婚約者のダルい秘密






「かおりきいてよ〜っ!!」


バルバラは自室のベッドにボフンと飛び込み、「最悪〜!」と大きい声で喚いた。手のひらサイズの長方形の板を耳元に当てている。


学園の寮の一室。公爵家の娘である彼女の個室は豪華で防音の魔法もかかっている。なのでどれだけ大きい声を出しても良いのだ。


「ねえマジ聞いてよ!ついに本編のヒロインが編入してきちゃって、あたし今むちゃ焦ってんだけど。やばいかな?断罪されたりすっかな〜」


バルバラはスマホでかおりと通話をしているわけではない。木の板をスマホに見立て「友人のかおりに電話している」体で独り言を言っているのだ。


相当キている。


慣れない生活、令嬢という立場、加えて「自分は転生者である」ということを誰にも打ち明けられないのはかなりのストレスだった。


アダンを虐めるなどしていたが、それでは解消されなかった。アダンも学習して怖がらなくなり、結構やり返してくるようになったし。


なので、電話するふりをしてストレス発散するようになった。

嫌なことがあったときは「あとでかおりに話そうっと!」と考えると楽になる。これが彼女の心の拠り所となったのだ。





「バルバラに伝えておきたいことがある」

放課後2人で仲良く勉強をしていたら、ドレイトンに唐突に切り出された。


いつもふわふわニコニコ落ち着いていている彼の真面目な表情。

彼はバルバラのことをいつも「バル」と愛称で呼んでいた。急にバルバラと呼ばれて、彼女は緊張とする。


「はい、はいなんでしょう、殿下」


色んなドキドキだった。

告白される前のようなトキメキでもあったし、お母さんにやらかしたことがバレて叱られる前のような緊張でもあった。

婚約者であるから告白などされるはずもなく、後者で間違い無いだろう。彼女は怒られる心当たりがたくさんあるので。


(クソッ……!どれだ……!何がバレた……!)


余計なことを言って変に墓穴を掘らないようにしよう。

闇鍋のような緊張を抱えて、彼の二の句を待った。



「実は……僕は人の心の中がわかるんだ」





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