第6話 幕引き


「いや違う。アーサーをよく見ろ」


 狼を模した私の兜は口の部分が稼働する。刃や拳を受け止めるため、私が鍛冶屋に依頼した機能あそびだ。


「これはすごい! アーサー様の兜が矢を噛み止めています!」


 ピターは目を見開いている。しかしさすがと褒めるべきか、彼も人の上に立つ実力を持つ男。私の動きに物怖じせず次の矢をつがえていた。


 私はまだ彼に1歩届かない距離にいた。おそらく彼なら1歩の差でも私をブチ抜けるだろう。だから私は、兜が咥えている矢を握った。


 矢をつがえ弓を引き絞っているピターに向けて、私は矢を投げた。


「うぐっ……、僕の勝ちですね騎士長さん」


 私の投げた矢は彼の足に刺さったが、彼は弓を絞るのを止めなかった。くの字に張っている弦の力が矢に乗り、その力は私へと放たれた。


 私はピターの腕を信用している。だからこそ、彼に対してしか出来ないような回避を行った。


「な、なんだあの動きは! 皆さん、見る事は出来ましたか!?」


「アーサーはピターが矢を受けても撃ってくると確信していたのだろう。彼が矢を放つ前にアーサーは右へ旋回していた。『白銀の狼』とはよく言ったものよ」


 言うは易し行うは難し。実際私もこんな無茶な動き常にやっている訳では無い。しかしこうしてピターの懐に入り込めた私は、彼の胸ぐらを掴み、地面ではなく近くの木に向けてブン投げた。


 背中から木に激突したピターは地面に倒れ、よろよろと立ち上がった。フードで顔は見えないが、まだ戦えると訴えているような気迫を感じた。


「まだ認めてないわけか。ならばいいだろう、このサンクロス王国騎士長アーサーの本気の一撃を見せてやろう」


 あえて抜いていなかった腰の剣を引き抜き、上段に構えて呼吸を整える。


「まじかよアーサー……!」


 拡声器越しにマーズの焦り声が聞こえた。しかしこうでもしないと彼は認めないだろう。私が一国の最高戦力である事を。


「『くすぶかげとなる。そのかげものは、まこと勝者しょうしゃ強者きょうしゃなり』」


 黄金の剣キャリバーンは闇の中で強く美しく輝き始める。


 幼い日の私は知らなかったが、この黄金の剣キャリバーンは『7つの宝剣』と呼ばれる特別な武器だった。宝剣が持つ者を選び、持つ者は強大な力と英雄としての運命を決定づけられる。


 そして宝剣は持つ者の呼び掛けにより、世の理にすら反する力を振るう。


「『地を断つ焼照の一振プロミネンスレイ』ッッ!」


 周りを明るく照らす黄金の剣キャリバーンを、私はピターの横へ振り下ろした。剣の風圧だけで地面にはスッパリと切れ目が入り、その切れ目はどこまでも続いていく。


「逃げるよん」


 呆けていたピターを担ぎあげ、私はその場を離れる。


 直後、地面の切れ目から爆発と爆炎が立ち上り、林を焼き払う。そして、雲で隠れていた月が顔を出すほどの爆風が巻き起こる。


 離れた場所からそれを見ていたピターや、広域修練場に賭けをしに来た国民は皆絶句。実況すら「あ……、あ……」など声にならない声を出していた。


「これで私が大規模な攻城戦ができるって分かってくれたかな?」


 ピターはビビり散らかしながら私を見て、首がもげるんじゃないかってぐらい首を縦に振っていた。


 戦地演習の前夜祭にはとても良い余興だった、と私も満足だった。


「こ、これにて騎士長アーサー様と弓兵長ピターによる戦いは終了します。み、皆さん、目に焼き付けましたね?」


 ドン引きしながら幕引きするな。私だって女の子なんだぞ。

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