第19話 霧の夜空に海の聖剣


 とは中層にあり、私が信頼して仕事を任せている。


 熱気が肌を焼き、鉄を打つ音が店の外まで聞こえる。


「『ダイちゃん』いる?」


 店ののれんをくぐり店内を見回す。ウミもソラも目を輝かせながら店の品を見ている。


「面倒なもん頼んだなアーサー。おかげでこの3ヶ月まともに寝てねぇ」


 赤毛の交じった黒髪の短髪にハチマキをつけ、上裸で作業していたこの男は、私の信頼している鍛冶屋のダイちゃん。


 店に置いてある品は全てダイちゃんが1人で作っている。耐久性、切れ味、装飾、何をとっても超高品質。こんな仕事が出来る人間は中々見つからず、半端な獲物で騎士を引退する者も多い。


「ほら、これだろ」


 ダイちゃんは計3本の剣をカウンターに置く。私はもちろん、ウミとソラも食い入るように剣を見ていた。


「その子達のなんだろ?」


「「え?」」


 2人は私の方を見る。それもキラキラとした真っ直ぐな目で。どっかの変態共とは大違いな眼差しだな。


「この直剣はウミ用だ。専用の篭手を使うと、刀身に発火と発破の効果を付与できるように作ってもらった」


 ウミは篭手と剣を持って超絶目を輝かせている。可愛いなこいつ。


「そんでこの2本はソラ用だよ。短めの白と黒の刀身は、それぞれ切れ味とデザインが微妙に違う」


 これまたソラも2本の剣を持って目を輝かせている。騎士に憧れる子供を見ているようで、なんだか面白い。


「お前さんたち、せっかく騎士長様とやらがお前らのために獲物を用意してくれたんだ。名前付けてしっかり大事にしろよ」


 はっとした顔をしてウミとソラは私を見る。土下座して頭を地面に擦り付けながら、ありがとうございますを連呼している。しまいには財布を取りだしダイちゃんに値段を聞いていた。


「レディーからのプレゼントだよ。お代はいいから大事にしなね」


 またもや彼らは頭を地面に擦り付け、もはやめり込むんじゃないかというぐらい土下座している。おもろ。


 彼らを落ち着かせ、ダイちゃんの提案通り、彼らの剣に名前をつけようという事になった。


「せっかくなら名前を刀身に刻んでやろう」


 ダイちゃんの粋な計らいに、思わず私は親指を立てた。


 彼らはしばらく悩んだ後に、ソラから剣の名前を言った。


「白い方を『ミスト』、黒い方を『ナイト』なんてどうでしょう?」


 中々面白いネーミングだ。合わせて『ミストナイト』、霧の夜空と言ったところかな?


「あ、俺も決めました」


 ウミも続く。


「『エクスカリバー』」


「そりゃ聖剣だぜあんちゃん。隣に聖剣持ってるやつがいるだろうに」


 ダイちゃんはワハハと笑っているが、私は凄く良いと思った。彼とあまり深く関わっていないし、彼の話を聞いた訳でもないが、彼が目指す者や何を見据えているのかがわかった。


「2人共、剣の事は他の騎士には内緒だ。私個人から君達への期待だと思ってくれ」


 そしてさらに、私はこう付け加えた。


「ウミ、ソラ、来週から君達は騎士に昇格だ」


 私は彼らに拍手をすると、輝かせていた目を、今度は潤わせて頭を下げてくる。もうええわ。


「んじゃ、新しい武器も手に入れた事だし、私と手合わせでもする?」


 もげる勢いで上下に振っていた頭を止め、私の方を見て、息ぴったりに彼らは言ってきた。


「「よろしくお願いします!」」

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