第18話 間接キス
「なんでこんなところにいるのー? 涼! 阿宮くんが」
先に気がついた成瀬さんが涼さんに知らせている。
「ほんとだ、警護官一緒じゃないんか?」
成瀬さんと涼さんが矢継ぎ早に聞いてくる。
「買い物だよ。それにほら」
「やぁ」
「初めまして」
「ああ、警護官の方ですね。私たちは彼と喫茶店で知りまして……」
成瀬さんが勘違いさせないようにと、そんな様子で説明を始めた。
「遥じゃん、何、新しく担当になったって言ってたけど海くんのことだったの?」
打って変わって涼さんはというと、遥と知り合いなのか馴れ馴れしい態度で接している。
「あ、涼じゃないか。てことはそっちは……」
遥もそれに気づき、返事を返していた。
二人は知り合いなんだな。
「ああーッ! ほんとだ、普段ダラダラしてる様子しか見てないから気づかなかったよ。ちゃんと働けてるんだねぇ」
成瀬さんとも!? てことは友達とかなのかな?
「御三方は知り合い……のようですね」
柊さんも驚いた様子で呟く。
「みたいですね」
これは凄い偶然だなぁ。俺も成瀬さんと涼さんは知り合いだし。
シクシクとお母さんみたいな反応をする成瀬さん。
「やっぱり、鈴華か! てか、そんなお母さんみたいな反応をするな、ボクと君は同い年だろ!」
「そりゃぁ、お前がたらい回しにされて、就職できていないなんて聞いたら心配するだろ」
いや、これは心配するだろうよ。
「うっ……。それは……」
痛いところを突かれたように、遥が少し言葉に詰まる。
うんうん、それはそうだな。
「仲良いんだなぁ」
「悪友だよ」
「仲良いよ」
「親友だよね」
遥、涼さん、成瀬さんが同時に答えた。
「なんだよ、それ。みんな意見バラバラじゃん」
クスッとした笑いが広がった。
「まあ、いろんな形の友情があるってことだよね。でも偶然とはいえ、こうして集まれるのはやっぱりいいことよ」
「そうだね、みんなでいると楽しいし」
と、話していると……。
「ここじゃ、邪魔になるかもしれませんから、どこか座りませんか?」
「確かに」
「そうだね」
柊さんの一言にみんな納得し、移動することに。
それにしても、高身長女子が四人も集まると壮観だなぁ。
◆◆◆
ちょうど、五人掛けのテーブルを発見したため、そこに座った。
「それにしても、
頬を膨らませ、不貞腐れた子供のような表情をする涼さん。
「あなたも大変でしょう? こいつの相方だなんて」
「ええ、ほんとですよ! さっきなんて、阿宮様を差し置いて買い物を楽しんでいたんですから!」
「それはッ……君だって最終的に楽しんでいたじゃないか! ボクが見てないとでも思ったかっ」
「なっ、私はちゃんと許可貰いましたー」
わちゃわちゃしとる。
そろそろ止めたほうがいいか?
「まぁまぁ、ところで、二人も買い物にきたの?」
ガタンッと立ち上がった遥を押さえつつ、成瀬さんたちに話を振る。
「オレたちは特に目的はないんだけどな」
「ええ、ふと息抜きがてら行かないか、ということになってね」
「そうなんですね」
「オレたちも何か飲み物買ってこない?」
「そうね。ちょっと買ってくるね」
「おう」
「はーい」
「分かりました」
成瀬さんと涼さんが席を離れた。
「私も少し、トイレに行ってきてもいいですか?」
「どうぞー」
「行ってらっしゃい」
柊さんが席を立つ。
そして遥と二人っきりの時間ができた。
俺がジュースを飲んでいると、何やら視線を感じる。
遥がジーッと見てきていた。
なに……?
「ねぇ、そっちのジュースも美味しそうだから、ボクにも飲ませてくれない?」
「いいよ。はい」
これくらいはもう慣れたよね。
なんか、遥も当たり前のように言ってるし。
俺は受け取って飲むと思い、遥が取りやすいように渡そうとする。
しかし、一向に俺の手からジュースの入ったプラスチック容器が無くならない。
ん? 気づいてないのか?
俺はそう思い、視線を横に移した。
目に入ってきたものは————。
椅子を横にし、全身を俺に向けている。そして容器に顔を近づけ、俺の手を支えにストローで飲んでいた。
——ッ!?
進化しただと。前回は受け取ったから、趣向を変えてきたというのか!?
