第3話 いざ、警察署へ! レッツゴー!

「戸籍につきまして……結果から申し上げますと、貴方様は登録されていませんでした」


 まじかよ……。

 いよいよ別世界なのが確定したぞこれは。


「そう、ですか」

「……冷静、ですね」

「そう見えますか?」

「はい。普通、戸籍が無いとなると身分も一切証明できないわけですから……」


 橘さんが困惑した様子で話す。

 俺が冷静に反応したことに疑問があるようだった。

 声を荒らげて暴れない方が自然ではないと。

 まぁ、俺も察してた節はあるしな。それに貞操逆転世界なら逆に嬉しいまである。

 だってねぇ?


「で、では、気を取り直しまして……念のため、持ち物を検査してもよろしいですか?」


 持ち物検査……? 戸籍無いようだし、危険物持っていないかどうかとかか?

 まぁ、いいか。


「回収されることはないんですよね?」

「それはもちろん。……危険なものでないかぎりは」

「なら大丈夫です」


 橘さんにバッグを渡す。

 受け取ろうと橘さんが手を伸ばして掴んだ瞬間、俺の手と触れた。


「あっ」


 すごい勢いで立花さんの手が戻っていった。


「す、すみませんっ!!」


 慌てた様子で謝ってくる。

 そんな反応をされると傷つくよ……。

 いや、貞操逆転世界だからまた別の感じになるのか? これは……。


 どの反応なのかわからなくなりそうだった。

 とりあえず無難な返事を返そう。

 

「いえ、大丈夫ですよ」と俺は微笑んで返事をした。


「そ、それでは、改めましてお預かりします」


 慎重に触れないようにバッグを回収していっちゃった。

 やっぱり、嫌がられたパターンだったのか……?

 いや、頬が赤らんでいる。これは照れている!

 好反応だッ!

 心の中でガッツポーズをした。

 橘さんも美人さんでたわわなものをお持ちですからなぁ……。

 嫌われたくないという思いはある。


 そんなことを考えていると、扉が開き、山口さんが戻ってきた。

 そして机の上に一つ、また一つと中身が出されていく。


 水筒や財布、スマホ、イヤホンなどなど。


「財布の中を見ても?」

「どうぞ」


 その中から一枚のカードを取り出し、聞いてきた。


「これは学生証……ですか?」


 それは学生証だった。


「こんな名前の大学は聞いたことないですね……ちょっと調べますのでお待ちください」


「お待たせしました。やはり、このような大学は存在しませんね……。名前はお聞きしたものと合っていますが……」

「それにあなたの住所も存在しないものですね……」


 今日からホームレスですかぁ。

 橋の下でダンボール生活って興味あったんだよな!


 ……いや、嫌だわ。


「そしたらホームレスになるしかですね〜」

「なんかそこまで深刻そうではないようですね」

「こら、失礼なこと言わないの。男性にホームレスをさせるなど、私たちが世間からバッシングされます」


 そうなのか?

 怖いところもあるな。


「つまり、俺はホームレスにならなくて済むんですか?」

「はい、国が保護するという形になりますので、こちらで住宅をご用意致しましょう。戸籍登録はこの後、行わせていただきます」


 おおー! 家がタダで手に入る。

 ……これもう帰るらずにこの世界で暮らしていくのも悪くなさそうだな。


 そして、橘さんが戸籍や住宅に関して手続きすると言って部屋から出ていった。

 山口さんに釘を刺して。

 だが、刺された釘を気にすることなく、まじまじと俺を観察してきたり、持ち物をじっくりと見たりしている。


 その度にたわわで立派なものが揺れ、目が奪われそうになるのを必死で我慢する。

 この世界、たわわな人多くない? 出会った人みんなでかいね。何がとは言わないけど。

 もう、二つのメロンだよ。


「それにしても、どれも見たことないものですね〜」


 スマホや財布を触り、まじまじと見ながらそう呟く山口さん。


「これは……一万円札ですか? 見たことのない人物ですが」


 そう言って財布から取り出したのは一万円札だった。

 一万円札の人をご存知でない!? 諭吉さんだぞ?

 

 ある考えが頭をよぎる。


 まさか、貨幣も違うのか?

 この世界じゃ別の人物が写っているのか?

 貞操逆転関連だけが違いじゃなかったのか……。これは慣れるのに苦労しそうだ。


「それにこの硬貨。平成……ですか? おそらく年号でしょうけど、知らないものですね」


 まじかよ。

 これ偽造とか疑われたりしないよな?

