどうでござるか?」


「あのやかましい『陰キャマキュリーを愛でる会』に引導を渡してやりますか」


 彼らは密かに準備していた。敵対する宗教団体、陰キャマキュリーを愛でる会を潰す作戦を。



 ――――陰キャマキュリーを愛でる会会館――――



「いやはや、プルート聖騎士から頂いた元手がここまで効力を発揮するとは。ンヒヒ」


「我々も大きくなりましたな。コポォ」


 下層のとある建物。そこには、ロリアーサー教と同時期に出来た宗教団体の会館だった。信仰対象は聖騎士のマキュリー。目隠れ黒髪のデカ乳で、力もタッパもあるのに控えめな性格という、何もかもアンバランスな彼女が密かな人気を博している。


 騎士長アーサー並にファンのいる彼女にも、宗教を作るほどの狂信的な人々が居た。


「会費も集まってまいりましたぞ」


「それではそろそろ、あの犯罪集団、ロリアーサー教を潰しに行きますか『ランスロット』殿」


 彼らも時を同じくして、敵対する宗教との抗争を目論んでいた。武器や防具を買い集め、約2万人ほどいる会員に配り、ロリアーサー教を潰す。


 互いに認め合うことが出来ず、数を減らすことでしか優越感に浸れない愚か者達。彼らがこれからサンクロス王国で巻き起こす悲劇を、騎士として止めることができるのか。騎士長アーサーの度量が試される。



 ――――育成修練所――――


「へっくし!」


「どうしました? 騎士長。珍しく風邪ですか?」


 私の隣で南区画の騎士兵長が小突いてくる。


「なわけあるか」


 今日は各区画の兵長が集まって会合をする日となっていた。3人の聖騎士はもちろん、東、南、西、北、上層、中層、下層、王の城と、様々な場所から人が集まっている。


「それではこれより、各区画での業務連絡を行ってもらう」


 私の挨拶で会合が始まり、各々が連絡や注意喚起、事件や事故などの話を始める。戦地演習からの復興以来初めての会合で、状況が変わっている地区や治安が多々ある。それを受けてどう対応していくかが、今回の会合の本筋だ。


 東地区、南地区、西地区……と話を進めていくと、1つ気になる話をする兵長が居た。


「下層での報告です。目立った事件や事故はありませんが、最近人々が活気づいていてとても雰囲気が良い場所と、すれ違う度に威嚇や暴言を吐いている人々がいる場所があります。詳しい原因は未だ不明ですが、奇妙なので共有いたします」


 らしい。一体下層地区で何が起きているのか。


「――!」


 マキュリーがなぜか慌てている。この女の悪知恵か?


 兎にも角にも、私は様子見のために下層へ出向くことにした。

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