第4話 マンションを見てみよう!

「到着です」


 おお。

 目の前には圧倒されるくらいの高層ビルが建っている。

 二階までは居住区ではないのか、ガラス張りの奥に椅子などが見える。3階以上はベランダが見える。多分二十階はありそう。

 すっごい高層階だな。


「おおーー、でっけぇ場所だなぁ」


 隣で山口さんも圧倒されているようだった。


「あなたは見たことあるでしょうよ」

「そうだけど、写真だけだよ。やっぱ実物見ると違うわぁ」

「そんなこと言ってないで行くよ」


 橘さんがスタスタと行ってしまった。


「待ってよー!」


 山口さんい続いて俺も中に入る。


 ガラス張りのエントランスが広がっており、正面にエレベーターが設置されていた。

 エレベーターの階層選択するボタンは25階まであった。そのうちの一つ、10階を山口さんは押した。

 

「今回は10階に行きます。このマンションは最近できたばかりで入居者もほとんどいないのですが……」


 どうりで入った時から人とすれ違わないのか。


「そうなんですね」


 ポーンとエレベーターが目的の階についた音が鳴る。


「降りましょうか」

「はい」


 エレベーターを降り、少し進んだ先に目的の部屋があった。

 

「ここです」


 ドア周りは普通のマンションのような感じがする。

 高層マンションなんて住んだことないから雰囲気分からないけど。


 ドアを開き、部屋に入る。


 結構広いな。


「おおー、うちより広いじゃん」

「あなたのとは家賃が桁違いでしょう?」

「それもそうか」


 俺より山口さんの方が驚いている気がするのは気のせいだろうか。


「部屋の間取りとしては3LDK。こちらがリビング、キッチン、そして洋室などがございます。また、こちらからバルコニーに出ることができますね」


 部屋を案内してくれる。

 それに従い、俺も見て回る。


「いい部屋だな。ここにしたらどうだ?」

「なぜあなたが決めるんですか……」

「そりゃ、一緒に住むもんな。な?」


 何言ってんだ……。


「いつの間にそんな話になってるんですか……。山口さんみたいな綺麗な人と住めるなら嬉しいですけど」

「ほら、良いって」


 橘さんに見せつけるように言う山口さん。


「バカなこと言ってないで!」


 ああ……叩かれてる。


「それでどうでしょう? ここにしますか?」

「んん? なんか不安そうな顔してるな」


 山口さんが俺の顔を覗き込むようにして行ってくる。

 

「家賃ってどのくらいなんですか? 無一文にはこの家の家賃を払えそうにないんですが」

「あぁ、そのことでしたら心配無用です。こちらの階は男性専用として作られているため、家賃や光熱費は政府が負担する形になっています」


 なんだその至れり尽くせりは。

 側から聞くと、一気に詐欺っぽくなったよ、これ。

 でも、なんか義務とかありそうだよな。


「軽く説明いたしますと、税金の何割かが、男性に関することに割り当てられており、その中から月30万支給されます。ただ、これは後日、申請していただく必要があります。そしてこれとは別に成人した男性には義務が発生し、その対価としてお金が支給されます」


 義務……? あれか? 精子提供とかそういう。

 

「義務って言ってもそんな難しいことじゃない。これ以上少子化を進行させないためと、結婚できない大多数の女性に対して人工受精という選択肢を取れるようにするためのもんさ」

「なるほど」


 言わんとしていることはわかる。


「まぁ、ほとんどの男性は義務だから嫌々来るだけだけどな」

「ですね……」


「詳しくは警護人選定後に。指定の病院まで行く必要があるため、我々よりも護衛に特化した者が必要でしょうから」

「分かりました」

 

「マンションは気に入ったか?」

 

「そうですね。風呂、トイレ別は良いですし……ここがいいです」

「かしこまりました、ではすぐに住所をここに登録いたします。書類はまた郵送しますので」

「ありがとうございます」


 すると橘さんはどこかへと電話をかけ始めた。


「————では手続きが完了したため、これからすぐに住んでいただいて構いませんよ」


 早っ!

 驚いた。てっきり、次の日からとかになると思ってたのに。

 もう、最初から準備していたかのようだな。


 ……荷物もカバン1つだし、警察署に戻らなくていいなら楽か。


「あとは護衛官の手配ですが……選定に時間がかかるため後日、複数名の中から選んで頂く形になります」


 護衛官……? あっ、男性護衛官ってやつか。

 めんどそうだし拒否できないのかな。

 

「なお、これは義務になるため、拒否することはできません」


 思考を読まれたッ!?


