始末 14

 さて、帰りの目処もついた訳だが。

 いくらフィオナとは言え、速攻で用意出来る物でもない。

 現代とは違うのだ。

 電話一本でタクシー呼ぶのとは事の重大さがレベチ。

 と言っても。

 明日には用意出来るとの話で。

 フィオナの影響力。

 それを推して知るべしって状況ではある。


 どうしよっかな。

 妙に、一日だけ空いてしまった。


 ちなみに、この家には今俺1人しか居ない。

 ノアの自宅に俺だけってのもおかしな話の気もするが。

 他2人とも。

 朝食を取るなり早々に家を後にした。

 多分、忙しいのだろう。


 職業的に普段からってのもあるだろうけど。

 昨日、暴動が起こって。

 学園に直接の被害は無かったとは言え、保護者相手の説明とかもあるだろうし。

 貴族様やら富豪相手なのだ。

 この状況で、変に後回しにする訳にも行かない。

 それとは別に。

 昨日、黒幕とっちめて諸々を解決した当事者達だからな。

 その説明やら。

 他にも面倒ごとが多いにあるのだろう。

 考えただけで面倒くさい。

 まぁ、ノアは英雄願望あるっぽいし。

 フィオナもそれ取引材料に何かするつもりらしいから。

 俺みたいな面倒くさがりとは別。

 本人達的には嬉しい悲鳴なのかもしれないが。


 室内でこんな事考えていても時間の無駄か。

 王都きて、特に学園祭以外特に予定とか無かった訳だからな。

 暇になったと言っても。

 正味、先日までと何も変わらない。

 もうそんな王都ともおさらば。

 こう考えると少しだけ、寂しくもあるな。

 そうだな。

 いつもの所に最後寄っていって。

 それで終わりでいっか。

 ……うん。

 何か特別なことしようってより、その方が俺らしいわ。


 家を出て、大通りの方へと出る。

 しばらくは見慣れない道並みだが、それも一瞬の間だけ。

 すぐに慣れた物に変わった。

 そこからしばらく歩き。

 庶民街へ。

 屋台が並ぶ通り。

 王都に来てから頻繁に飲み歩いている場所だ。


 昨日の暴動の影響で、この通り自体が閉まってる可能性も頭を過ってはいたが。

 問題なく幾つもの屋台が営業していた。

 一安心。

 まぁ、あの暴動による被害も貴族街が主だったし。

 こちら側はあまり影響を受けていないのかも知れない。

 と言っても、無関係とは行かない様で。

 まだ午前中だと言うのを考慮しても、いわゆる活気ってやつが少し低い気もする。

 屋台の数も、お客さんの数も、この場所の雰囲気自体も。


 それも相まってか、昨日のお祭り騒ぎの名残。

 おそらく元締めの所のなんだろうな。

 なんて、考えていたそれ。

 人手が集まらなかったのだろうか。

 1日過ぎて。

 デカデカと掲げられた横断幕。

 それが逆にここのもの寂しさを加速してる気がする。


 働いてる人々も、心なしか少し寂しそうだ。


「やあ、おっちゃん」

「お、いらっしゃい」


 おっちゃんの屋台が出てるのか、少々不安だったが。

 杞憂だったらしい。

 まぁ、学園祭の前にしばらく休んでたしな。

 今休む訳には行かないなんて。

 そんな理由もありそうだが。

 取り敢えず、それなりに元気そうに営業していた。


「お前さん、無事だったんだな」

「ん?」

「いや、昨日学園祭行くって言ってたろ?」

「あ、そういやそんな事話したっけ」


 別に心配されるような事は何もなかったんだけど。

 いや、個人的には色々あったが。

 俺が事前に対処出来たのもあって、学園自体には何も無かった。

 ま、貴族街にあるからな。

 庶民街にいるおっちゃんから見れば勘違もするか。


 そういや、思い返してみると。

 捕まるだなんだ。

 昨日、屋台に寄った際に結構酷いことを言われた記憶。

 心配してくれてたんだろうけど。


 そんな中、あんな大騒ぎが起きれば。

 多少なりとも気にもするか。

 ありがたくはあるな。

 何も無かったなりに嬉しくはある。

 いや、実際の所。

 結局捕まっちゃいはしたんだけどね。


「ったく、相変わらず適当な奴め」

「ま、学園自体は被害なかったし問題ないよ」

「だから心配してたんだけどな」


 ……?


