第16話 宴の準備
「マジすか?」
「マジです」
戦地演習という他国合同催しの、しかも自分が私達に会ったら敗北の状況で狩りなんか行くか?
しかも民を連れて。
「これは私達どうすれば?」
王の付き人も汗をかいて対応を考えていた。
するとそこに、王の間の緊急脱出経路からサナー王と複数人の民が出てきた。
サナー王は長めの白髪と焼けた肌にガタイのいい身体をしていて、綺麗な真紅の眼をしている。豪胆な性格で、民と話している時もガハハと大口を開けて笑っている。
「なんだ、もう来てたのか」
よっこいしょ、と玉座に座り、民や付き人に腰を下ろすよう言った。
私は呆れながら言う。
「王が勝手に国民と狩りなんか行かないでください。しかも演習中に」
サナー王は持っていた麻袋から兎を取りだし私に見せてきた。
「そんな事より見ろアーサー。肉付きのいい兎が捕れたんだ!」
コイツはダメだ。
「あの、下で戦ってる騎士達に演習終了の合図をお願いしてもいいですか?」
サナー王をシカトして王の付き人にお願いをした。王は話を聞いてほしそうにしていたが、こんなふざけたやつは無視に限る。
「ゴホン、では通達致します。現時刻をもちまして、敵軍が王が接触。よって、戦地演習大規模攻城戦は終了いたしました」
サンクロス王国全域に付いている拡声器から王の付き人の声が響き渡る。それまで微かに聞こえていた外の戦闘音が鳴り止み、私と王の付き人は顔を見合せて肩を落とした。
バァン!――
王の間の扉が勢いよく開く。鎧が傷だらけのヴェヌス、殴られたような跡のあるマーズ、ソラを担ぐウミの4名が王の間に来た。
ウミ、ソラ、ヴェヌスの3名は王の前に膝まづいて頭を下げる。そしてマーズはというと。
「よぉサナー! 久しぶりだな!」
「おうマーズ! お前に負けねぇぐらい筋肉張ってるぜ」
2人でがっしりと腕組みをしてガハハと笑っている。このオッサンらは元サンクロス王国騎士の同僚らしく、マーズが訳あってサンファー国に行ったらしい。
元々仲が良かった2人は、今でもこうして会う度に再会を喜んでいる。
「演習が終わったあと、サンクロス王国、サンファー国軍両者には宿舎で待機を命じています。何か追加の命令はありますか?」
私はサナー王に指示を仰いだ。すると王はニカッと笑い私にこう言った。
「せっかく終わったんだ。これからサンクロス王国総員で宴を開こう!」
王はテキパキと従者に指示を出していく。私は王の性格を知っていたため、こうなる事をなんとなく予想していた。どうせこうなるだろうと。
そして王はおそらく次こう言う。
あ、あと破壊した街は全兵で復興しろよ。と。
「あとアーサー。壊していいと言ったが直さなくていいとは言ってない。派手にやったお前らをメインに全兵で街の復興しとけよ」
ほら。
「承知いたしましたー」
私はヴェヌスとウミ、ソラ、マーズに指示を出し、宿舎で待機中であろう全騎士、全兵士を上層に集めて宴の準備に取り掛かった。
後から聞いた話によると、この大規模攻城戦中のサンクロス王国国民は、開発途中で実験中の地下塹壕に皆避難していたらしい。なんでもその地下塹壕は結構広いらしく、国民を丸々入れてもまだ余裕があるほどだそうだ。
どおりで人っ子一人見つからないわけだ。
王の城を出て、ヤアマとカウワンの尻をひっぱたき、目の前に広がる半壊した王国と大量の国民を前にして、私は拡声器越しに彼らへ言った。
「いっぱい肉食うぞー!」
――――宿舎――――
「ドゥフフ、やはりロリ騎士長はいつ見ても可愛いですな」
「ええ、プルート聖騎士様のおかげで『ロリアーサー教』を広める土台が出来上がる。街の復興が落ち着いたら、我々で広めていきましょうぞ」
「「ドゥフフフフフフフ」」
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