12.夜間訓練

 ウェロムレル大森林――元々エルフの息がかかっていたため、樹々、植物に通常より多く魔力が含まれている。

 その特有の場所から、元々のエルフの危険性から魔王が真っ先に手をかけ、今では魔物の拠点となっているのだろう。


「その調子だ、センシア!!」


「は、はい!!」


「次、左じゃ」


 センシアはさっきの一撃で魔物の狼の息の根を止めた。あの蹴り技、人間なら一撃で顎は簡単に粉砕され、それに伝播して頭部を粉砕されるだろう。

 そんなことを思い、ゾッとするアルスだったが、左に槍を突き、向かってきたゴブリンの心臓を一突きする。


「センシア、次だ」


「はいッ!!」


 三人はものの数分で五体の魔物を討伐した。

 アルスの手助けもあったが、指名されたセンシアは五体の内、三体を討伐することに成功した。


「ふぅ、いい腕だ。流石だな」


「そうじゃな。我と同じくその種族の中でもセンシアは特殊みたいじゃからな」


 すると何かの咆哮が森林に響き渡った。


「これは……先に行くぞ」


 その声の主は強大であると、三人はそれぞれの感覚から瞬時に察する。

 夜間での魔物との戦闘、それは向こうには関係ないが、人間には暗いという視覚不良から魔物討伐の難易度は上がり、更に魔物の拠点とされるウェロムレル大森林での戦闘なんてベテランしか立ち入らない。


 それの理由は明白、難易度が高いからだ。

 魔物の発生源は最西端の大地を穿つ穴だが、エルフの里が一つの拠点として機能している。

 あの噂であった強大な魔物、知性がある個体の可能性はあり得る話だ。

 魔王がいなくなって全盛期から魔物の総数は減り、その魔物を全滅させるために冒険者ギルドが全力で任務を斡旋していくが、それでも人類と魔物の比率は甘く見積もって同等なのは確実だ。


「エルディス、なのか分かるか?」


「うむ、デカいな。巨人じゃぞ」


「なるほどな。納得だ」


 その情報を聞いてアルスは大きくて深い音の咆哮の正体に納得する。

 あの威圧感から通常の魔物のレベルとは違うことに一瞬にして勘づいたが、アルスは別の事を考察する。

 まさか、とは思うが……。

 アルスはある線を考えながら、先に進んでいたグレンたちに追いつき、樹々が開けた場所で巨人と対峙していた。


「おい、グレン」


「あぁ、アルス。追いついたんだね」


 そのグレンの様子は焦っていた。

 彼の剣術は王国の騎士団のレベルであり、その才能はアルスも認めているはずだが、冷や汗をかいている。

 その相手、ドス黒い見た目の巨人、泥沼から現れたような忌々しい姿をしていた。

 人間とは数倍以上の体躯、それが原因だからか、討伐に時間がかかっている。


 ゴアアアッとアルスたちを認知して咆哮を上げる。


「まずいな。グレン、早くそいつを」


 奴の咆哮が伝播する、それによって他の魔物が集まってきていることをアルスは理解する。

 大体がそうだが、この状況は特に討伐に時間をかけてはいけない。

 あの咆哮は強さの証であり、威圧であり、同胞に知らせるためでもあるのだろう。

 まぁ、魔物に知性がないため、sこれは全てアルスの推測に過ぎないが、知性がなくともその行動の一つで影響を及ぼすことは確実だ。


「すまない。予想外だ――助けてくれないか?」


 この件は自分から言いだしたためか、自分が危険を被るつもりだったのだろうが、グレン・ヘリスデンベルは素直にアルス・アレフリードに助けを求めた。


「……あぁ、分かったよ。お前にはそいつは手に余ることは承知しているからなぁ!!」


 久しぶりの戦闘、人間社会の内には忘れてしまうことだが、この世界で必要なことは知能もそうだが、それと同じく重要なのは強さだ。

 この世界に人類に危険を及ぼす存在がいる以上、誰もが強さを身に付けなければ、生き抜けることはできない。

 アルスは家を守るために、先祖の者達に顔向けできない状況を改善するためにその才能を駆使して強さを磨いてきた。


 できれば、かつての英雄アルド・アレフリードのように、と――


「みんな、下がってろ!!」


 そして英雄の子孫アルス・アレフリードは槍を構え、一人で巨人にゆっくりと歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る