第2話 戦地へ


「アーサー騎士長、東門及び南門から『サンファー国軍』が接近中です」


「分かった。訓練兵を含む全王国騎士は4対6で分散して、壁の薄い東門には6割の人間を当てろ」


 サンファー国軍は隣国の兵士達だ。彼らはこの『サンクロス王国』と深い因縁がある。彼らなりの正義を持ち、命をかけて挑んでくるからには、こちらも全力で答える。


「比較的壁の厚い南門は私が前線に出る。東門には『マキュリー』を連れていくといい。きっといつものように暴れてくれるさ」


 マキュリーは王国騎士の中でもなかなか頭のおかしい女だ。私と同じく力とパワーのみで男尊女卑を蹴散らし、男顔負けの戦果をあげる優秀な騎士だ。


 普段は大人しくオドオドしているが、戦いとなると人が変わったかのように暴れる。私はこれを、狂騎士バーサーカーと呼んでいる。


 私は自身の剣を腰にさげ、兜を脇に挟んで南門へ向かった。



 ――――サンクロス王国南門――――



 仰々しい旗を掲げたサンファー国軍がジリジリと向こうから迫ってきていた。ならばこちらもと思い、私は4名の旗手を騎士達の前へ呼んだ。


「お前らいいか、私が突撃して行った後に、うぉぉぉとか言って突っ込むんだ。くれぐれも私と同じタイミングにやってくれるなよ?」


 なぜなら、私は単身で敵を蹴散らしたいからだ。味方が同じタイミングで突っ込んだら、私の楽しみが減ってしまう。


 しかし旗手たちは皆呆れた顔で見てくる。


「騎士長、本来あなたは後方で指揮をとる方なんですよ。毎度毎度兵長に怒られる我々の身にもなってください……」


「そうだそうだー!」「騎士長やめてくださいー!」「ロリ騎士長ー!」


 旗手たちに続き、後ろの騎士達からも同じようなヤジが沢山飛んでくる。あと不敬なこと言ったやつは後でぶっ飛ばそう。


 だんだんとサンファー国軍が近づいてきた。


「戦場はいつものあの平原だ! ヤツらを撃退しろ!」


 うおおぉぉぉぉぉ!!!――


 号令で士気は爆上がり。私は黄金の剣キャリバーンを引き抜いてサンファー国軍が進軍している平原へ突撃した。



 ――――南の平原――――



 重くて暑い鎧もこの時だけは私に力を貸してくれる。動きが損なわれないよう可動域が広いのに、刃を通す隙間もない完全防護。サンクロス王国騎士長の証たる赤いマントには、我が国を象徴する太陽の紋様が縫い付けられている。


 門前では豆粒のように見えていたサンファー国軍も、ここまで来れば人の形に見えてくる。


 私は狼を模した兜を被る。


「ァァァァアアアアサァァァァ!!」


 ものすごい速さでこちらに近づいてくる男がいる。そいつは黒く大きな大剣を肩に担いで、軍ではなく私に向かって突撃してきていた。


「相変わらずデカイな『マーズ』! 身体がデカけりゃ杖も大きくなるか!」


 眼前に迫ったマーズは黒く大きな剣を天に掲げ、そのまま私の脳天目掛けて振り下ろしてきた。私は大剣の腹を自身の剣で打ち軌道をそらす。地に叩きつけられたマーズの大剣は轟音と衝撃を辺りに巡らせる。


 マーズは胸当てと膝丈の足具しか防具をつけない変態だが、戦闘力は本物。身の丈以上の大剣を軽々振り回し、こちらの軍を何百人も蹴散らしている。


「お前も変わらずヒョロいなアーサー! 『白銀の狼』も今日で辞めて、もっと太って俺好みの女になれ!」


 コイツは剣を打ち合う度に私を求めてくる変態だ。そもそもコイツは64のオッサン。対して私はピチピチの22歳。どう考えても不釣り合いだし、私はもっと若い男がいい。


 マーズは地面にめり込んだ大剣を引き抜いて構え直した。私も1歩身を引き剣を構える。


 うおおぉぉぉ!!――


 私とマーズの後から着いてきた騎士達が追いついてきた。彼らもぶつかり合いそこらじゅうで金属と金属のぶつかる音が鳴る。


 はずが。


「お前ら、何してんだ!」


 騎士達は私の後方で座り兜を脱ぎ始めた。武器に関しては最初から握ってすらおらず、数百の騎士が皆草の上で談笑している。


 驚くことに、サンファー国軍の兵士たちも同様で、皆武装をやめて草の上に座り始めた。


「だってこの『戦地演習』、いっつも騎士長とマーズさんの夫婦漫才じゃないっすか」


「演習だからと気を抜くな……。あとお前は後でぶっ飛ばす」


 手のかかる騎士共と、隣国サンファー国との戦地演習が始まった?

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