第17話 ねぇ、どっちがいいと思う?

「それにしても、さっきのは本当にびっくりしたなぁ」


 先程の出来事を思い出しながら俺はつぶやいた。


「突然居なくなるんですから、誘拐されたのかと思いましたよ」

「心配したんだからね。もう離さないよ」

 

 ぎゅっと手を握ってくる遥。


「絡まれることはあると思っていたけど、あんなことになるとはねぇ」


 貞操逆転世界の凄さを実感した気がする。

 近づかずとも、見てくる人は居たし、なんなら見てこない人の方が少なかった。とは言っても見てくるのは好奇心が大きいのだろう。

 男という、一般からしたら出会う可能性がほぼ無い性別。それが近くに居る。そりゃ、目で追うよな……。


 好意ではなく、ただ単に珍しいからだろう。


 その中でも、暴走した者がああいう行動に出るのかもしれないな。ナンパ、そして誘拐、連れ込みへ。


「ふと疑問なんだが、あれは警備員に引き渡された後どうなるんだろうか」

「警察行きだろうね。状況証拠もある、防犯カメラにもバッチリ残っているだろう」

「そんなに重い罪なのか? ナンパは」

「いいや、ナンパというより『嫌がる男性を無理やり連れて行こうとしたこと』これが誘拐に該当する実刑は確実だろうな」


 重っ!

 え、厳重注意とかじゃないの? 


 ……あ、でも元の世界でも懲役何年とかだったか。そう考えると、妥当なのか?

 

「結構重いんだね」

「そう? 妥当だと思うけど。阿宮くんって偶にズレてること言うよね」


 これが当たり前の様子で返答する遥。


 そりゃ、この世界に来てまだ少ししか経ってないしなぁ。

 常識がとことん男尊女卑と言いますか、慣れないんですよ。


「まぁ、そのおかげでボクは選んでもらえたからいいけどね!」 


 遥がニッコリと微笑みながら言った。

 その笑顔はいつもの明るさと同時に、少しの誇りを感じさせる。


 そう言って貰えると嬉しいね。


「はいはい、その話はここまでにしてせっかくなんですから店を見ましょう」


 俺たちの注目を集めるように手を叩き、言った。

 確かに、せっかくアウトレットに来たんだもんな。


「そうだな」

「だね、気を取り直して見ていこう!」

 

 そして、ショーウィンドウを見て気になった店に入ることに。


「ねぇねぇ! これどっちが似合うかな?」


 遥が服を二着持ってこっちへ向かってくる。

 高身長にスーツというなかなか威圧感のありそうな出たちなのに、トタトタ早歩きしてくる姿は小動物のようだった。

 楽しそうな表情がそう思わせるのだろうか。


「ねぇ、聞いてる?」



 これは返答次第で関係性が変わる……! 慎重に答えねばいけない問題だ。

 

 持ってきた二着をよく見る。


 レザージャケットと、もう片方はオフショルダー!? 真反対じゃないか。


「うーん……」

 

 遥と俺のやりとりを隣で見ていた柊さんが、


「なぜあなたが一番楽しんでいるんですか……」


 と、呆れた様子で呟いた。

 まぁ、警護官なのに、守る対象より楽しんでるもんな……。


「まぁ、いいじゃないか。あれから店員以外近づこうとする輩はいなくなったんだから」

「そう気を抜いていると事件が起こるんです!」


すると、遥が柊さんに顔を近づけ、

 

 「実質、これデートなんだよ、楽しまなきゃ損じゃないか? それにボクだって警戒してるさ」


 と、微かに言っていることが聞こえた。

 まぁ、聞かなかったことにしておこ。うん、俺って空気が読める!


