第2話 熱い胸の思い

 ここは雲の上の世界の神殿

 リンや来い

「は~い神様。くるくるリンただいまきたりん」

 良く来たリン。

 今下界では、多くの人間共が溜息を付いている

「う~ん。競争社会は厳しいりん」

 それでな。うっとおしくて昼寝もできん

 リン、いっちょ下界に行って人間共の溜息を黙らせてこい

「了解りん」

 くるくるリンは、こうして下界にくることになったのであった。


 僕は、彼女のことが好きでたまらない。

 ドットムラもなく染まるクリアブラックの黒髪。

 その髪がハイポリマファイバーのように、さらっと腰まで流れている。

 ああ、あの髪に一度でいいから手櫛を入れてみたい。

 きっと何の抵抗もなく、さらっと指が流れるんだろうな。

 彼女の魅力は、髪だけじゃない。

 あの瞳。ドール職人が魂を込めて焼成したような歪み無い瞳。

 あの瞳に見詰められることが出来たら、それだけでイけてしまう。

 小さく閉じられた口から見える、囓りたくなるイチゴのような唇。

 甘噛みしたくなる耳たぶ。

 僕は授業中だというのに、田部 代さんから目が離せない。

 彼女の席が、僕の席の前側にあって良かった。

 もし後ろだったら、授業中彼女の姿が見れなくて狂ってしまう。


 今日も学校が終わってしまい家に帰り着いた。

 机に付いた僕は引き出しからクラスの集合写真を取り出す。

 ちっちゃく映っている 田部さん。

 本当にどうしてしまったんだ。

 勉強は手に付かないで、彼女の感触ばかり想像してしまう。

 このままじゃ、僕は駄目になる。

 分かっていても この青い衝動は胸を張り裂ける程に渦巻く。

「はあ~、僕の胸は張り裂けそうだよ」

「どうしたりん?」

「うごっ」

 急に開かれた引き出しに僕は吹っ飛ばされた。

 苦しい腹をさすりながら机を見れば

 何の捻りもなく引き出しから出てくる女の子がいた。

 なんだ、未来のアイテムで僕を助けてくれるのか?

「君は誰?」

「わたし、くるくるリン」

 彼女は、凄く可愛い。僕の脳内メモリは凄い勢いでリンちゃんの画像データが増殖してフリーズしてしまう。

 田部さん浮気してご免なさい。でもこれは恋と言うより、子犬を愛でるような感情です純粋に可愛いです。

「溜息付いてどうしたりん?」

 これだっ。直感で僕のOSは再起動した。

 ここで悩みを打ち明ければ、きっと助けてくれんだ。

 不思議美少女が机から前触れ無く表れる。

 何か不思議な力で助けてくれる。

 よしんば失敗しても、慰めてくれる。

 このパターン以外無い。

「実は好きな子がいるんだ」

 それから、僕は3時間程リンちゃんに蕩々と彼女の魅力と僕の思いを語った。

「わかったりん。彼女に想いを伝えるりん。それで溜息は解消」

 リンちゃんは気のせいかちょっと鬱陶しそうに言う。

「それが出来れば苦労しないよ。リンちゃんが、何か魔法で助けてくれるんじゃないの?」

「甘えたこと言ってじゃね~ボクンラ」

 スコーンと抜けるような張り手を喰らった。

 左、左斜め後方、真後ろ、右斜め後ろ、右。

 パノラマのように自分の周りの風景をくるっと連続視聴して、再びリンちゃんに向き合った。

「そういうことは、自分で言わないとだめりんこ。

 分かったりん?」

 僕は、リンちゃんのめっとする可愛い怒り顔に全力で肯いた。

 カクッ。

 はれ?下を向いたら、そのまま自分の胸に顔がくっついちゃった。

 わ~いびっくり人間もびっくりだ~。


 次の日の放課後

 僕は田部さんを校舎裏に呼び出した。

「ねえ首大丈夫?」

「はは、ちょっとしたむち打ちだよ」

 今の僕は、首の骨が治るまでギブスで固めている。

 360度回って骨が砕けただけで呼吸も出来るし食事も出来た。ただ首が固定されていないと不便なので医者に行ってギブスを頼んだら、なんで生きているのと医者は驚いていた。

 まあその内直るだろう。

「そう。

 それで何か用なの、門司君?」

 言わなきゃ、この胸の奥に渦巻く想いを言わなきゃいけないのに。

  苦しい、鼓動が早くなり顔が真っ赤になる。

  体じゅうから、思春期臭のする汗が滲み出てくる。

 ああっ彼女を思う、熱い血潮が渦巻いて胸が張り裂けそうだ。

  これを口から吐き出せばいいのに、口は閉じてしまう。

「ねえ、どうしたの?」

 田部さんが、あの瞳でこちらを心配そうに見る。

 このこの、胸の気持を……。

 言うぞ。言うんだ。

「はあ~」

 エンストした車の如く僕の口からは熱い思いで無く溜息が漏れた。

 言えない。昨日リンちゃんにあれほど脅されたのに言えない。


「くるくるくるくる」

 僕がひたすらもじもじしていると、前方よりリンちゃんが

  テーマソングを口ずさみながら、表れた。

「くるくる リン」

 吹き荒む風と共に悪魔が、ピンクの悪魔がやってくる。   

  やって来てしまう。

「何この子? でも可愛い~」

 声に振り返ってリンちゃんを見た田部さんは女子特有の子猫でも見たように叫ぶ。

 リンちゃんは、田部さんを避けて僕の前まで来るとニッコリ笑う。

「あなたのお願い叶えます。

 門司さん、あなたのお願いなんなのりん?」  

 ああ、ピンクの悪魔とか言ってご免ね、リンちゃん。

 最後には助けてくれるんだ。

「この張り裂けそうな胸の思いを伝えたい」

「その願いかなえるりん。マジック青龍刀」

 僕の願いに答え光り輝き天使の姿となったリンちゃんの手に刀身が虹色に輝く青龍刀が握られた。

「ズバッと、斬り裂けな」

 一閃、僕の胸はすぱっと切り裂かれた。

  ずばーーーーと、血が十連ガチャの勢いで吹きだした。

 ああ、すっきりする。

  胸に渦巻いていたものが、みんな吐き出されていく。

 僕の熱い胸の血潮を受けて体中を真っ赤に染めた田部さんが僕の方を真っ直ぐ見た。

「門司君、あなたの胸に秘めた熱い思い確かに伝わったわ」

 え、それじゃ。

 バサッと、真っ赤な髪が下に垂れた。

 僕は初めて、田部さんの綺麗に渦巻くうなじを見れた、感激。

「ごめんなさい。あなたの思い濃すぎて私では受け止められません」

 言うが早いが田部さんはワープ並の速度でいなくなった。

 ふられてしまった。

 でも胸の内を全て吐き出して、妙にすっきりしている。

「ところで、リンちゃん一つ聞いていい?」

「な~にりん?」

「僕出血多量で死んじゃわない」

「だいじょうぶりん。天使は人を絶対殺せないりん」

「安心した」

「じゃあ、願いは叶えたりん」


 それ以来、僕は胸の内を吐き出せる男として明るくなった。

 そう言いにくいことがあっても、胸を開けば大丈夫。

 真っ赤な血潮が思いを伝えてくれる。

 ただ女子には告白しても、思いが熱すぎるとふられてばかり

 でも、もう溜息はつかないよ。

 つくもんか。

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