始末 15

 酒を片手に王都の街並みを練り歩く。

 昨日の暴動の影響は感じつつ。

 それでも、問題なくこの街は機能を続けているらしい。

 人間ってのは強いな。

 そして俺も、自分で察してはいたが強かな人間の1人。

 一瞬、感傷に流されて。

 酒が不味いなんて気もしたが、勘違いだったわ。

 やっぱりいつ飲んでも酒は美味い。


 初めの目的の屋台にもより。

 そのまま、なんとなく彷徨っていた訳だが。

 思い出した。

 王都から帰る前にやることあったわ。


 文字通り、この国の首都なだけあって。

 物の品揃えが豊富なのだ。

 生モノは少ないけど。

 保存が効く酒みたいな物は、正直他の街とはその数が桁違い。

 帰る前に、買ってった方がいいよな。

 こんな種類がいっぺんに手に入る機会なんてあんまりないし。

 いや、ノアから。

 今回の話でフィオナからも。

 色々と、仕送りが送られてくることになってはいるが。

 それじゃ足りないってか。

 そもそも量を送る物でもないだろう。

 良さげな品、それをいくつか定期的に貰ってるって話で。

 今回の話とは全くの別物といいますか。


 各地で作られた、様々な種類の安酒。

 それを大量に。

 これは俺が直接買うのが一番効率がいい。

 後、王都土産にもなるしね。


 ギルドの受付嬢も、併設されてる酒場のおばちゃんも。

 なんだかんだで酒が好きなのだ。

 値段の割に、安酒って輸送との兼ね合いでウーヌじゃ手に入らないのも多いからね。

 送料分乗せて売ろうとしても。

 元が安酒だから、高値じゃ誰も買わなくて。

 いつの間にか入荷がなくなるって言う。

 そんな状況だから。

 値段の割にいいお土産になるはず。

 どぶろく擬き。

 港町から持って帰ってきたアレ、結構喜んでくれてたし。


 目に付いた、適当な酒屋に入店。

 抱えられるだけ。

 片っ端から酒を買っていく。

 そのまま店を出て。

 裏路地で人目を避けてアイテムボックスへ。


 このまま何店舗か回る予定。

 品揃えのいい店がいくつもあるの、やっぱ都会の強みだよね。

 こんな店。

 ウーヌみたいな街じゃ一軒あればいい方なのに。


 ただ、ちょっと調子乗って買い過ぎたかも。

 ただでさえ減っていた現金。

 そろそろ使い切ってもおかしくない所まで来てしまった。

 盗賊からの臨時ボーナス。

 あれ、結構な量あったはずなんだけどな。

 ま、帰ったら薬草採取でもして真面目に稼ぎますか。


 いや、今でもそれなりの額なんだけど。

 元の額が額だけに少なく感じる。

 あぶく銭は身につかないって、あれ本当だね。


 そんなことを考えながら。

 一応、面白い店はないかなと探しつつ。

 当てもなく歩く。


「ロルフさん!」


 急に、後ろから声をかけられた。

 振り向く。

 声の時点で分かってはいたが、ノアでもフィオナでも無かった。

 当然メスガキでもない。

 ただ、それ以外に王都で声を掛けられる当てもなく。


 若くて、整った容姿をしている。

 後、胸もデカい。


 王都にこんな知り合いいたっけ?

 まぁ、フィオナの件もあるし。

 自分の記憶。

 それ自体には全くもって自信はないのだけど。

 でも、彼女の年齢はおかしいよな。

 同世代って感じでも無い。

 当時のクラスメイトとかじゃないだろうし。

 間違いなく。

 俺が王都離れた後に生まれた世代だ。


 今回、王都に来てから知り合って。

 それで忘れてるって線は、流石に勘弁してほしい所だが……

 いくらポンコツな頭とはいえ。

 それぐらい。

 最低限の記憶保持能力はあって欲しい所。


 ただ、見覚えはあるんだよな。

 思い出せなきゃ意味ないんだけど。

 これも成長か?

 随分と微妙な成長速度である。


「覚えてます? 私、温泉街の……」


 温泉街?


 それって、女将さんの宿がある。

 あそこだよな。

 ま、そこ以外知らないし。

 多分、俺の認識は合ってるはず。


 ……あ、そう言えば。

 居たわ!

 温泉街って言われて思い出した。


 見覚えがある理由もこれか。


「そういや、お店卒業して王都に行ったって」

「え、知ってるんですか!?」

「うん」

「それは、ごめんなさい」

「?」

「それ知ってるって事は、私が抜けた後あのお店行ってくれたんですよね」

「まぁ」

「いつも指名くれてたのに、勝手にいなくなっちゃって」

「いいってそんなの」


 急に謝られて何事かと思ったが、そんな事か。

 別に奴隷じゃ無いんだ。

 俺に、お店で働いてるだけの女の子を勝手に辞めるなと縛る様な。

 そんな強力な権限、あるはずもない。


 それにしても、そうか……

 あの子がねぇ。

 王都に来て、いい意味で垢抜けたのかもしれない。

 見覚えはありつつも。

 一目では気づけ無かった。

 いや、俺の記憶力の言い訳とかではなく。

 本当に変わった気がする。


 そういう店で働いてる時点で、元から美意識は高かったのだろうが。

 この世界。

 物流のせいで、隣町に行けば文化が違うんかってぐらい差が出ることも良くあるし。

 文化だけではなく。

 服やらアクセサリーの類も流通が偏りがちで。

 なんでも手に入る現代とは違うのだ。

 だからこそ、都会に出た時の垢抜け具合もその比じゃなくなってくるのかも。


 そういえば、店員がなんか言ってた様な。

 王都に出て店を開いたとか。

 そうだ!

