始末 12
「キョトンとして、どうしたんですか?」
「いや、便がないって今……」
自分で言ったじゃん。
理由としても。
まぁ、そりゃそうだよなって感じだし。
それを私が手配しましょうかって。
どゆこと?
そんな事出来るん?
「あ、そういえば。まだきちんと自己紹介してませんでしたね」
「いや学園で教師やってるってのは勿論」
「それはそうなんですけど」
「……?」
「実は、学園の理事を少々」
「へ!?」
「後、王宮魔術師なんかも兼任してたりとかしまして」
え、思ったよりお偉いさんだった。
しかも、家柄がどうとか言う話だけではなく。
勿論家柄も良いんだろうが。
本人がしっかり要職についてるパターン。
男尊女卑の異世界で、珍しい。
そんなことやってたのか。
こんな要職ついてるくせに俺みたいのと体重ねるとか。
つくづく。
人間として頭のネジが外れてんなと。
そんな感想を抱きつつ。
確かに、これぐらい力あるなら。
多少の無理を言って、ドラゴン便一本用意するぐらい。
不可能って事はないか。
そもそも、本部から兵隊連れて来てたもんな。
あんな短時間で。
その時点である程度の地位にある事は察しておくべきだった。
いや、その時は凄えなぐらいに思っていたのだが。
流石貴族様と。
でも、そんなレベルじゃ無かったって話。
想像以上。
普通に考えて木端貴族にそこまでの権限があるはずないのだ。
特に騎士団の連中なんて。
場合によっては貴族も捜査する人員なのに。
末端の兵士数人とかならともかく。
部隊連れてくるとか。
目の前のことに精一杯で、あまり頭が回っていなかった。
ノアは知っていたのだろうか?
度胸あるな。
こんな相手に3人でしようとか言い出すって。
元々自信なさ気な子だったのに。
都会にきて変わったんだな……
視線を向けると。
俺と同じくびっくりしていた。
……おい!
「もしかして、ノアも知らなかった感じ?」
「は、はい」
講師やってんのに、学園の理事知らないってどうなん。
まぁ、外部講師って立場だし。
数ヶ月しか経ってないし。
理事長ではなく理事なら仕方ない、のか?
てか、そもそもいきなりナンパし出すような奴だからな。
地位は別として。
他の教師からの扱いも、何となく察せるところはある。
良くも悪くも、雑に扱われてそうな感じ。
王都中で暴動起こってるって緊急時に俺のことお茶に誘い出すぐらいだもの。
そんな扱いだから。
講師初めてこの数ヶ月、ノアも気づかなかったのだろう。
学園の理事、しかも王宮魔術師も兼任だろ?
かなりの大物である。
戦争での価値は騎士より魔術師の方が高いのだ。
役職に就いてるのかは知らないが。
それでも。
散々、今回の暴動でもそれは実証されていたし。
少数精鋭の特殊部隊。
学園の教師以上に誰でもなれるもんじゃない。
まぁ、結局兵士ではあるから。
騎士団長と同じ。
王族みたいなのとは違うんだけど。
だとしても。
上澄なのは確実。
いや、女性でって事を考えると。
王族の線も消えないのか?
今になって恐ろしくなって来たんだが。
俺、避妊もせずに……
……いやいやいや、多分違うはず。
王族はないな。
うん。
常識的に考えて。
王族がこんな事しないもん!
まぁ、常識があるんだか怪しい相手ではあるが。
違うと信じよう、切に信じたい。
「もしかして、伯爵。まさか公爵だったり?」
頼む!
そうだと言ってくれ!
