第21話 夏だ! 海だ! BBQだー!②

 海岸に着くと、遥と涼さんはすでに笑いながら逃げる準備をしていた。


「おりゃぁ!」


 海水をすくって、バシャっとかけた。

 遥は素早く避けたが、後ろにいた涼さんは思い切り水を浴びてしまった。

 

「わぁっ!」


 涼さんの驚く声が周囲に響く。

 遥を狙うのだろうと当たりをつけ、気を抜いていたのだろう。

 そして、その光景を見て足を止め笑う遥。


「まだまだ!」


 俺は見逃さず、続けて水をすくい、遥にかける。涼さんも遥も、負けじと海水を返してきた。

 水のかけ合いは一段と激しくなり、砂浜には笑い声と水しぶきが飛び交った。

 その時、突然強い波が襲ってきた。


「うわっ!」

「わぁっ!」


 俺たちかけ合っていた三人が波に飲み込まれてしまった。


「大丈夫ですかっ!?」


 柊さんの心配する声が聞こえてくる。


「大丈夫ーー!」


 手を高らかに上げて無事なことを知らせた。


 波が引き、みんなの姿が見えるようになる。全員無事でその場にいた。


 ————いや、無事ではなかった。涼さんが生まれたままの姿で立っていたのだ。

 そう、ビキニトップが流されてしまっていたのだ。

 俺はすぐに顔を逸らした。


 まじかよ、そんな漫画みたいなことある? 水着が波に連れ去られるとか。

 

 涼さんは一瞬、自分の状態に気づいていない様子だったが、周囲の視線を感じて徐々に理解し始めた。


「アハハ、涼、水着流されてやんのー!」


 遥が揶揄うように笑っている。


「あちゃー、やっちゃったわ。替えあったっけなぁ?」


 え、そんなあっけらかんとしてるけど、これ慌てるところじゃないの?

 俺いるんだよ?

 見られるの恥ずかしくないの? いや、俺、視線外してるけどさ。たわわなものでした。


 頭の中が困惑でいっぱいになる。


「替えの水着、ホテルで借りれたよー!」


 成瀬さんが遠くから声をかけてくれる。どうやら取りに行ってくれたようだ。


「お、ありがとう!」


 そして視線がこっちを向いた気がする。

 俺は依然として視線を外している。


「あれれ〜? 恥ずかしがってるのかぁ?」


 煽るような、揶揄うような声でこっちに話しかけながら近づいてくる涼さん。


「もしかして、興奮しちゃったぁ〜?」

 

「————俺だって男なんだから……そりゃ、興奮しますけど?」


 もう開き直ることにした。


「え」


 こんなこと言わないといけなくなるなんて、穴があったら入りたいくらい気恥ずかしいよ。

 涼さんも自分で興奮しそうだと言われ、いつになく顔を赤らめている。

 こんな返答をされると思っていなかったようだ。


 俺に背を向けて、成瀬さんが持ってきてくれた水着をひったくるように受け取り、身につけ始めた。

 

「よ、よし、ふぅー。気を取り直して、何して遊ぶよ」


 気恥ずかしさを吹き飛ばすかのように、大きな声で言う涼さん。

 

 腕が一瞬で疲れちゃうよこれ。


「ねぇ、ボール持ってきてるんだけど、ビーチバレーしない?」

「いいね、ちょうど動きたい気分だったし」

「ボールあったっけ?」

「俺、持ってきてるよ。あと、二人にもやるか聞こうか」 

 