 確か、働いてた理由もその為の資金集めとかで。


「お店の方は、順調?」

「はい、それなりに」


 謎に謙遜入ってるが、表情としては明るげ。

 見るからに嬉しそうだ。

 結構上手く行ってるらしい。

 へぇ。

 例え十分な資金があったとしても、女性が王都に出て店を持つなんて。

 かなり難しいと思うけど。

 なんだかんだ、それなりに順調に経営してる様子。


 そういや、娼館でも一番人気とかだったっけ。

 最低限稼ぐだけならともかく。

 ナンバーワンになろうと思ったら、ただ体売ればいいってもんじゃないし。

 商品は自分の体だけ。

 究極の接客業であり、究極の営業職。

 そういう意味じゃ元々その才能はあったのかもな。


 王都で働く人間の闇を見て、ちょっと気分暗くなっていたが。

 都会で生きてくのは、そう簡単な事じゃないなと。

 でも、そう悪い話ばかりって訳じゃないらしい。

 闇が濃い分、それだけ輝きを放つ夢なんかも有るって事だ。


「今の時間ってお店やってるの?」

「いや、大体は日が傾き始めてからですね」

「そっか、残念」

「え、来てくれるんですか!?」

「お世話になったし何か買おっかなって」

「ぜひ! 全然お店開けますよ」


 一瞬、時間外に悪い様な気もしたが。

 彼女はバイトとは違うのだ。

 オーナーからすれば、時間外だろうとお客は嬉しいのかもしれない。

 まぁ、俺は自分の城を持った事が無いのでただの想像だが。


「あ、でも……」

「ん?」

「ロルフさんが買う物は無いかも」


 どんな店か聞いてないな。


「そういや、何屋さんをやって」

「……えっと」

「?」

「ボディーアクセサリーとか、ランジェリーなどを……」


 ……おっと?

 確かに、俺が買う物じゃないかもしれん。

 でも。

 応援はしたいしな。


 それに、無駄にはならんだろ。

 俺が付ける必要もないし。

 なんだかんだ、関係ある女性はそれなりにいるからな。

 プレゼントにでも。


 高そうな予感もするが。

 ま、これぐらいいいでしょ。

 どうせあぶく銭だし。

 使い切ってなんぼだろう。


「プレゼントにでもしようかな」

「確かに、それ良い。私も貰ったら嬉しいし」


 何かナチュラルに客として渡す想定をされてる気がする。

 まぁ、そういう関係だったから仕方ないけど。

 逆に、普通にお付き合いしてる人とかに渡しても引かれそうだしな。

 前世でも怪しいのに、異世界で。

 ま、俺が渡す相手。

 ありがたいことに嬢ばかりでもないのだが。

 大体は抵抗なさそうだし、多分渡しても大丈夫だろう。


 王都で買っておいてあれだが。

 獣っ娘やらウームの嬢へのお土産だけじゃなくて。

 フィオナとノアにも渡してもいいかもな。

 なんか、どっちも似合いそうだし。


 流石に、メスガキには渡さないけど。


「お母さんも、温泉街のあそこのお店にお世話になってて」

「……へぇ」

「その時からこういうの可愛いなって見てて」

「それで始めたんだ」

「はい!」

「王都以外じゃ手に入りにくいので、私がセレクトして温泉街のお店にも少し卸してるんですよ」

「あ、そうなの?」

「後は女の子がお店移る時ウチの事お勧めしてくれたりして」

「そうやって順調に売り上げ伸ばしてるんだ」

「えへへ」

「やり手だねぇ」

「いえいえ、そんな事はないんですけどね」


 話してて、随分とテンションが高い。

 昔を知ってる相手だからこそってのもあるのだろうか。

 自慢しがいがあるらしい。

 相手が男だったら別だが。

 可愛い女の子。

 自慢話もいくらでも聞いていられる。


 話してるうちに、あっという間にお店に着いた。

 大通りから外れた場所。

 ま、客層がそうだから当然か。

 わざわざ高いメイン通り沿いに店を構える意味も薄い。

 娼館やら、連れ込み宿やら。

 そういう店が並ぶ場所だ。

 俺が衛兵に捕まったのも、ここの近くだったはず。

 時間的にほとんどの店舗が閉まってる。

 人通りも少ない。

 鍵を開け、店内に入れてくれた。


 独特な雰囲気、そして香りも。

 普段、お香でも焚いているのかもしれない。

 そして店内に入ってすぐに棚に視線を持っていかれる。

 キラキラと光を反射し。

 綺麗なアクセとランジェリーが並ぶ。


 どれがいっかなー、


「ご試着していきますか?」

「いや、俺が着たって」

「でも、このままだとイメージしにくいでしょ」


 確かにそうだけど。

 マネキンでも持ってくるのかと思ったら。

 突然。

 着ているモノを脱ぎ始めた。


「……へ、急に何を?」

「このお店開けたのもロルフさんのおかげですから、お礼させてください」

「そんな事」

「商品をお買い上げいただけるお客様限定で」

「限定……」

「本日に限り店内全商品の試着、特別に無料サービス致します」

「サービス?」

「はい、サービスです」

「……」

「いかがですか、ご利用致しますか?」

「もちろん!」


 娼館で買うのも良いけど。

 卒業した娘と別の場所でするってのも。

 なかなか乙なモノだよね。

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