正味、それでも怖いっちゃ怖いが。
せめて。
これぐらいで勘弁してくれ……
「いえいえ、違いますよ」
……終わった。
「そんな偉くないですから」
「あ、そうなの?」
「いや、公爵家に生まれてたらこんな事しないですって」
「……」
「何ですかその目は。言いたいことがあるならどうぞ」
「べ、別に。何でもないです」
いや、もちろん分かってますって。
常識的に考えれば当然。
名家の令嬢なら、俺と寝ようだなんてするはずがない。
バレれば家の名に傷を付けることになるし。
嫁ぐ際にもマイナス。
すでに嫁いでるならもっとヤバい事に。
決して、常識を疑ってたとか。
そんな事実はない。
うん。
だから、ジト目を辞めて頂けると。
「でも、だとしたら凄いな」
「え?」
「だって、親の力無しに自力で成り上がったって事だろ」
「あ、あぁ……」
言いにくそうに、目を逸らされた。
ん?
話を聞いてみると。
どうも、フィオナのお母さんが元公爵家の令嬢だったらしい。
おい!
確かに今は公爵家じゃないのかもしれんが。
思いっきり血繋がってるやんけ。
と言うか、公爵て。
多分王族の血も入ってるだろ。
それに、そこから嫁ぐとなるとどっちみち。
かなり高位の家に嫁入りしてるんじゃ。
と思ったが、嫁いで家を抜けたわけじゃないらしい。
勘当されたとか。
……それはそれで地雷臭するんだけど。
元は王子の婚約者だったと。
えぇ。
それ俺の予感、ほぼ当たってるじゃん。
たまたまのアクシデントで王族じゃ無かったってだけで。
何でも、学園の新年祭のパーティーで同じクラスの女子に悪事を暴露され。
へぇそんなのあるんか。
半年も通ってないから知らんかった。
って、それはいいのだ。
王子も同調。
結果、その暴露がほぼ真実となり学園を退学に。
王子との婚約を破談にしたとして。
そのまま、言い訳も聞かずに公爵家からも勘当されてしまったと。
何か、やけに聞き覚えのある話である。
前世で流行ってた悪役令嬢物。
まんまだ。
それに、噂で聞いた退学になりかけた公爵令嬢。
あれフィオナの母親だったのか。
なりかけたまで聞いたが。
まさか。
本当に公爵令嬢が退学になってたとは。
「もしかして、冤罪だったり?」
あ、だから敏感だったのか。
ただのクラスメイトでしか無かった、俺が学園辞めたの。
めっちゃ引きずってたし。
これなら納得もいく。
お母さんの無念も重ねてしまって。
「? 全然」
おい!
原因はお母さんの浮気のし過ぎらしい。
直接の原因は、下級生の男の子食べちゃってた場面。
それを侯爵家の女子に見られ。
パーティーでの盛大な暴露に至った事。
でも、バレてないだけで。
お母さんの思い出話を聞くだけでも。
それ以外に余罪多数だったらしく。
フィオナから見ても、正味時間の問題だったと。
完全に、自業自得である。
それどころか。
本人曰く、よく持った方だとか何とか。
酔っ払った時自慢げに話してくれたらしい。
母親のそんな話嫌すぎる……
反省をしていない。
そりゃ暴露もされるわ。
王子が可哀想で仕方がない。
悪役令嬢は悪役令嬢でも。
改心前の。
典型的な悪役令嬢である。
しかし、クズのくせに才能はあったらしく。
勘当されたのを物ともせず。
成り上がり。
そのまま大金でもって、爵位を購入し貴族社会に復帰。
もちろん。
買える爵位なんてたかが知れているのだが。
本人の力を背景に。
下級貴族ながら、絶大な影響力を持った。
フィオナが学園に通う頃には。
地位も盤石で。
なんの問題もなく入学。
それどころか、委員長まで任せられるレベルに至っていたと。
当然だが、この手の爵位は子供には受け継げない。
一代限りが殆ど。
しかし、その影響力と金銭を元に新しく爵位を購入。
入学祝いにプレゼントしてくれたらしい。
だから、貴族ではあっても大した爵位ではないと。
いやはや……
何と言うか、凄いな。
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