 正直に別世界から来たかもしれないことを話すか? いや、信じてもらえるかどうか分からないな。


 「あれ、どうしたんですか?」


 扉が開いて橘さんが戻ってきた。

 

「あ、橘さん。この一万円札なんですけど……見たことない人物が描かれているんです。偽造……ですかね?」

「これは————」


 一万円札ですっごい大事になってんだが……。


「偽造ではなさそうね。でも、見たことない紙幣だわ」

「ますます謎が深まるばかりですね」

「ええ、でも事件に巻き込まれた様子も、記憶喪失などでもなさそうだし……」

「まるで異世界転移ですね〜」


 山口さん、鋭いところを突くな。


「な訳ないでしょ。現実にそんなことありうるわけないでしょ」


 橘さんが否定した。

 それが現実にあるんだなぁ、ここに。


「とにかく、この紙幣と硬貨は回収させていただきます。より詳しく検査し問題無しと判断できれば返却いたします」

「分かりました」


 そして無一文になった。


「なんか、FXで有金全部溶かした人の顔してますね」


 一体どんな顔だよ。


「大丈夫ですよ、明日から草食って生きてくんで〜」

「ちょっ、それ大丈夫なんですか?」

「山菜が見分けれたらいけるんじゃないですかね」


「だよね! 生きていけそうだよ」


 橘さんに向けて言う。


「ダメです! さっき、手続きが終わったのでこちらで提供するマンションに住んでもらいます!」


 橘さんは慌てた様子で捲し立ててきた。

 この人、いじりがいがありそう。


「これからそのマンションに案内しますので待っててください」

「分かりました」


 数分後、橘さんが車のキーを持って戻ってきた。


「では準備できたので行きましょうか」

「じゃ、私はここまでですね」

「何を言ってるの? あなたもいくのよ?」

「え?」

「え、じゃない。規則にあるでしょ、『男性には単独で対応せず、相互監視のもと対応しなければならない』って」

「あっ、そういやあったわ……。男性対応なんて初めてで忘れてた……」


 テヘッっと舌を出して山口さんが言う。


「それじゃあ、行きましょう」

「はい!」


 そして俺たちは部屋から、地下の駐車場へ行きパトカーに————。


「阿宮君、何してるの?」


 背後から山口さんの声が聞こえてくる。

 何ってパトカーに乗り込もうと扉を……。

 

 ガチャ。


 固く閉ざされていた。


 なんで? え、これで行くんじゃないの?


「おーい、こっち! パトカーじゃ目立つから覆面で行くよー!」


 手をブンブン振る山口さんが反対側に見える。

 そして既に乗り込もうとしている橘さん。


 先に教えてよぉ……。

 俺は急いで山口さんの方へ向かった。


「先に教えてくださいよぉ」

「いやー、ごめんごめん。忘れてたよ。てっきり、後ろ着いてきてると思ってたから」

「それじゃ、揃ったことだし……」

「「出発だー!」」


 はしゃぐ山口さん。

 なんで!?


「そりゃ、男と一緒に車に乗るなんて……実質ドライブデートでしょ!」

「私もいることを忘れないでほしいね」

「そういえばいましたね。これではデートじゃないですか! 降りてください」

「いやよ。それにさっきも言ったでしょ! 規則でダメなんだって!」


 文句を垂れる。

 デートか……。いいな。

 

 景色が変わり、地下からビル街に出る。


「もうすぐ着きますよ」


 あれ、警察署から出てすぐな気が……。


「意外と近いんですね」

「はい。万が一、何かあったときにすぐ駆けつけられるようにですね。あとは知り合いが近くにいる方がいいかと思い……」


 知り合い?

 誰だろう……。異世界だし、知り合いなんていないと思うが。


 窓の外を見ながらそう考えていると……見たことのある看板が目に入った。

 

 あれ、あの店って……。

 知り合いってもしかして! あの店の人か!

 

「あの店が近いんですね」

「そうです。国管轄のマンションが近くにありましたので、ちょうどいいかと思い選んだ次第です」

「なるほど」

「ここで大丈夫そうですか?」

「詳しくは中を見てからがいいですが……今のところ大丈夫そうです」

「それは良かったです」


「私のこと忘れてない?」


 不貞腐れた様子で山口さんが話しかけてくる。

 この人警察官なのか怪しくなるくらいだよな。

 少し話さなかっただけでこんな感じだし、警察官しにしてはフランクでテキトーな雰囲気だし。


 そう考えていると、目的のマンションに着いた。


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