「顔にすごいめんどそうな表情が出てるぞ」


 山口さんからそう言われる。

 バレてらぁ。


「驚いた顔しちゃって〜、顔に感情が出やすいタイプかぁ?」

「やめなさい」


 からかってくる山口さんを橘さんが諌めている。

 そんな顔に出やすいのか?

 自分じゃ見えないからわからないが……。


「では、こちらが家の鍵です」


 鍵を受け取る。


「あー、私が渡そうと思っていたのに」

「あなたに任せると何するかわからないでしょうに……」

「そんなことないさ」

「どの口が言うんですか」


 額に手を当て、呆れた口調で話す橘さん。


「そしてこちらが連絡用のスマホです。署の電話番号が登録されています。その他、一切細工しておりませんのでご安心ください」


 スマホを受け取る。

 パスワードはついてないようだ。電源を入れるとすぐにホーム画面を開くことができた。

 操作感は今まで使ってきたスマホと変わらないな。

 これならすぐ慣れそうだ。


 「では私たちはこれにて、あとは書類を送らせていただきます」


 そう言って橘さんたちは帰っていった。山口さんを引きずって。


「私もここに住むんだぁぁ!」


 そんな叫び声が扉の向こうから聞こえてくる。

 山口さん、初めと印象が違う気がするな……。


 それはさておき、鍵を閉めてっと。

 向き直り、リビングへ行く。


「あ、ご飯無い……」


 冷蔵庫を開いて気がついた。

 空だったのだ。

 当たり前か、誰も入居していなかったのだから。


 しかし、どうするか……。

 このままじゃ今日は空腹で過ごすことになるが、夜に外出るのもなぁ。


 まぁ、貞操逆転世界でも力が強くなったとかは無いだろうし、大丈夫だろう。

 謎の自信が湧き上がってくる。


「ま、いけるやろ」


 俺は近くのコンビニを地図アプリで検索し、向かうことに。

 エレベーターに乗り、下へ向かう。


「そういえば何円貸してくれたんだろうか」


 ふと気になり、封を切り中から取り出す。

 女性の絵が描かれた万札が三枚出てきた。


「一万円札? 三枚もとは……。それにしてもこの女の人は誰だ?」


 見慣れた諭吉さんが恋しいよ。


 それから地図アプリを頼りに夜の暗闇に包まれた街を歩く。街灯が等間隔で置いてあるのが幸いだ。

 夜にしてはそこまで暗くなく、安心して進める。

 5分ほど歩いた頃だろうか、前方に明るい看板が見えた。


「あれかな?」


 地図アプリも同じところを指している。


 看板は見たことないが……形は見たことあるコンビニだ。

 聞き慣れた自動ドアの開く音が耳に届く。


「いらっしゃいませ〜! って、えぇぇッ!?」


 なんだ? まぁ、いいか。


 棚を物色しつつ、弁当を一つ、明日の朝ごはん用に菓子パンを一つ、お茶を二本ほどカゴに入れる。

 そしてレジへと向かう。


「お願いします」

「い、いらっしゃいませ!」


 声が裏返ってるぞ? 何にそんな驚いてるんだよ……。


「ふ、袋はご利用ですか……?」


 震えた声で慎重に聞いてくる。

 

「はい」

「合計750円です」

「これで」


 一万円札を一枚渡す。

 それにしても、通貨の単位は同じなんだな。


「は、はい。お預かりします」


 ガチャンとレジでレジドロアーが開く音がする。しばらくして、数枚の硬貨を手に店員さんがこちらを向いた。

 

「お、お待たせしました、あぁぁぁッ!」


 硬貨が床に落ち、軽い金属音が響く。

 

「すいません!!」

「大丈夫ですよ」


 貞操逆転世界だからといって、そんなに緊張するものかね?


 札と硬貨の釣りを貰い、コンビニを後にする。


「ありがとうございましたー!」


 店員さんの声が背中越しに聞こえてくる。


 そして自宅へ。

 今回の行き帰りは誰とも出会うことなく済んだ。いや、出会いたいわけじゃないが……会ったら会ったで逆転世界なことを実感できそう。

 そんなことを考えつつ、自宅の扉を開く。


 レンジで弁当を温め、食べる。


「うん、美味い。やっぱ世界が変わっても唐揚げは美味いな」


 完食し、片付ける。

 少し休憩し、お風呂に入って寝ることに決めた。


 明日はあの喫茶店に行くのもありかもねぇ。


「————あっ、そういや喫茶店にお金払いに行かないといけないじゃん。コーヒー代払ってないの忘れてたわ……」


 よし、明日はとりあえず喫茶店に行こう。


 

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カクヨムってどのくらいの表現は大丈夫なんだろうか……。

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