婚約者にキレられる
怒られが発生すると思ってたのにステキな告白をされた。
バルバラはずっと夢見心地だった。部屋に帰ってか枕にぎゅっと顔を埋め「好きーーーー!!」と叫ぶやつもやった。もうメロメロである。
麗しの彼にあんなふうに言われて断れない女はこの国にはいない。子供の頃はなんとも思っていなかったけど(子供嫌いだから)成長した彼はとても素敵だった。
バルバラは純粋な好意を正面から受け取るタイプである。自分のことが好きな人が好きなのだ。
「いや参ったな〜!あたしは全然そんな気なかったのにな〜!普通にしてただけなのにな〜!こ、困っちゃうな〜!そんなつもりじゃなかったのにな〜!」
と、ニヤニヤエヘエヘした。
さすが悪役令嬢の世界というか。転生前ならあんな見目麗しい人と付き合えるなんてまずない。
付き合えたとしてもコンプレックスや浮気の心配などが邪魔をして、平穏な付き合いはできなかっただろう。
しかし今はバルバラも御伽話のお姫様みたいに美しいので問題はなかった。異世界転生サマサマである。
転生前に付き合っていた彼の見た目も好きだったけれど、それはそれ、これはこれだ。生まれ変わってしまったし、操を立てる義理もない。
「夫婦、夫婦か〜……」
目をつぶればドレイトンの顔が浮かんだ。転生してから、こんなに心が躍るのは久々だ。初めて魔法を見た時以来である。
妃教育をサボりまくっていたが、彼のためにきちんとしてやっても良いと思うのだった。
◯
それからバルバラはしばらくご機嫌だった。恋の始まりみたいでワクワクした。
「バルバラ様、何か良いことでもあったのですか?」
「藤の花が綺麗に咲いていますわ」
「んふふ。え〜わかっちゃいますか?実は色々あって……」
「もしかして、かの方と何かあったのですか?」
「まさか殿下と?教えてくださいな」
最近できたバルバラと取り巻き、パメラとアリスも彼女の異変に気づく。少女達は恋の話に興味津々で、キャッキャとはしゃいだ。
「あら皆さま、ごきげんよう」
「おはようございます」
「おはようございます、アスター先生、フリードキン先生」
先生達とすれ違い、彼女達は挨拶をする。
アスター先生はブルーのピアスをつけていて、フリードキン先生は同じブルーの石の指輪をしていたことにバルバラは気付いた。
「えっ、もしかして、あの2人は婚約か結婚されているの?」
「さあ、そのような話は聞いていませんけど」
「バルバラ様はどうしてそう思ったのですか?」
「お揃いのアクセサリーをつけていたの!あの2人は絶対デキてる、匂わせだ……!」
バルバラはコショコショ噂話をするみたいに話した。恋愛脳になっているためこの世の全てがそう見えてしまっているのだ。彼女はとても単純だった。
「え……」
「あ、えっと……?」
恋バナが好きな2人も一緒になってはしゃいでくれると思ったが、令嬢2人はシン……と静かになってしまった。言葉を選ぼうとして出てこないみたいに固まっている。変な空気になってしまった。
「あれ、あたし何か変なこと言った……?」
別に変なことは言っていないはずだ。若い男女の先生達がお揃いのグッズをつけていたら「え、絶対デキてんじゃん〜!」と囃し立て騒ぐのは特に変なことではないはず……
そういう学生ノリの一つだとバルバラは思ったのだが、彼女達には通じなかったのだろうか。
「い、いえ!別に変なことではありませんわ。それよりも殿下とのお話をお聞きしたくて」
「え、ええ、ええ、わたくしもそう思っていたところでしたの!続きをお聞かせくださいまし」
「あ、そっちね。いや、別に何か特別なことがあったとかじゃないんだけどぉ〜」
バルバラはドレイトンとの話を再開した。まあこの子達は令嬢だし、転生前のJKのノリとはまた違うんだろうと思った。
価値観が違えば話のノリや空気感は違う。付き合っていくうちに相手のことを知っていってすり合わせていくものだ。少し面倒だけど、友人との付き合いはそういうものだし。
バルバラは「今日かおりに話す話題ができた」と思ったくらいで、特に気にとめもしなかった。
◯
「こんな話を耳にしたんだけど」
バルバラはドレイトンと2人きりでお茶を飲んでいた。彼女は(今日も殿下は素敵だなあ)と思いながら目をハートにしている。
「話ですか?」
「うん。君が妙な噂を流しているって話」
「え?」
バルバラは身に覚えがなかった。はて?と頭にいっぱいハテナマークを浮かべる彼女を見て、ドレイトンはため息をついた。
「先生方の噂だよ。アスター先生とフリードキン先生が不義の仲っていう根も葉もない噂。流したのはバルなの?」
ドレイトンの声は冷え切っていた。この間、編入生をいじめていたご令嬢達を見る目と同じ目をしている。
「え」
「やっぱり、君だったんだね……噂の出所を探したらバルに辿り着いたんだよ。どうしてそんなことをするの?彼らに恨みでもあるの?」
「いえ、決してそのような」
「アスター先生には婚約者がいるし、フリードキン先生には奥様がいるんだよ。変な噂が流れたら彼らはどうなるか。最悪罰を与えなければならない」
「え……は、え?」
「当たり前だろう」
「あ……申し訳ありません、そんなことになるとは思っていなくて……その、ちょっとした軽口のつもりで……」
「はあ……悪気がないのはわかった。でも未来の国妃として今後は軽率な行動は慎むように。今度、聴聞会が開かれるから、その時に僕から説明しておくよ」
「聴聞会……」
学生によくあるおふざけだと思っていたのに、それがこんな大事に発展してしまった。バルバラはわかりやすくションボリした。頭のお花も萎れている。
「バル」
「ひゃい!」
ドレイトンにぽふんと背中を叩かれた。
「そんな顔しないで、君が悪気はないってわかっているよ。心はチグハグになっていないし」
「あ、あ、はい」
「友人とコミュニケーションを取ろうと思ってやりすぎてしまったんだよね。次は気をつけよう。ね!」
「あう、すみません」
「まあ、僕がき真面目すぎるから、王妃は少し自由なのがちょうどいいのかも。柔軟な人は国に必要だしね」
「殿下……つまり私たちって相性ピッタリってことですか?」
「持ち直すの早いな……」
「もう誰と誰がデキてるとか、低俗な恋バナはいたしません!」
バルバラは自分を賢いと思っているしば犬みたいにキリッとした顔になり、2度と間違わないことを誓った。
優しい彼のために立派な淑女になると決めたのだ。
「別に恋の話はダメとは言っていないのだけど……まあいいか」
ドレイトンは少し不安になりながらも、しかし彼女が頑張ると言っているのだから見守ろうと思った。
人の上に立つ人間になるのだ。失敗の一つや二つ、許してやるのが王というもの。きっと父上でも同じ判断をしただろう。
この時ドレイトンは、まさか自分が女の子にブチ切れる日が来るとは思いもしなかった。バルバラはドレイトンの想像を超える『おもしれー女』だったのだ。
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