第5話 騎士長vs弓兵長②
矢を無駄使いしないためか、はたまた狙撃位置を変えているのか、足元の矢以外は無闇に撃ってこない。彼にとって1番避けたいことは接近戦であり、相手が私ならなおのことだろう。
私は兜を被っていて一撃で仕留められる可能性は低い。じっくり時間をかけ消耗させてから仕留める気なのだろう。
矢は基本的に貫通力の高い武器として有名だが、何も生身に当てるだけの使い方が正しいわけではない。貫通力が高いという事は、その分大きな力で矢を放っているという事になる。矢を通さない鎧を着ていたとしてもダメージはある。
彼もバカではない。矢を無駄使いすること無く、的確に私にダメージを与える方法を考えているだろう。
私は遮蔽物が多い林の中へ身を潜めるため、先程矢が飛んできていた所へ駆け出す。
「な、なんとアーサー様! 先程矢の飛んできていた場所へ自ら飛び込んでいきました!」
「遮蔽物確保と近接戦闘を考えて林の中へ飛び込んでいるなら、この行動はナンセンスだなアーサー」
「と、おっしゃいますと?」
「アーサーは今長い槍を持っている。林の中では確かに矢から身を守れるが、逆に自分も武器によるアドバンテージを失ってしまうという事だ」
「これでは距離があるピターが有利になっている! 一体アーサー様はここからどんな戦いをしてくれるのでしょうか」
そんなことは百も承知だ。だから私もじっくり戦う。
ヒュッ――
林の中では方向感覚が分からない。矢がどこから飛んできているのか判別するのは至難の業だ。
ヒュッ――
2本、3本と矢が飛んできている。分かることは、これらの矢は一方向から飛んできている訳では無いという事。
私が今遮蔽物にしている木のちょうど真裏に2本目の矢が刺さり、そこから少し左にズレて3本目の矢が刺さっている。
おそらくピターは私の右手側に回るように矢を放っている。つまり私がとるべき行動はこうだ。
「おや? アーサー様、何やら特殊な槍の持ち方をしていますね。マーズさん、これはどういった考えの行動なのでしょうか」
「これは投擲の構えだ。槍というのは長い分重く、剣よりもリーチがあって近接戦闘では剣よりも敵に攻撃を与えやすい武器と言える。それを林の中位置も分からない弓兵を槍投げで対処するとは。何を考えているんだか」
「いや分からないんかい!」
槍を投げて対処する、というのは少し違う。正確には……。
ヒュッ――
「そこだな」
ビュッ――!
ベギャッ――
私の投げた槍は1本の木に当たり破裂した。木には亀裂が走り、ミキミキと音を立てて崩れ始めた。その木の裏に、慌てて駆け出す人影が1人分。
そこへ私は彼よりも早く駆け出す。
彼は私を近づけさせまいと弓を引き絞る。
弦がくの字に曲がり絞りきったところで彼は矢から手を離す。放たれた矢は私の眼前に迫り、矢じりの先が見えるまでに私は集中していた。
ガギィィン――
「おおっと! ピターの放つ矢がアーサー様を捉えた! 兜が矢を通さないとしてもこれは大きなダメージだ!」
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