「柊さんも成瀬さんも、こっち来て一緒にビーチバレーしないー?」


 俺は手を振りながら二人を呼び寄せた。その際、パラソルのそばに置いていたビーチバレーボールを持ってきてくれるよう頼む。


「一緒にビーチバレーしようよー! そこにボールあるから取ってもらえない?」

「隙あり!」


 背後から涼さんの声が聞こえたかと思ったら、冷たい海水が背中に飛び散った。


「うわっ!」


 思わず飛び上がり、振り返ると涼さんが笑いながら水をかけた手を振っている。遥もその様子を見て大笑いしていた。


「やったなぁ! 反撃開始!」


 俺はすぐに水をすくい上げ、涼さんに向かって勢いよく投げ返す。

 涼さんも逃げる気配を見せず、さらに水をかけ返してくる。再び激しい水のかけ合いが始まった。


「ボール持ってきたよー!」

 

 戦っていると、成瀬さんがパラソルのそばに置いてあったビーチバレーボールを持って駆け寄ってくる。続いて柊さんも来た。


「じゃあ、みんなでビーチバレーしましょうか!」

「一時休戦だな」

「ああ、敵にならなければな」


 戦意ありすぎんだろ。

 そして俺は気づいた。ここ、俺以外みんなバレーボール強いのでは。

 身長1番低いの俺なんだよな……170はあるのに。

 

「チーム分けどうしようか。二対三になっちゃうね」

「とりあえずじゃんけんで分けて、阿宮くんがどっちのチームに所属するか決めよう」

「そうね」


 そして柊さん、成瀬さんチームと遥、涼さんチームに決まった。

 なんだかんだそれぞれに警護官が一人づつ、バランスの良さそうな分け方になったな。

 俺はどっちに入れば? と考えていると、もう一度じゃんけんが始まる。


「じゃーんけーん……ポン!」

「あぁ……負けたぁぁ」

「よっっし!!」


 力強くガッツポーズをする涼さん。反対に力無く地面に崩れた成瀬さん。

 決着はついたようだ。


 俺は遥、涼さんチームに入ることになった。

 

「よーし、始めようか!」


 遥が意気込む声を上げ、試合が始まった。

 最初のサーブは成瀬さんからだ。高く打ち上げられたボールが砂浜に向かって飛んできた。


 「よし、いくぞ!」


 俺がボールを受け取り、遥にトスを上げる。それに遥が素早くスパイクを打ち込み、ボールは相手チームのコートに飛び込んだ。



 さすが遥。警護官なだけあってよく動けるな。


「ナイススパイク!」


 涼さんが喜びの声を上げる。

 一方で、柊さんと成瀬さんも負けじと次のプレーに備えて構えている。


「次は負けないよ!」


 成瀬さんが笑顔で言い、試合が続く。

 激しいラリーが繰り広げられ、笑い声と歓声が砂浜に響き渡った。みんな真剣にプレーしながらも、楽しいひとときを共有していた。


 試合が進むにつれ、全員の息が上がってくる。


 「これで決めるぞ!」


 俺は力強くスパイクを打ち込み、ボールは相手チームのコートに飛ぶ。

 ボールは成瀬さんの真上に落ちていき、トスを返されると思い、反撃に備えた。

 そしてボールが成瀬さんの手に触れ、力を入れた瞬間、砂に足を取られ転けてしまう。ボールはコートに落ちた。

 

 俺たちの得点だ。

 試合は俺たちのチームの勝利で終わった。


「やったー!」


 涼さんと遥がハイタッチをしながら喜びの声を上げる。一方で、成瀬さんは悔しそうに地面に座り込みながらも、笑顔を浮かべている。柊さんもその隣で肩を叩きながら笑っていた。


「いい試合だったね、成瀬さん」


 俺が感謝の言葉を述べると、成瀬さんは笑顔で頷いた。


「意外と良い連携ができたな。楽しかったぞ」

「だね、ボクも楽しかったよ」


 涼さんと遥が拳を合わせている。

 意気投合したようだ。これがスポーツでできる友情かぁ。

 そう考えていると、成瀬さんがお腹をさすりながら呟く。

 

「それにしても動いたらお腹が減ったね〜、そろそろバーベキューする?」


 太陽が真上にきた辺り。

 お腹も減ってきたことで、俺たちはバーベキューをすることにした。 

 



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