第11話 ボクは決して悪いことをしてないよ?
「ところで、阿宮様。黒龍と同じ部屋にいましたが……もしや一緒に住んでられるのですか?」
「えっ、ああ、そうですよ。なんでも一緒に暮らさないといけない決まりのようですね」
「えっ?」
「ん?」
柊さんは驚きの声をあげた。
信じられないと言いたげな表情だ。
「黒龍さん……!」
「な、何かな? ボクは決して悪いことをしてないよ?」
「なぜ、警護官は同居しなくていいことを伝えてないのですか?」
「おーっと、ちょっと待つんだ」
突然、柊さんの話を遮り、黒龍さんが口を塞いだ。
だが、妨害虚しく、言葉は俺の耳に届いた。
同居しなくていい……?
衝撃の言葉に俺は遥へ視線を向ける。
「あ、てへっ!」
誤魔化すように舌をちろっとだし、可愛く見せて逃れようとしている。
か、かわいい。
かっこよさの中に見える可愛さってまたいいものがあると思うんだ。
それはそうとして、その手には乗らんぞ!
俺が契約書をよく読まなかったせいだけど……言ってくれてもいいじゃないか。知らなかったよ、一緒に住む必要がないなんて。
別に同居するのが嫌ってわけじゃないが。
「だって、言っちゃったら一緒に住んでくれないでしょ? そもそも契約書をちゃんと読んでない方が悪いんだから」
ぐ……そこを突かれると何も言い返せない。
「モゴモゴ……」
なんか聞こえてくるよ?
遥の手によって口を塞がれ続けている柊さんが「放せ」と言うように遥を叩いている。
お、おい。なんか青白くなってきてないか?
それやばくないか?
バシバシ叩いてるぞ!
「ぷはぁ……! 死ぬかと思いましたよ!」
「いやぁ、ごめんごめん」
軽く謝る遥。
それで許されるはずがなく……。
ヘッドロックを喰らっている。
力強いんだなぁ。さすが警護官。
「た、助けて……」
その姿を見て、思わず笑いそうになった。
それにしても、高身長同士のヘッドロック。迫力が違うね。
「これに懲りたら、口を塞ぐなんてことはしないように」
「わかったよ……」
怒るとこそこ?
もっと他にあったと思うけどなぁ。隠してたところとか。
「阿宮様、改めてお伝えしますが、警護官は同居する必要はありません。同じ階で警護を行うことで十分です」
同じ階にはいる必要があるんだね。
「この階全てが専用だったことに疑問は無かったでしょうか? 別の部屋がそれぞれ警護官に与えられるのです」
「でも、ボクが一緒に住むことで、彼を守りやすくなるからね。それに、生活面でもサポートできるし、一石二鳥さ」
「この人の言うことは無視してもらって構いません」
「それはないじゃないかぁ」
遥さんと柊さんのやり取りに少し笑ってしまうが、改めて話を続けることにした。
「確かに、二人の意見にはそれぞれ納得する。でも、このだだっ広い部屋に一人ってのも寂しいんだよね……」
「ほら、阿宮くんもこう言っているよ」
だから住んでもいいじゃないかと言わんばかりに、柊さんに突っかかる遥。
「しかし……」
柊さんは少し困惑しながらも、冷静に返答してきた。
「阿宮様の気持ちは理解します。しかし、警護官の職務上、同居は不適切な場合もあります。例えば、個々のプライバシーや、警護官としての客観性が保たれなくなる可能性があります」
「それも一理あるけどね。けど、阿宮くんが寂しいって言ってるんだから、一緒に住むことが彼の精神的な安定にも繋がるんじゃないかな?」
と、遥さんは譲らない様子だ。
「まあ、確かに……それも一理あります」
柊さんは少し考え込んだ。
「では、こうしてはどうでしょうか。阿宮様の希望も尊重し、例えば週に数日だけ一緒に住むという形を取る。それ以外の日は隣の部屋に戻る。これなら双方の意見を取り入れることができるのではないでしょうか?」
「なるほど、それならいいかもね。どう思う、阿宮くん? ボクとしては毎日、寝顔を眺めたいから一緒にいたいけど」
と、遥さんが俺に尋てきた。
「確かに、一人で居たい時もある。いい案かもね」
「仕方ない。それで我慢するよ……」
ショボンとした顔で残念がる遥。
「来たかったらいつでも来ていいよ。緊急時にも必要だろうし、鍵は渡しておくから」
「それって合鍵……!」
遥さんの目がキラキラと正気を取り戻していく。
「合鍵なんて、まるで新婚みたいじゃないか!嬉しいよ、阿宮くん!」
いつものテンションに戻ったね。
両手を広げ、はしゃぐ遥。初対面の時のかっこよさはどこへ消えていったのだろうか。
「このテンションに慣れてきた私に困惑します……」
そう溢す柊さん。
「とりあえず、契約を交わしましょう」
「そうですね」
柊さんが一枚の紙を差し出す。
それは遥の時と同じ契約書だった。今回は散々、警戒心が足りないと言われ続けたため、じっくりと見る。
特に問題があるわけでもなく、サインをし終える。
それにしても本当にあったとはな。
俺がじっくりと見る過程でそれは見つかった。ちゃんと警護官が一緒に住む必要があると書いてあるのだ。それに同じ部屋に住む必要はなく、同じ階にいればいいと。
ちゃんと見とくべきだったなぁ。
「はい、確認しました。では、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、精一杯警護官として務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
そこから遥と柊さんは住むための準備があるとのことで、俺の部屋を出て行った。
リビングに一人となる。
「そうだ、ちょうどいいし、世界の常識とかについて詳しく調べてみよう」
そう思い立ち、スマホを取り出す。
まずは何を調べるか……。
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