11.夜間戦闘

 三人が自己紹介を終えて目的地に向かう。

 この大陸の中心に位置するティスギア王国、大陸の西方は『魔王』と『魔物』の発生地として大地が黒く染まっている。

 そこから今でも魔物が湧き続けている。

 これを無視すれば、当然、英雄無き今であるなら、人類は圧倒的な数によって押されて滅亡するだろう。

 だからこそ、冒険者ギルドにある任務には魔物討伐が多くを占め、その案件は尽きることはない。

 現時点で根本的な解決方法はなく、ただ魔物による被害、魔物による生息地を人のものとして奪還することを目的としている。


「そういえば、最近、強大な魔物の出現をしているんだ」


「あぁ、それは聞いている。噂では知性があるって言っていたが、本当なのか?」


「分からない。でも西側の魔物の数が多くなっている。いつもなら波のような動きだったけど、動きは明らかに変わっているらしい」


「ん~……それが本当なら、誰かが統率している?」


「うん、その予想なら知性があって強大な存在が魔物の中から誕生したことになる」


「魔王……事実、英雄アルド・アレフリードが倒したことで魔物の勢いは魔王が存在していた時期から少ないらしいが……まさか、新たな魔王が」


「かもしれないね。通常の魔物のように無視するわけにはいかない」


「ん……ということは今回の任務って」


「ん、あぁいや、危険性はない。通常の魔物討伐だよ」


 魔物は夜間に活発になる、とされる。

 アルスの経験からぶっちゃけ、昼夜なんて関係はない。魔物の存在は知性なき生命であり、魔物という自分達以外の生命を襲う習慣を持っている。

 知性がないからこそ、動きは読めない。

 知性がないからこそ、区別は容易だ。

 知性がないからこそ、それは人とは違うことだと自覚できる。


 ティスギア王国の北西側にウェロムレル大森林が広がっている。

 その奥地にはかつて存在したエルフの里の跡地があり、今では魔物の魔窟と化しており、人が訪れることはない。

 そんな大森林に入り、周囲を警戒しながら、歩く。

 ティスギア王国周辺は初心者、駆け出し、中堅の冒険者によって夜中でも歩ける程度に魔物は存在しないが、その奥に行けば、あっという間に魔物に囲まれるだろう。


「そういえば、その子たちは初心者なんだよね?」


「あぁ、そうだな」


「なら、俺達は先に行くから抜けた魔物を対処してくれ」


 そう言い、颯爽と前方に駆ける。

 いつも通り、マイペースでアルスの承諾も聞かずに戦場へ駆ける。彼は動いたということはもう既に魔物の存在を探知したのだろう。

 奴はあぁ見えて優秀な部類に入る。

 それがあの純粋な精神状態であっても、高い貴族の坊ちゃんとして生き残っている証拠だ。


「さて、センシア。魔物を探知できるか?」


「ん、やってみる」


 白毛獣人のセンシアは意識を集中させる。

 獣人の特性として身体能力が高いことと、エルフの高い魔力感知に酷似した超感覚を持っている。

 それは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感が生物の中でも優れている。

 通常は人並みだが、五感のどれかを意識して集中すれば、元来存在する獣人の特性が発揮される。


「あ、います。五体」


「そうか。どうだ、エルディス」


「は、魔法を使ったら、魔物どもがすぐにこっちに向かってくるぞ」


「承知の上だ。センシア、魔物は他の動物と同じだ。頭か、首、急所を狙えばいい。一体くらいは倒してくれ。エルディスはセンシアのサポートだ」


「了解じゃ。じゃあ、フレイム」


 アルスの指示でエルディスはわざと、魔法を発動した。

 魔物の特徴は人、エルフ、獣人など人型とされる生命と比べて知性が皆無であること、

そして体内に保有する魔力の量が一番多いことだ。

 魔物という生物を研究していった結果、それが判明し、更に特有の魔力によって自分達、魔物と他の生物の判別をつけている。

 だからこそ、魔法発動や魔力を感知して対象を判別し、奴等を殺せば、身体を構成している魔力が霧散して塵と化す。


 魔物の形はウルフと呼ばれる四足歩行の獣人に近い形、人型であるが人より小さいゴブリンと様々な形を取る。

 エルディスの魔法を感知して一番にアルスたちに辿り着いたのは狼だ。

 三人の中で一番前にいたアルス、その首元を噛みちぎるために地面を蹴って高く魔物の狼は茂みから飛び出した。


「ふんッ」


 彼女の感覚は最大まで研ぎ澄まされ、契約者であるアルスを守る意思を以ってセンシアは牙を剥き出しにした魔物の狼の頭部を蹴り上げた。

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