「……分かったよ」

「ありがとう! さすが分かってくれると思ったよ」


 柊さんが折れたようだ。


「で、どっちがいいと思う?」


 うーむ……。

 レザージャケットとオフショルダー。正反対だが、どちらも似合うと思う。

 正直、どっちも見てみたいんだよなぁ……。


 さて、どう答えたものか……。どっちもいいよは悪手だと思うんだ。

 かといって、どっちか指定すると外した時がなぁ。

 

 うーむ、いっそどっちが気に入っているか、聞くのもありか。


 ただ、この世界のことを考慮すると、俺の好みを聞いてきている可能性が少しあると思う。自意識過剰なだけかもしれんが。

 正直、客観的な意見を聞いているわけではないと思うんだ。服を一緒に見に来たのだって初めてだし。


 声のトーンと遥の表情的には————期待するような……視線。

 

 悩んでいても結論は出ないか、ここは勇気を出して————。

 

 この間、僅か三秒。

 普段の五倍は頭が回っていたと思う。

 

「どっちも良いね。遥に似合いそう」

 

 はい、俺はヘタレです。

 一番無難そうな答えを選びました……。


 だって……ッ!


「そう……? こっちも?」


 オフショルダーの服を強調して聞いてくる。


「うん、似合うと思うよ。レザージャケット見たいにカッコいい服もいいけど、可愛い服も似合うと思う。俺も見てみたいし」


「そうか。なら、どっちも買っちゃおうかな!」


 どうやら正解の択を選べたようだ。

 遥は鼻歌を歌いながら、レジへと向かっていった。


「あの……」

「ん? どうしたの、柊さん」


 俺が遥の様子を見ていると、後ろから柊さんに声をかけられた。


「これ、阿宮様にどうでしょう?」


 手に持っていたのは、メンズのシンプルなカジュアルシャツとジーンズ。シンプルながらもスタイリッシュなデザインで、普段着としても使えそうな組み合わせだ。

 俺に向けて選んでくれたのか。

 

「おお、ありがとう。でも、これどうして?」

「私は十分あるので、それなら阿宮様に送りたいと思いまして……」


 なんと! それはとっても嬉しい。

 女子に服を選んでもらうことなんて無かったしなぁ。


「ふふ、ニヤけるくらい嬉しかったのですか? それならば、選んだ甲斐がるものです」


 思わずニヤけてたみたい。

 気恥ずかしさで熱を感じる。

 

「では会計して参ります。これはプレゼントですので、私に払わせてください」

「ありがとう」


 今度、何かお返ししないとなぁ。

 

「あれ、柊さんはどうしたの?」


 お返し何にしようか考えていると、会計を終えて戻ってきた遥に聞かれた。


「服を選んでくれてさ。今、会計しに行ってるよ」


 先ほどまでの出来事を軽く説明した。

 

「え、いいなぁ。ボクも選びたい!」


 羨ましがり、すぐにメンズコーナーへ行ってしまった。

 嬉しいんだが、そこまで反応するものなのか。

 遥の勢いに圧倒されてしまい、反応することができなかった。


 こうして、遥にも服を買ってもらうこととなるのであった。


 お返し二人分考えておこっと。


 さすがに買ってもらったし、紙袋を持たせるわけにはと受け取ろうとしたら、配送してもらったと。「私たちはあくまで警護官なのですから、手が塞がっては意味がありません」と言われた。

 正論すぎる。


 その後、服屋を出て、道を歩きながら次どこに行くかの話題になる。


「次はどうしようか」 

「少し飲み物飲んで休憩しない?」


 遥がスムージー専門店とかあれた看板を指差しながら言った。

 目がキラキラしてる。

 俺も喉乾いてきたし、ありだな。と思い、柊さんに視線を向けると「私も賛成です」と言った。

 そのため、満場一致で向かうことに。

  

 そして休憩していると、見知った顔が目の前を通り過ぎていった。

 

「あれって……」

「ん? どうかした?」

「いや、知り合いがいたから」

「そうなのですか?」

「うん、この前、喫茶店にいったことがあってね。そこで知り合ったんだけど……」

「誰々……」


 二人して、興味津々に周囲をキョロキョロして探す仕草をする。


「あそこで立ち止まっている人たちだよ」


 と、遥に教えるため、方向を指差す。その時、ちょうどこっちを見ていた彼女らと目が合った。

 やはり、成瀬さんと涼さんだった。


「ああー!!」


 向こうも気がついたようで驚いていた。




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