第10話 騎士長vs狂騎士


 あれから5年。マキュリーは17歳になり、私は22歳となった。2代目アーサーなんて言われながら成長していくマキュリーを見て、私は彼女のポテンシャルを少し羨ましく思った。


 私の前では変なヤツでも、これでも一応他の騎士達からの信頼は厚い良いヤツだ。


「早くアタシと結婚してくださいよ騎士長様ぁぁ!」


 いや、やっぱりいつでも変なヤツだ。


 長いハルバードを軽快に振り回し、地面や家を削り壊しながら私へ猛攻を繰り出す。レンガの道や壁でもお構い無しのこの馬鹿力。女のくせに聖騎士に選ばれるだけはある。私も女で騎士長だが。


 マキュリーの戦闘スタイルは、なんと言ってもその猛攻。狂ったように戦い、狂ったように敵に執着する。まさに狂騎士バーサーカー


 防御を捨てた彼女の攻撃は反撃の隙など無く、この私が攻めきれていないのが、彼女の猛攻のヤバさを物語っている。


「守ってばっかじゃダメですよぉ! でも騎士長様の処女はアタシが頂くまで守ってくださいねぇ!」


 やかまし。


 長物持ちは懐に入ると途端に弱くなる。ハルバードの利点はリーチと突き刺しによる槍のような戦い方と、力と重力で加速する斧部の破壊力だろう。


 私はマキュリーの大振りな攻撃が来るまで耐え忍んだ。


 縦、横、斜め、前、あらゆる方向からマキュリーのハルバードが私を捉える。


「いい加減当たってくださいよぉ!」


 来た。大振りの振り下ろし。


 重く鈍いその一撃を私は半身引いて避ける。ハルバードは地面をえぐりながらめり込む。この好機に乗じ、叩きつけられたハルバードを足蹴にしてマキュリーの方へ飛んだ。


「これが欲しいんだろ!」


 私は鞘に収まる黄金の剣キャリバーンでマキュリーの頭をぶっ叩いた。


「んほおぉぉ!」


 マキュリーはその場に倒れた。コイツはこんなんじゃ倒れるようなヤツでは無いのに、ビクンビクンと痙攣しながら倒れた。


 まじキモイなコイツ。聖騎士じゃなくて性騎士になれよ。


 転がるマキュリーを1回蹴り、ドンパチ派手にやっているやっている中層へ私も向かう事にした。


「行かせませんよ騎士長様!」「ここは通しません!」


 騎士や兵士が私の進行を止めて来た。実力が上の相手に対し物怖じせず立ち向かい、自分の役割を全うする。王のため、国のために仕える者としては100点の行いだろう。


 しかし。


「120点を叩き出さないと、このままにもなれないぞ!」


 私は愛あるムチで立ち向かう者達をビシバシしごいた。



 ――――???――――


 とある暗がり。


「やはり信じるものはロリ騎士長殿だけですな」


「いやいや、マキュリー聖騎士殿もなかなかに捨てがたいですぞ」


「は? あのロリこそが正義だろうが!」


「テメェ、あの陰キャの良さが分かんねぇのか!? あれは2人になるとドスケベになるやつだろうが!」


 くだらない争いをしている騎士が2名。そこに。


「僕はどっちも好きだよ」


「「『プルート』聖騎士殿!」」


 プルートと呼ばれる男は彼らと肩を組み囁いた。


「君達のそれは信仰に近いね。信者を集めて宗教を作るといいよ。僕はどちらも応援するし、必要なら支援もするさ」


「「あ、ありがとうございます!」」


 戦地演習の真っ只中、2つの宗教が誕生した。

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