第4話 騎士長vs弓兵長①


 私はピターの特徴や戦闘スタイルなど一切マーズから聞いていない。完全初見でサンファー国軍弓兵長を相手にする。


 戦うことが好きな私にとって、超ワクワクする状況というわけだ。


 おそらくピターは私の実力を図るため、簡単に殺そうとはしてこないだろう。弓兵の特徴としてまず、相手を一撃で仕留める事はしてこない。なぜなら、彼らの役割は敵の数を減らすことではなく、敵の動きを封じることだからだ。


 確かに一撃で敵を仕留められるのならば話は早い。そんな弓兵を育てるのに何年も何十年もかかってしまうため、彼らの役割が足止めや牽制になってしまうことが多い。負傷者を増やし進軍を妨害、あわよくば殺して戦力削減する。縁の下の力持ちが彼らなのだ。


「さてやって参りました、広域修練場兼闘技場からの放送です。皆さん、今回は大大大ゲストがチャレンジャーだ!」


 ここにいる管理者の仕事は主に2つ。修練場内の点検と闘技場の運営実況だ。もちろん騎士達や訓練兵が修練している時はこんな実況はしないが、闘技場としての運営に切り替わった時、彼の仕事も切り替わる。


 闘技場は賭場としても機能しており、闘技者人数と実力に応じた換金倍率で各々賭けを楽しんでいる。


「国民の皆様、急いで闘技場へ足を運んでください。でないと我らがロリ騎士長アーサー様の勇姿を見る事が出来ませんよ!」


 もちろんこんなつもりでピターをここへ呼んだ訳では無い。あとロリっていうのやめろ殺すぞ。


「ガハハ! 今日はアーサーの夫、この俺マーズさんもいるぞ!」


 うおおおおぉぉ!!――


 拡声器の奥で騒ぐ変態と馬鹿どもの声が聞こえる。


 私は足元に落ちていた剣ほどの大きさの枝を握りしめて、少し遠くに見える管理者室へ思いっきりぶん投げた。


「ひっ! み、皆様奮ってお越しくださいね……」


 いい感じのところへ飛んだようだ。


 欠けている月が雲で隠れ、夜の闇が広域修練場を包み込む。辺りに遮るものはなく、弓兵にとって私は今絶好の獲物になっているだろう。


 ヒュッ――


 私の右前方の林からかすかに聞こえる風切り音。矢は私の足元に突き刺さり、ピターから私が見えていることを知らせる。


 次弾に警戒して槍を構える。


「挑戦者の矢が騎士長アーサー様の足元に! 挑発にも受け取れる舐めた矢を撃ち放ったのは今回の挑戦者、サンファー国軍弓兵長のピターだ! あ、実況は私『コロナ』、解説にはゲストのマーズさんでお送り致します」


「対戦は始まったばかりだ! 我妻アーサーと我が軍最強の弓兵の喧嘩を見逃すなよ!」


 あの変態は後で必ず殺そう。

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