13.英雄の資質

「アルス、大丈夫なのか」


「誰に言っているんだよ。負けるわけねぇだろ」


 アルス・アレフリードはグレン達、エルディスとセンシアを後退させてたった一人、槍を携えて前に歩き出す。

 あの巨人についてはアルスも初めて対峙するが、不思議と恐怖は感じて来ない。

 奴は他の魔物と同じ、ただそれだけの認識だ。

 もし、この時点で恐怖に臆している自分がいたら、そいつは先祖の恥さらしになるだろう。家の存続と先祖のために自分の中にある才能だけでなく、努力をしてきた。

 それにこんなところで立ち止まるわけにはいかない。


「さあ、行こうか!!」


 自分の数倍ほどの体躯、正に巨人という表現が相応しい存在にたった一人、アルスは歩き出す。

 再び、巨人の咆哮。

 それと同時に巨人の腕が握られた棍棒のようなものと共に振り被り、アルスに向けて振り下ろした。

 ドゴォンと地面が揺れるほどの一撃。


「ッ――――」


 それを軽々と避け、地面と接触した棍棒、腕を足場にして頭部を目掛けて槍を振るう。

 それは案外、あっさりとこの戦いは終わる……だと、思っていた。

 更なる咆哮、いやそれは全力の叫び、死を感じた生命の絶叫だ。強い意思が含まれる声に巨人の体内にある魔力が周囲に放出される。

 それは魔力の循環、魔力操作を行うために体内の魔力を外に出し、体外の魔力を内へと流すことで自分の身体から外の領域へと魔力の感覚を伸ばす基礎的なやり方、その果てに攻撃魔法から魔法による身体強化を可能とする。


 何が言いたいかと言うと、基礎的な魔力循環を彷彿とさせる巨人の魔力放出、その存在の大半が魔力で構成されている魔物だからこそ、出来る芸当。知性はないが、死を感じ取ったことで動くことのない感情らしきものの高ぶりによってそれは引き起こされた。


 それによって後、一歩だったアルスは吹き飛ばされた。


「アルスッ!!」


「大丈夫だッ!!」


 まぁ、何も力を行使していないただの身体能力で勝てないなら、更なる力を自分に乗せればいい。

 卓越した魔力操作、アルスの得意、気に入っている属性である雷を身体に纏わせる。

 雷、自然現象の一つ。

 地水火風の四大元素とは新たに実現した属性であり、元素の中でも操るのが難しいとされた属性だ。

 真剣な表情、隙のない槍の構え、立ち止まっているがバリバリッと雷が自身の身体に纏い、十分になるまでアルスは動かない。

 一瞬にして自分の死を自覚させた相手、巨人はただアルスだけを目に映している。

 グオオオオオォォォォォッと周囲の魔力を吸い上げ、攻撃する部分である棍棒に集束させる。

 それは大きな隙だが、アルスはまだ動かない。

 真正面から戦いのもあるが、あの巨人のことを考察する。

 今まで戦ってきた魔物でも巨大で今回が初めて見た存在だが、これがグレンの言った強大な存在であるのか、もしかしたら強大な存在が生まれたから、魔物のレベルが上がったのか……。


 もし、これが複数、実在するなら、人類はまた追い込まれるだろう。

 これは由々しき事態だ。


「俺がやる――」


 ――力、ある者、その力を人のために使え。

 そんなありふれてそうで英雄の子孫であるアレフリード家に伝わっている教訓を目を瞑って思い返して、現実に戻る。

 自分を過小評価していたのか、それとも現実味を持てなかったのか、自分の力に自信を持つことはなかったのか……。


 正確には分からないが、それらをここで出来る限り拭うことにしよう。

 グオオオオオォォォォォッ――――

 知性無き魔物が死の恐怖で咆哮を上げ、アルスに向かって最大の攻撃を振り下ろす。


「ッ――――」


 双方の動きは全くの同時だった。

 いや、アルスが相手の動きに対して完璧に合わせたから起きたことだろう。

 魔物の巨人は決死の覚悟で、英雄の子孫は涼しい表情、至って冷静な面持ちで地を蹴り、足を動かし、完璧な地点で飛び立つ。


 そして心臓、その一点を狙い、雷速の一撃を与えた。

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