14.魔物の兆し
雷が走り、英雄の子孫は巨人を一撃で屠った。
ただの火力ではなく、その完璧なる精密さによって魔力量では巨人が上回っていたはずの力関係を崩した。
アルスが刺した槍によって巨人の全身に雷が走り、心臓から全身へと巨人である形を破裂させ、存在そのものを破壊する。
「ふぅ~」
戦闘の終わりを自覚する吐息。
この戦闘は異常な速さで決着したが、その短い刹那の中でもアルスは集中を怠ったりしない。
例え、余裕があろうと無駄なことはしない。
ただ、自分が求める完璧を実行し、成し遂げることのために。
「アルス、大丈夫か?」
彼の空気感は普段とは違っていた。
深い集中力から異様な威圧感が彼という存在から溢れ出していることをグレンは自覚しながら、幼馴染の安否を確かめる。
「あぁ、大丈夫だ。ふぅ~、魔物の巨人か……初めて見たが?」
そうグレンに目線をやる。
「あぁ、僕も初めて見た。じゃあ、やっぱり、あの情報は?」
「あぁ、事実であることが証明されたものだな。確実に魔物のレベルは上がっている……しかもここ、まだ奥地じゃない地点で出会うなんて……もしかしたら、明日になれば、皆大騒ぎするかもな」
「そう、だね……ごめん、やっぱり迷惑だったかな?」
「あぁ、迷惑だったが、きっかけに出会えたことは感謝するさ。さて、夜も遅いし……何より俺は徹夜する気ないんで」
「そ、そうかい、なら今回はここで終わりにしようかな」
予定外だったが、魔物討伐に関しては予定に行くことなんて稀だ。当然、行きも帰りも危険が伴う冒険者ギルドの任務の中で危険度が高いのはそうゆうことだ。
一時も油断などできない。
それを怠った人間はすぐに魔物に殺されてきた。
そのため、アルスたちとグレンたちの一行は夜間の戦闘を終え、王国へと歩く。
「そうだ。アルスは明日の予定は?」
「ん、何もないが……」
「じゃあ、早朝から調査をしないかい?」
「ふぅん、早速だが、まぁ、そうだな。地道な訓練より実戦の方がいいっていうのは一理あることだし、いいだろう」
「よし、じゃあ今夜は宿屋に泊まろうか」
その理由は早朝から調査という予定ゆえだろう。
まぁ、お金の面に関しては貴族であるアルスとグレンには何も問題はないため、寝床が変わることにも不満なく、ただ決めた明日の予定へと取り組むための行動だ。
王国の入り口、その中でも金額が高い、建物が広く高い宿屋に入店する。
「いらっしゃいませ」
金額が高いため、接客は丁寧だ。
「え~と、二人で部屋を二つ」
「……え?」
グレンはごく自然と注文を述べた。
二人で、それを手の動きで自分とアルスを指したことからその二人とはアルスとグレンのことを指している。
その後の部屋を二つ、アルスとグレンで部屋を二つという意味、だが、おかしい。
ここには二人だけではなく、それぞれ更に二人を加えて六人のはずだ。
この宿屋についてはアルスは初めてではないため、この宿屋の一部屋に存在するベッドの数が二つであることを認知している。
ならば、通常なら部屋を四つと注文するはずだが、現実はその半分だった。
「おい、二つって」
「え、三人ずつで二部屋、別に悪くないだろ?」
「お前はいいかもしれないが、何で俺まで」
「あれ、その子達と仲悪いの?」
「いや、仲が良いなんて、そもそもそれに達していないというか」
「まあまあ、きっかけを作るのは僕の得意だから、ね」
グレンの意図は強引に同じ空間にすることで仲を深めるというもののようだ。グレンはアルスとは違い、人間関係、コミュニケーション能力に優れている。
だからか、このように自然と人との関係を操作できる。
アルスの評価からしてそれは才能と言っていいレベル、その術中に嵌って嫌な奴だと感じながらもグレンと共にアルスはいる。
「……はぁ~」
これ以上、何かを言うことを諦めたアルスは承諾し、部屋へと向かう。床はレッドカーペットが敷かれ、装飾も高級路線に凝っている廊下を歩きながら、自分達の部屋へと辿り着く。
「じゃあ、早朝だからね。起きなかったら、起こすから」
そう言い、颯爽とグレン達は部屋へと入った。
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