 だからって、どういう事?

 学園に被害が無いと俺が心配になるって。

 理屈が……

 まるで、俺に何かあったせいで学園に被害が出なかったみたいな言い方。

 俺が学園に何かしようと。

 そう企んでた。

 これなら、話は分かるが。

 そんな事実はない訳で。


 あ、俺が学園の闘技場で捕まえたテロの未遂犯。

 捕まえなければ被害が出ていた。

 今回の暴動。

 その実働を担ったのはおそらく庶民で。

 もしかして、おっちゃん。

 前々から知ってた?

 捕まるだ何だってやり取り。

 あれ、ただの冗談じゃ無かったのかもしれない。


 改めて、周囲を見渡してみる。

 屋台の数が少ないのも。

 人通りが少ないのも。

 雰囲気が寂しげなのも。

 思い込んでみると、そう見えなくもない。


 誰かに唆されて、実際に行動に起こしてみて。

 被害はでた。

 大騒ぎにはなった。

 でも、何か変わる気配があったかと言われればそんなことはなくて。

 何なら。

 いつ捕まってもおかしくない。

 結果としては、大犯罪の片棒を担がされただけ。

 そんな悲哀が漂っている。


 いや、合ってる保証はない。

 ただ単に、そう見えるってだけで。


 魔力結晶のおかげで実働部隊の質が低くても起こせたとは言っても。

 別に、誰でもいい訳じゃない。

 変に噂されても困るし、事前に情報が漏れたら上手くいくものも行かなくなる。

 そう言う意味じゃ、ここの屋台は便利なのか。

 屋台同士がある程度の共同体。

 商店街的な、横のつながりを結構感じる。

 そして、その日暮らし。

 店を持てない、金に困ってる様な人間も多いのだろう。


 掲げられた横断幕も……

 なるほど。

 それなりに力ある元締もいる様で。

 イニシアチブも取りやすい。


 おっちゃんは、実際に何か行動したのだろうか?

 朝は普通に働いてた気がするが。

 その後のことは知らない。

 働いてる以上、捕まってはいない様だが。

 それも、同時に問題起きすぎて逮捕も難しかっただろうし。

 これ自体は何の証明にもならない。


 ここまで考えて見て、そりゃ止めたくもなるか。

 学園だもんな。

 周りは監視の目だらけで。

 効果的でも。

 危険すぎる。

 実際、ただの親切心からの忠告と。

 理解は出来てなかったが、受け取った意味としては同じ。


 直接言葉に出さなかったのは。

 迂闊だから。

 多分、そういう事なのだろう。


 意識してみると。

 首元、銀色のチェーンをしているのに気づいた。


「……それって?」

「あぁ、これは単なるお守りだよ」

「へぇ……」


 恐る恐る、指摘してみると。

 少し引っ張り。

 服の内側にあるそれを少し覗かせた。

 銀貨のネックレスだった。


 お守り、ね。

 なるほど。


「おっちゃんも酒飲むか?」

「奢りか?」

「もちろん!」

「貰う」

「いいのか、今は仕事中だろ」

「今日は特別だ」


 色々と巻き込まれて面倒だったけど。

 元凶じゃなさそうだし。

 何より、飯がうまかったからね。

 何かをしようって気にはならなかった。


 実際に何かしたとも限らないのだ。

 決定的な事は言ってないし。

 ただ、俺の事を心配して声をかけてくれただけ。

 行動してない所か。

 無関係って線も十分にあり得る。

 このネックレスも。

 ただのお守り。

 自営業やってるおっちゃんが持ってるのも。

 別におかしいものじゃない。


 串を受け取り。

 食べ。

 酒を流し込む。


 酒がまずい、世間は世知辛いね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る