第15話 大規模攻城戦終了


 王の城は意外と静かだった。外の戦闘音は聞こえるが、中からの声は聞こえない。私の鎧がスれる音と、コツコツと歩く足音だけが響く。


 だだっ広い城もこうして見ると、綺麗で細かな装飾や、内装の手入れが行き届いているのがよく分かる。


 デカい階段を登り、廊下を歩き、また階段を登り、そしてクソ長い廊下を歩く。


「おやおや騎士長様。おひとりで来られたのですか?」


 王の間へ続くクソ長い廊下の真ん中に居たソイツは、我がサンクロス王国騎士の中でも最高防衛力を誇る聖騎士。


 その男は獅子を模した兜に白銀の鎧を身に付け、背には赤いマントと赤くて丸い大盾を持つ。


「やっぱり最後はお前か『ヴェヌス』。マキュリーが下層に居た時から何となく分かってたけど」


 私は腰の黄金の剣キャリバーンを抜いて構える。


 彼が最高防衛力と言われているのには理由がある。それは、彼が守る人には傷1つ付けさせず、彼自身も膝をついたりした事の無い不屈の精神を持っているからだ。


 敵に屈しない限り、ヴェヌスは死んでも対象を守るだろう。敵軍の襲来や魔族の進行を、その折れぬ心と強靭な肉体で何度も守り抜いてきた。


「ガン盾は私から負けはしないだろう。でも王は目の前の部屋にいるんだから抜けられたらお前の負けだぞ」


 ヴェヌスは大盾をバシバシと叩き私を威嚇する。獅子の眼は真っ直ぐこちらに向き、絶対にここを通さないと言う意志が伝わってくる。


 私は彼に向かって突進し、盾を切り払う真似をし、そのままヴェヌスを無視して王の間へ走った。


 ジャリジャリ――!


 私の足に何かが絡みついた。その瞬間、ものすごい力で私は後ろへ引っ張られ床に叩きつけられた。


「んぐっ……、鎖かよ」


 ヴェヌスは大盾の内側に忍ばせていたであろう鎖を上手く使い、私の進行を阻止する。振り出しに戻ってしまった。


「簡単に行かせませんよ。助太刀とか来ない限りですけどね」


 コイツは倒さなければならない。と私は決めた。


 盾を構えるやつに対して勝つ方法はいくつかある。1つは盾を剥がす。もう1つは背後を攻撃する。これが一般的な攻略法だろう。


 しかし私は宝剣を持つ者。普通の人間ができない芸当が出来る。


「宝剣の力ってのは、1日1発とかなら負荷が無くて良いんだよ。でも何発も乱用すると身体に何かしら異常が出てくる」


「知ってますよ。魔族が攻めてきた時、あなた力を乱用しすぎてめっちゃアホになってましたからね」


 アホて言うな。


 でも確かに、一時的な知能の低下や身体機能の異常、人によっては力に飲まれて暴走する人も居る。だから決して乱用してはいけない。


 だがしかし、相手は最高防衛力の男。倒さず切り抜けることが出来ない今、力に頼るしかない。


やみはらひかりの――」


 バリィン!――


 詠唱中、廊下の窓ガラスが割れた。そこから侵入してきた男が3名。


「助けに来ました騎士長様」


「役に立たなくても、何かさせてください」


 剣を握り、ゼェハァと息を切らしている訓練兵2人。下層で私に喰らいつき、中層でマーズと合流させたはずの、青い目をした『ウミ』と緑色の目をした『ソラ』だった。


「門番は俺の精鋭達が相手しているだろう。ここも俺たちが変わる。だから早く王のところへ行って昼飯にしよう我妻よ」


 マーズは黒い大剣を肩に乗せて王の間をゆびさす。余計な一言が多くて腹立つが、助かったのは事実。


「遅せぇよ」


 私はヴェヌスの横を走って通り抜ける。鎖が飛んでくるが、ウミがその鎖を剣で弾き、私の後方を守ってくれた。


 マーズがヴェヌスの大盾目掛けて大剣を振りかざす。耳を突く轟音と、肌を揺らす衝撃が、この長い廊下を包み窓ガラスが全て割れる。


「行かせ……ない!」


 ヴェヌスはマーズの大剣を防いだ大盾を少しズラす。マーズは体勢を崩し、大剣を床へめり込ませてしまった。そしてヴェヌスは身体を思いっきり捻り、大盾を私目掛けてブン投げてきた。


 風を斬る音が聞こえるほどの速さで大盾は私に飛んでくる。私は一瞬後ろを振り向き、黄金の剣キャリバーンで弾こうとした。


「騎士長様は走ってください!」


 そんな私の前にソラが出てきた。訓練兵の彼ではこの豪速の大盾を止められないと思った。


 ギャリィィン――ッ!


 彼は驚く事に剣で大盾を防いだ。大盾は勢いが死に壁へめり込む。ソラの持っていた剣は粉々に砕け、彼も壁に吹っ飛ばされてしまう。


「コイツら最高かよ……!」


 目ざましいウミとソラの成長に身体が震える。しかし今は王の間へ。


 私は彼らにこの場を任せ王の間へ走った。


 重く閉ざされている王の間の扉を開けると、光の射す玉座と大量の黄金の装飾が私の目を焼く。


「おめでとうアーサー騎士長」


 そこに居たのは王ではなく王の付き人だった。


「あ、れ? サナー王は?」


 付き人は呆れた声で言った。


「サナー王なら民を連れて狩りに行きました……」


 ……はい?

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