第9話 マキュリーとの過去


  ――――5年前――――


 私がまだ騎士の鎧に着慣れず、歩くだけでも一苦労だったヒヨコ騎士だった時。晴れているこの日は城壁での守備に着いていて、私の周りの男達が、少しづつ私を騎士として認め始めた。


「アーサーはもう少し南の方を見ていてくれ」


 兵長に指示され、私は1人で南の方へ歩いていった。しばらく歩くとそこには数人の子供が居て、大勢で1人を取り囲むようにしていた。


「子供がこんなところに来てはいけないよ。下層に戻って広場で遊んでおいで」


 子供達を城壁から帰そうと話しかけるが、子供達は私の話を聞かずに1人を囲んで何か言っていた。よく聞くと、どうやら悪口を言っているようで、ブス、ノロマ、死ね、などの暴言を囲んでいる1人に対して言っていた。


 これは酷いと思い、私は子供達に割って入りいじめを辞めるように叱る。しかし子供たちは、「こいつが悪い」「親が人殺し」「ブスは死ね」などの罵詈雑言。


 いじめられている子は泣きじゃくっていて話ができるような状態では無い。


 カァンカァンカァン――


 どうしたもんかと悩んでいると、敵軍襲来の鐘が鳴った。


「ほら、怖い人達が来てしまったよ。ここは危険だから今すぐ逃げ――」


 豆粒のように見える敵軍から爆音がし、直後、空から高速でこちら向かってくる物体があった。


 私は子供達の避難よりも、その飛翔体がこちらに到着するよりも前に斬り落とすことを優先した。目視で感じた着弾地点は、私の立つこの場所。


 慣れない鎧を着たまま子供たちを守り、なおかつ飛翔体も斬り落とさなければならない。この時の私にとっては結構ハードだったが、やらなければならない。


「下がっててね」


 さすがにいじめていた子達も危険だと思ったのか、叫びながら城壁から逃げていった。


「あ、あああ足がううう動かな……」


 いじめられていた子は腰が抜けわんわん泣いている。


 私は目前に迫る飛翔体に向け、黄金の剣キャリバーンを抜く。斬るイメージは済んでいる。


「頭下げててね!」


 後ろの子供は身をかがめる。


 ズババババ――ッ!


 飛翔体を8等分。回数にして4回の切断で勢いは死に、飛翔体は城壁の上に落ちた。下層への被害はなく、後ろの子供にも怪我はなさそうだった。


「大丈夫? おうち帰ろっか」


 私はその子を抱きかかえて兵長の所へ向かった。


「お、おいさっきの大丈夫だったかアーサー」


「多分大丈夫っす。あと、この子送り届けるんで、一旦守備から外れます」


 兵長は頷いて他の騎士達に指示を出し始める。私も早く守備に戻るために、急いで城壁から降りた。


 下層に着き、抱えている子に住んでいるところを聞いた。しかし様子がおかしい。先程ギャン泣きしていたとは思えないほど落ち着いていて、腫れている目は真っ直ぐに私に向いていた。


「好きです」


 はい?


「ええと、城壁内とはいえまだ危ないからさ、おうちはどこかな?」


「アタシの名前はマキュリーです。年齢はまだ12歳ですけど、きっと騎士様に見合う女になってみせます!」


 レズビアンなのかな?


「私、女なんだけど……」


「騎士様女の人なんですね! どおりで小さい背と可愛らしい声をしてらっしゃる! 兜から漏れ出ている綺麗な金髪といい匂いがアタシを捕らえて離しませんよ!」


 うわぁ。


 コイツはヤバいと思い、適当な安全地にマキュリーを置き、私は城壁の守備へ急いで戻った。


「必ずおそばに行きますからぁ!」


 これがマキュリーとのファーストコンタクトであり、彼女が騎士を目指す理由になったそうだ。思い返してみても最初からヤバい女だな。

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