始末 11
「色々、迷惑かけちゃってごめんなさい」
「気にすんなって。別にノアのせいって訳でもないんだし」
帰ることを受け入れてくれたっぽいが。
それはそれで。
区切りがついたからこそ、諸々思い起こさせてしまった様子。
今回の王都。
平穏では無かったからね。
それに、ちょっと責任を感じてしまってるらしい。
確かに、俺を王都に呼んだのはノアではあるけど。
そこから先は無関係も良いところだろう。
暴動の件なんて誰も知らなかったんだし。
対策できてなかった結果、王国自体も結構なダメージを受けたのだ。
国がこの有様である。
それを個人に予測しろってのは理不尽もいい所。
そもそも、俺が牢屋放り込まれたのは酒を飲んで学園に入ろうとしたからだし。
悪化したのも。
魔法を防ぐだけ防いで、死体を放置したのと。
適当に脱獄しようとしたせいで。
自分の行動の結果だ。
ノアは出来ることはしてくれていたと思う。
多分、大人しくしてれば大した事にもならず解放されてただろうから。
うん、完全に俺の自業自得である。
責任を感じる必要は皆無だ。
「あ、帰りの便ってもう取っちゃいましたか?」
「いや、まだだけど」
「良かった。僕が用意するので、先輩は家でゆっくりしていてください」
「いいのに」
「いえ、僕が納得できないんです!」
どうやら、帰りの便も取ってくれるらしい。
遠慮したい所だが。
ドラゴン便なんて、いくらノアが高給取りとは言え。
財布にはかなりのダメージだろう。
でも、これで遠慮して変に思い詰められても困るし。
本人が責任感じてるっぽい。
素直に頼られる方がノアも気持ちがいいのかも。
冷静に振り返られて。
俺の自業自得ってことに気づかれても。
それはそれで。
ちょっと、あれだしな。
手遅れ?
いや、そんな事ない。
……はず。
「なら、お願いしようかな」
どうせ自分の金じゃ乗らないのだ。
いい機会ではある。
ありがたく受け取るとしよう。
「便……?」
フィオナが疑問に思ったのか。
頭にハテナを浮かべる。
普通、冒険者が言う便は定期で動いてる馬車の事だが。
今は冬だ。
定期便は動いていない。
それに、こんな遠慮するほど高価でもない。
貴族ならドラゴン便を利用したこともありそうな物だけど。
まぁ、そうか。
俺みたいな下級冒険者が使うような物でもないしな。
繋がらなかったのだろう。
結果、謎の隠語を使ってるのように聞こえてしまったっぽい。
「実は、王都までの行きをドラゴン便で来たんだよ」
「それは何と言うか、贅沢者ですね」
「自分でもそう思う」
「話の流れ的に、ノアさんの奢りで?」
「まぁ」
「ノアちゃんに貢がせて、もしかしてヒモの才能があるんじゃないんですか?」
「そんな才能。あっても嬉しくないんだが……」
確かに、言われてみればではある。
タクシー代とか、そんなレベルではない。
他にも。
仕送りとかもらっちゃってるしな。
稼ぎも当然の様にノアの方が多いだろうし。
地位だって、ノアの方が高い。
あれ?
俺もしかして本当にヒモなのでは?
いやいや。
自分の生活費は自分で稼いでるから。
そこにプラスアルファで。
ノアからの仕送りを貰ってるってだけで。
「……」
ノアの方に視線を向けるも、すっと目を逸らされてしまった。
おかしい。
王都に来てすぐの頃は。
メスガキに貶されて。
それは違うと、否定して怒ってくれたのだけど。
薄々勘づいてはいたが。
俺の株価、大暴落しているのでは?
いや、違うか。
憧れは理解から最も遠い感情なんて言葉もあるのだ。
これは俺に憧れなくなっただけ。
徐々に理解してきてくれたってことで。
むしろ、喜ばしい事。
暴落ではなく、適正評価になっただけ。
決して、俺の株が紙屑になるとかそういう話ではないはず。
「でも、それだと直ぐは厳しいかもしれないですよ」
「「え?」」
一瞬気まずい沈黙が流れかけたが。
その言葉に、2人して素っ頓狂な声が出てしまった。
そして目があった。
自然と笑い合う。
うん。
過剰な尊敬から仲良くなったってことで。
全然悪い事じゃないな。
って、そうじゃなくて。
「なぜに?」
「いや、今回の事件で王都中が大騒ぎになったじゃないですか」
「まぁ」
「しかも、中央の貴族街を中心に」
「それが?」
「順当に考えて。多分、予約でいっぱいなんじゃないかなって」
「あ、そっか」
昨日の今日でどこまで話を通してるのか知らないが。
フィオナが騎士団にコネがあるっぽいし。
ある程度のことは伝わってるはず。
ただし、いくら解決したと。
黒幕を捕らえたと発表があったとしても、それで安心できるかは話が別で。
最低限、不安ではあるだろうし。
そもそも。
普段から衛兵は大して信用もされていないのだ。
暴動を防げなかったせいで、さらに少なかった信用も目減りしている現状。
そんな状況で、いつまでも王都に居たいと思うのは少数派。
金があれば。
直ぐにでもここから逃げ出したいってのが、本音。
とは言っても、今は冬で移動の手段が限られる。
馬車は危険だ。
身の危険を感じて王都から逃げ出そうってのに、それでは本末転倒。
ドラゴン便なら……
安全性も高いし、雪での足止めなんかもない。
これが庶民なら諦めるのだろうが。
貴族街に住んでるような人間は貴族か、そうでなくても基本は富豪。
学園に通ってる人間とその層に大して差はないと思われる。
つまり、金はあるのだ。
多少の出費は、致し方なしってとこなのだろうか。
「どうしよう」
ノアがオロオロし始めた。
ただでさえ責任を感じていたっぽいのに。
帰りの便。
それがいつ取れるか不明となったからね。
まぁ、仕方のないことではある。
俺としては、そろそろ帰ろうかと思っていただけ。
のんびり滞在する気もなかったけど。
そこまで急いでるわけでもない。
ずっとサボってると、それが習慣化して。
日銭すら稼がなくなりそうだから。
早めに働き出したほうがいいかなとか考えていたに過ぎない。
環境が整っちゃってるからね。
フィオナ曰く俺にはヒモの才能があって。
ノアも否定してくれないし。
結構危ういのだ。
面倒見てくれるなら悪くない様な気もするが。
永久就職とイコールな気がして。
俺にその覚悟まだない。
だから、そんなに焦らなくても……
確かになんかこのまま王都にいると色々巻き込まれそうとか。
嫌な予感はするが。
それこそ。
本気で帰りたいなら。
転移でも使えば一瞬でウームには着くのだ。
「まぁ、帰りの目処が付くまではお世話になろうかな」
「……」
俺の言葉を聞いたノアは。
嬉しそうな。
情けないような。
そんな、複雑な表情をしていた。
「……よかったら、私が手配しましょうか?」
ノアの事を気遣ってだろうか。
フィオナがそんな事を言い出した。
別に変わらないと思うが。
だって便自体がないんでしょ?
教師と講師って立場の差はあれど。
ノアの方も、仮にもAランク冒険者だし。
貴族と言っても、ねぇ。
そこらへんのよりは力ありそうな物だが。
今回はライバルも貴族なわけで。
まぁ、気にしてくれてるだけ。
ありがたいと言えばその通りだが。
いや、もしかして……
フィオナさん。
貴女、想像よりいいとこの娘だったりします?
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