3.男の欲望

 楽しまないと、ノエの説得というか、心の在り方を教えてもらったアルスはその方針を変えた。

 今まで現実だけだった考えに『理想』を加えた。


「よし、そうと決まれば……」


「好きな人を探しに行くのですか?」


 言い方。

 まぁ、それだけではないが、まず考えたこととして……。


「まぁ、それもそうだが。今までパーティーに加入していたが、それで孤立していたからな。自分でパーティーを作ればいいと思ってな」


「好きな人と?」


「どうだろうか、魔物討伐は危険だが……それにそう簡単にいるかどうか」


 またしても現実問題。

 好きな人と、と言ってもそんな危険な目に会わせるわけにはいかないと良心が思う。好みに関して言うなら、力があるかどうかなんて関係ない。


「ん~、今の冒険者の状況を考えると個人で活動している人なんていないだろうし……」


「え~と、あてがないわけではないですが、奴隷商会は?」


「ん、奴隷商会?」


「はい。非人道的行為ですが、アルス様の要望を叶えるなら、可能性は高いかと。そして貴族なら奴隷商会に入れますし、一人の女性を救えるかもしれません」


「……」


 言いたい事は分かる。

 確かに奴隷商会には貧困の果てに落ちた女性から、価値を求めるなら珍しい生物は存在し、それを決して逃さない。

 知性ある種族でもあの中では人権は剥奪される非人道的な行為だが、確かに探すなら、そこが良いだろう。


「そうだな。そこに行ってみるか」


「では、私もお供します。貴族としての格を見せつけるためなら、使用人の一人はお傍にいませんと、それに使用人兼護衛ですから」


 ノエ、エル、ルアはエルフという今では絶滅危惧種であり、希少種であり、種族の特性として魔力感知が高く、人より倍の速度で魔法を習得できているため、多分、戦力としてなら王国の騎士団と互角であり、それを指南したのがあの英雄アルド・アレフリードであるのだから恐ろしい。


「俺は別に大丈夫だぞ。幸いにも能力は機能しているし」


「いいえ、これは見え方の問題です」


 アルスは素の優秀さと合わせて生まれつき能力を持っている。

 その詳細は長生きしているノエ達でも見たことがないものであり、それによって実質、アルスに出来ないことはない。

 そんな万能に近いものを持っていても現実は厳しい。


「分かったよ」


「では、すぐに準備をしてきますね!!」


 そう言い、ノエは屋敷に小走りで向かっていった。

 必要なものはお金と身支度を即座に整え、数分後に戻ってきたノエの案内によってアルスは奴隷商会へと向かった。

 奴隷商会は特定の路地に入り、地下へ進むとそこに奴隷商会はある。

 アルスは奴隷商会に関して存在は認知していたが、実際に入ったのは初めてだ。


「おぉ、暗いな」


「一応、中身を好まない人が多いですからね」


 まぁ、立地が地下だから、ということもあるだろうが、灯が少ないのは入った最初の印象だった。

 だが、その中身は想像通りだった。壁などなく、広い空間に大小の檻が存在し、それによって道が出来ている。

 入った瞬間、お客を待っていたのか、すぐさま紳士服姿の小太りの男が高い声を上げながら近づいてきた。


「やぁやぁ、ようこそお越しくださいました。奴隷商会へようこそ。わたくし、ここの支配人のベルベと申します」


「よろしく、ベルベ。早速だが、紹介してもらうかな?」


 貴族たる立ち振る舞いを完璧に学んでいるアルスはそう振る舞い、貴族の中の貴族がきたと印象を受けたベルベはご機嫌がよさそうに案内を始める。


「さて、今回はどのようなものを?」


 もの、ということに引っかかるが、奴隷商会の人間としては完璧なものだろう。

 いわゆる仕事熱心のベルベはお客の注文を聞く。


「うッ……」


 ここに来た目的は現実と理想を叶えるためであったが、どんなことを言っていいのか詰まる。

 それを悟ったノエは主人の代わりに答える。


「アルス様は女の子を探しています」


 それは直球だった。

 だが、それが正しい解答だろう。アルスが言葉を詰まった理由はただ形にしづらく、欲望であったため、単に恥ずかしかっただからだ。

 まぁ、でも奴隷商会を求める人間の多くは欲望や必要なものを求めている人で、一般的に言うなら買い物とさして変わらない。


「ほぉ、女の子……では案内しましょう」


 少し間を開けてベルベは行き先を決めたようだ。

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