チラッとこっちを見てきた。
「ようやく気づいたのか」と言うような目をしているな。
……ハッ! 姿勢的に俺より顔が下にきている。
そしてこちらを見る遥。
これは————上目遣いっ!?
首を傾げる遥。一体どうしたのか、と疑問に思ってそうな様子だ。
しかも、意図していないやつだ。これ!
「なんか変?」と遥が聞いてきたが、上目遣いのままだから破壊力が増している。
「いや、なんでもないよ……」
俺はなんとか平静を装って返事をした。
「そっか。それならいいんだけど。ボクに虫でもついてるのかと思ったよ」
そして再び飲み始める。
……ところで、いつまで飲むんですか?
遥は満足そうに飲み終えると、無邪気に笑って言った。
「うん、美味しい。ありがとう、海」
「い、いや、どういたしまして……」
「ん? なになに〜、照れてるのかぁ?」
「そ、そんなことないよ。ただちょっと驚いただけだって」
耳が熱くなっている気がする。
遥は俺の反応を見て楽しそうに笑っている。
ジュースがもうほとんど無い……。でも、可愛かったからいいか!
そんなことを考えていると、涼さんと成瀬さんが飲み物片手に帰ってきた。
「ただいまー」
「お待たせしました」
涼さんが視線を動かし、
「遥、なんもしてねーだろうな?」
と、遥に向けて言った。
「失礼な、ボクをなんだと思っているんだい」
遥がジト目で涼さんを見つめる。
「そりゃぁ、遥の今までの行動を考えれば、疑うのも無理はないね」
「成瀬さんまで……ひどいなぁ」
遥がわざとらしく肩を落とす。
一体、三人の間に何があったんだろうか……。
会話が無くなってしまい、微妙な間が生まれた。
「そういえば、飲み物、何を買ってきたの?」
たまらず、俺は二人に話を振った。
「オレはアイスコーヒーを買ったんだ」
「私はフルーツティー。今日は特に暑いから、冷たい飲み物がいいなって思って」
「おおー! 美味しそう」
「飲みますか?」
「いいの?」
「いいですよ。はい」
快く承諾してくれ、フルーツティーを受け取った。
それを飲んでみる。
「美味しい!」
冷たくて甘酸っぱい味が口の中に広がった。
「オレのも飲むか?」
「いいの?」
「おう!」
アイスコーヒーも一口貰う。
「ああ、これもいいね。ちょうどいい苦味が効いてて、目が覚める感じだ」
「そうか? 口に合ったのなら良かった」
成瀬さんは少し照れくさい笑顔を浮かべた。
そして何か反応を期待するようにチラチラ見てくる。
ふふん、こちとら遥としたから慣れてるんだよねぇ。
「なんか普通の反応で、想像してたこっちが恥ずかしくなってくるわ……」
諦めた様子でそう呟いた涼。
「え、何をしていたの?」
成瀬さんは、何も分からないといった様子で涼さんに聞いた。
「なんだ、気づいてないのか? 間接キスだよ」
「……ッ」
本当に気づいてなかったのか、耳まで赤くし、恥ずかしさで息を呑む成瀬さん。
「阿宮さんも気づいていたなら言ってくださいよ!」
こっちとしては嬉しい以外無いので、言う必要はないんですぅー。
「俺は別に嫌じゃないし、言わなくて良いかと」
「なっ……」
さらに赤くなった。
……さてはからかいがいがあるな?
そんな雰囲気がする。
嫌がってる可能性もあるかもしれないからな。
まぁ、過度に揶揄うのもだし、このくらいにしておくか。
「次からは気をつけるよ」
「あっ、嫌ってわけでは無いのです……」
だんだん声が小さくなりつつも聞き取れた。
良かった。嫌がられていた訳では無いのね。
「そうなの?」
「ええ」
こうして三人で盛り上がりつつ、くつろいでいると、柊さんが戻ってきた。
「お待たせしました。ちょっと並んでまして……時間がかかってしまいました。すいません」
「何も無かったから大丈夫! それよりなにか飲む?」
「いえ、私は結構です」
遠慮したのか断る柊さん。無理強いはよくないし、要らないならいいか。
「これからどうするの?」
そして、これからの話題になった。
「もうちょっと見て回ってから帰ろうかなと考えてるよ」
涼さんの問いに俺は答えた。
「それじゃ、一緒に回らない?」
期待するように聞いてくる。
「良いと思う。二人も良ければだけど」
「ボクも良いと思うよ」
「良いと思います」
「なら、決定だな!」
ということで、この後、一緒に買い物をした。
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