4.奴隷商会

 奴隷商人のベルベに案内されてきた檻の中には女の子がいた。


「こちらはどうですか?」


 そう促されて檻の中にいたのは確かに女の子だった。

 小さい。彼女を見て真っ先にそう思った。

 自然に由来するような薄緑色の長髪、両手に手錠、足に鎖をつけられてうずくまっている少女。


「この子は?」


「えぇ、世にも珍しいエルフです。ほら、耳が尖っていますよね?」


 ちなみにノエは魔法で特徴的な耳を隠しているため、人間と思われている。


「あぁ、そうだな」


「おや、もしやエルフをご存じない?」


 今では絶滅という状況であるエルフを見て、通常なら驚くのだろうが、エルフという存在はノエ達、使用人がいるため、アルスにとっては日常となっている。

 そのため、アルスが驚くことはなかったが、ベルベはアルスがエルフというものを知らないと思って説明を始める。

 エルフという種族は長寿であり、魔力が満ちている大森林を生息地にしており、人間より魔力を敏感に感知し、魔法に関して卓越した才能を有している者たち。

 だからこそ『魔王』は意図的なのか、真っ先にエルフの里を襲撃したのだろう。


「まぁ、それほどまで希少種でありますのが、エルフなのです」


 妙に自慢げに話すベルベだが、そのアルスは当然、知っている。


「少し検討させてくれ」


 そう言いながら、檻の中をまじまじと見る。


 するとノエがアルスに小声で話しかける。


「アルス様、このエルフ……」


「ん、うん。まだ子供だな」


「はい、それもありますが、髪色です」


「髪色? たしかにノエと違うが……」


「はい。自然を印象づける薄緑色、これはエルフの中でも魔力感知が高い個体の証です。はっきり申し上げると……詐欺、かもしれません」


「ん……そんなに珍しいのか?」


 エルフであるノエの考えでは、エルフの中でも誕生するのが希少なほどであり、この絶滅寸前の現実で現れるなんてあり得ない、ということで髪色を変えて詐欺を働いているのかと勘ぐっているのだ。


「ん~、確認する方法は?」


「いえ、それは本人が魔力操作、魔法を行使すれば、分かりやすいですが……」


 まぁ、この状況では無理な話だ。

 でも、それで別に選ぶ条件は女の子というだけで自分の好みに魔力感度が高いなんてことは別にいい。


「ん~、ん? 奥の子は」


 一旦、考えるため、エルフから目を逸らすとこの檻にエルフとは別の存在に気付いてベルベに質問する。


「あぁ、獣人です。あれも珍しい色で暗いですが、その毛並みは何とシルバーですよ、シルバー!!」


 声がデカい。

 それほどまで価値があるのか、ならまたしても詐欺の確率は上がっている。

 この檻の中にエルフと獣人の珍しい色、毛並みである個体が納められているのも詐欺を疑わざるを得ないが、アルスはそんなことはどうでもいい。

 ただ女の子を……。


「ん……見えづらいな」


「申し訳ございません。おらッ、こっちを向かんか!!」


 とベルベは檻の中にいる少女二人を一喝する。

 それに素直に従い、エルフと獣人の少女はお客であるアルスとノエの傍まで寄ってくる。

 みすぼらしい服、細い身体、珍しいとされているのなら、もっと良い環境で育てた方が元の価値が発揮されるだろうが、奴隷商会に捕まってしまったのだから、しょうがない。

 彼らはその事業のため、珍しいものに目がなく、それを捕獲する技術、戦力も保有しているため、人間の勢力においては誰もがその倫理を説き、敵対することはできない。

 人間社会の闇、その一角を担っているのが奴隷商会だ。


「じゃあ、この二人を貰うよ」


 少し悩んだが、この気持ちに従ってアルスはベルベにそう告げた。

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