第3話 演習前夜
「さて、本題の戦地演習だが……」
マーズの兵士が1人近づき、1枚の紙を手渡してきた。そこには汚い字で「愛してるぜアーサー」と書かれていた。
「早く出せ」
即座に紙をビリビリに破いて捨ててやった。マーズはしょげた顔をしながらもう1枚紙を渡すよう兵に命じる。
内容はこうだ。
今回の戦地演習は大規模な攻城戦を想定した両国協力演習である。なお今回の演習で力を伸ばして欲しいのは一般兵と訓練兵であり、サンクロス王国騎士長アーサー、サンファー国軍隊長マーズの両名と、彼らが選出した精鋭は敵国役として演習に参加してほしい。有意義な時間になるよう私も応援している。
追伸。マーズとアーサーはさっさと付き合え。
サンファー国国王『ムーンライト』
「内容はわかったけど、このふざけた追伸はお前が書かせたのか?」
マーズは目を逸らして後方の兵士たちを盛り上げている。私はいつか必ずコイツを殺してやると誓った。
――――サンクロス王国騎士宿舎――――
「サンファー国軍の皆はこの宿舎に泊まってもらう。もう日も沈んだし、ゆっくり休むといい」
客人兼協力者の彼らはしばらくの間ここに寝泊まりしてもらう。演習の概要や人の割り振りは伝え、各々には休息と作戦会議をするよう促した。
敵役の私とマーズ、それと選出した両国の精鋭10名は修練場にある噴水近くに集めた。
「さて、明日から本格的に演習開始だが、開始前に聞いておきたい事とかあるか?」
1人の兵士が手を挙げた。
「君名前は?」
「『ピター』です」
サンファー国軍弓兵長ピター。高めの身長で10代に見える彼は青い衣服にフードを被り、大小の弓と2種類の矢を持っていた。
「なぜ大規模な攻城戦を想定しているはずなのに、こちらの勢力は12人なのでしょうか。確かに隊長は強いですけど、大規模になるほどの力ありますか?」
良い質問が来た。確かに大規模という想定なのにこんな少数で敵役がつとまるのか。もっともな意見だ。
たかが人間の、たかが少人数。しかし甘く見てはいけない。
「私とこの変態は知っての通り、国力の要なのは理解していると思う。身をもって体験してみる? マーズを圧倒するほどの力」
後方で腕を組んでいたマーズや他の騎士達が私の言葉を聞いた途端目をガン開きした。キモイからこっち見んな。
「侮っているつもりはありませんが、その実力、ご教授願いします」
私はピターを広域修練場へ案内した。
――――広域修練場――――
ここは主に弓兵や槍兵が武器を使って修練する場所で、実戦時の感覚や戦闘法などを再現するため、高低差や水、森林といった環境が作られている。
この広域修練場は城壁西門から少し歩いたところにある大きな建物で、闘技場の役割も兼ねて運営されている。
入口には騎士数名と管理者の『コロナ』が仕事をしている。
「ここでは君の得意な距離を武器にして戦うことが出来る。もちろん不意打ちや潜伏も構わない」
ピターは「分かりました」と一言。小さい方の弓を握りしめて、この広い修練場へ消えていった。
私はその少し後にここへ入り、彼をビビらせるのが今回の目標というわけだ。
「アーサーよ、あまりいじめてやるなよ」
マーズはニヤリと笑った。
私は兜を被り、近くにあった訓練兵用の軽い槍を掴む。
「トラウマ与えてやるさ」
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