始末 4
「……先輩?」
ふと、横から声が聞こえた。
まだ寝ぼけているのか、それとも別の理由か。
少し掠れているが。
流石に目で見て確認するまでもない。
ノアの物だろう。
俺が隣でもぞもぞしてたせいだろうか。
起こしてしまったらしい。
あ、もぞもぞしてたと言っても。
断じて変なことをしていた訳ではない。
本当よ?
神に誓ってもいい。
まぁ、疑われる様な人間なのは自覚しているが。
散々搾り取られたのだ。
もうそんな元気は残っていない。
そんなどうでもいい言い訳は置いておくとして。
現在進行形で、大ピンチ。
身の危険が迫ってるとすら言える。
淫魔が目覚めたのだ。
死闘のすえ倒したはずのラスボス。
それが復活した的な?
これ以上いかれたら、本当に死ぬ気がする。
女教師にターゲットにされてたの。
あれ、ワカラセだ何だと言ってほっといたのもあるし。
それでやり返されたりとか……
勘弁してくれ。
適当ほざいてたのは冗談で。
冤罪も、半分は自業自得だって分かってますから。
……これも全て。
そう!
全て、暴動起こした奴らのせい。
奴らが馬鹿な事しなきゃ、俺が捕まることもなかった。
ひいてはノア達にお預けさせることもなく。
予定通り3人で普通にして終わっていたはずなのだ。
普通?
いや、普通である。
まぁ、その場合もノアの貞操に関して怪しい所あるが。
それはそれ。
全て奴らが悪いって事で、押し付けてしまえ。
なんて適当な理論武装。
頭の中で、全ての責任を他人押し付けつつ。
藪蛇をするつもりもないので。
声には出せずに。
要はいつもの現実逃避である。
一応、警戒しつつノアの様子を伺うも。
だらんとしている。
どうやら、向こうも結構ヘトヘトらしい。
「もう無理ですよ〜」
俺の視線に何を勘違いしたのか。
そんな否定の言葉を吐く。
マジでか。
まさか、ノアからそんな言葉が出ようとは……
当然、勘違い。
そんなつもりではなかったのだけど。
良かった。
俺だけならどうなっていたか。
これは女教師に感謝だな。
2人いたせいで死にそうにもなった訳だが。
2人いたおかげで助かった。
いくら淫魔の様だと言っても。
相手も同様である。
そうなればギリギリだったのだろう。
セーフ。
すんでのところで、新たな死亡フラグを回避した。
半分寝ぼけつつ、うとうとしているノアのことを眺める。
行為の後、そのまま寝ちゃったからね。
生まれたままの姿。
安全だとわかってみると、なかなかの絶景である。
それに、横には女教師も同様に一糸纏わぬ姿で。
普段1人で使ってるベッドに3人で川の字になって寝ている状態。
Aランク冒険者と学園の教師……
それを侍らせてる俺。
この景色だけで何杯でも酒が飲めるな。
ま、今飲む勇気はないけどね。
さっき飲んでたと勘違いされたのがきっかけで。
お仕置きと称したこれが始まった訳だし。
変に刺激するつもりはない。
でも、機嫌は多少治ってそうな感じもする。
チャンスか?
「あのー、これ。解いてもらってもいい?」
「へ?」
「いや、ちょっと喉が渇いちゃってさ」
俺がそう言うと、少し薄ぼんやりとした視線と目が合った。
そのまま俺の体をなぞるように移動し。
枕がわりにしてる腕で眠気まなこを擦りつつ、反対側へ。
現在、俺はベッド上から身動きが取れないわけだが。
それは腕枕にされ。
2人を起こしたくないってのは勿論。
それとは別に。
ベッドの支柱、そこに腕が縛り付けられたままなのだ。
「……あっ、そういえば」
しばらく見つめたのち、一拍置いて理解してくれたらしい。
寝起きで頭があまり働いてないのだろう。
あるあるだ。
これで、やっと解放される。
助かった。
ずっと身動き取れなくて、地味に辛かったのだ。
自分で解けるだろって?
それもそうなのだが、余計な事すると碌な目に遭わないし。
にしても、そう言えばって。
酷くね?
人の事ベッドに縛り付けておいて。
どやら忘れてたらしい。
「……ごめんなさい」
「いや、別に怒ってはないけど」
「そうじゃなくて」
「ん?」
「冷静に考えて、縛られたままお酒飲むのって無理だよね」
ノアに謝られた。
一瞬、縛ったまま寝落ちしちゃった事かと思い。
別に怒ってないと返したのだが……
むしろ、途中で落ちてくれない方が危なかった。
違ったらしい。
どうも、今のやり取りのおかげで。
誤解が解けた様子。
まぁ、あの時は元々怒らせちゃってた部分もあったし。
そのせいもあるのだろう。
時間が経って。
改めて考えて気づいてくれた様だ。
「でも、あの酒瓶はどうして」
「通りがかったクソガキに投げつけられて」
「……へぇ」
疑惑の視線。
謝られたのとは別に、俺への信頼はないらしい。
まぁ、今回の件はともかく。
冤罪食らったのだって、色々と積み重ねあったからだしね。
自業自得だという認識はある。
「別に無理に信じてくれなくても……」
「いえ、信じます」
「なんで急に」
「先輩の嘘、何だか分かるようになってきたので」
「え!?」
「今のは嘘をついてない目です」
真っ直ぐな瞳でそう言われてしまった。
どうもマジらしい。
まぁ、ちょくちょく思考ばれてそうな所はあったけど。
改めて言われると。
嬉しいような、ちょっと怖いような。
いや、嘘つく予定はないんだけどね。
自分が信用ならん。
咄嗟に適当言って誤魔化す癖。
少なくとも、ノアの前では改めた方が良さそうだ。
「さっきは、言い訳も聞かず疑ってしまいました」
無理もない。
詰所で諸々あってからの。
戻ってきたら俺の横に酒瓶転がってた訳だからね。
理解は出来る。
「よいしょっと」
ノアがベッドから降りる。
もう起きるのか。
早くね?
まだ日も登ってないし。
疲れてもいるっぽいけど。
……
「ちょいと、どこ行くおつもりで?」
「それ聞きます?」
「いや、トイレじゃないでしょ」
「よく分かりましたね」
「まぁな」
「少し、野暮用が出来たので……」
ふーん、野暮用ねぇ。
嫌な予感はするが。
まぁ、別に干渉する必要も。
ふと、ノアの表情を見る。
見覚えのある笑みを浮かべていた。
「ノア、ストップ!」
「何ですか?」
「ただでさえ暴れたんだから、しばらくは大人しく」
バレちゃいましたかと言わんばかりの表情。
いや、可愛いんだけど。
ちょっと怖い。
あくまで想像だけどね。
どうも、クソガキの命が危ない気がしたのだ。
まぁ、クソガキなんか庇う義理もないのだが。
酒瓶投げただけ。
流石に殺されるのは可哀想だろ。
それに。
気分的に、んな事されても嬉しくないしね。
「ノアも大概分かりやすいよな」
「って事は、お揃いですね」
「……は?」
「あれ先輩。もしかして照れてます?」
「いや、別に照れてはねぇよ」
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