10.成した幼馴染

 英雄の子孫アルス・アレフリードも人間だ。

だからこそ、幼馴染と言える立場のグレン・ヘリスデンベルと嫌でも比較してしまう。

 それが顕著になったのは、成人して冒険者稼業を初めてそこで久しぶりに再会した時、そこでパーティーを組むことになった。

 父親の病が悪化するまでは貴族の社交界で幼少期に出会い、小さい頃は気さくで子供らしい純粋なもので、その時点では好印象で進んで関係性を拡張していかないアルスにとっては友人と呼べるものだった。


 だが、以前で出会った時にはグレンは当たり前だが、成長という名の変化が顕著に出ていた。

 自分と同じ歳に成人し、優秀な彼のことだ、兄弟がいるって話を聞いていたが、その中でも当主の候補として選ばれたのだろう。

 その証拠が二人の許嫁、優秀な人物の子供を増やそうとするのは生物としての当たり前の本能、それに従っていることを考えると彼の現状をアルスは瞬時に察した。


 だからこそ、以前、パーティーを組んだ時に気まずいったらありゃしなかった。

 その時、アルスは自分とグレンのことを比較してしまった。

 確かに今の自分はグレンより地位は劣り、裕福ではない。彼は家のことを常に考えて大変な日々だが、グレンからは余裕を感じ、男として女も手に入れている状況、男の人生としては順風満帆と言っていいものだ、と自分はそんなものはないと、不意に押し殺していた理想が溢れてきた。


 それに対してグレンはアルスの印象は相変わらず変わっていないが、その天才性は幼少期の頃から増していた。

 グレンの自己評価は人が良いだけ、優秀なのは努力の末。別に努力せずに物事を成すことは出来ないと理解はしているが、アルス・アレフリードは努力を省略して完璧なまでの物事を成してしまうのだ。

 幼馴染としてそのことについては以前から知っていた。

 それが成長して破格のものへと変わっていた。人としての戦闘能力は自分より遥かに上であり、どんな時間を費やせばと考えたが、その努力が不要なのだと認識するのに少し時間がかかったほど、羨ましいとは思ったが、それは不可能だとグレンは理解し、それがアルスの長所であると評価している。


 お互いが成長した友人を評価し、羨むが、出来ないと理解している。

 現実と理想――羨む、それをアルスは、そんなことを考えても現実的ではない、と押し殺した。

 そんなことは意味がないと……でも、今は……現実も理想も叶えると決めた。


「いやいや、僕はアルスに何も悪意は抱いていないよ。アルスは前から自分のことより家のことを熱心にやっていただろう?」


「ッ……」


 これがグレンの純粋さだ。

 貴族の息子、成人して人が築く社会という暗闇も見てきたはずだというのに、大人になるつれ、純粋という生まれた時の残り香、誕生の余韻は消えるのが道理だというのに今でもその純粋さは失われていない。


 それが彼の特異性であり、当たり前だがアルスにはないものだ。


「で、どうするんだ?」


「あぁ、やるさ」


「うん。じゃあ手続きは僕がするよ。その後、改めて自己紹介をさせてね」


 そう言い、グレンは予め決めていたのであろう任務の紙を掲示板から剥して受付へと持っていき、手続きをする。


「はぁ~……」


「そりが合わんな。でも、嫌な奴ではない、むしろお主が……」


 年長者、多くの経験をしてきたエルフのエルディスは明確に指摘する。


「ふん、言わなくていい。もっと敬意を払え」


「それは敬意はまだ湧かんが、了解じゃ。我が主様」


 その声色から察するにまだ建前で呼んでいる、まだ関係性はしっかりとしていないが、それは今後の課題とアルスは考えているとグレンはすぐに手続きを済ませて、六人は冒険者ギルドを出て、目的地に向かった。

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