清算 15

 ……暇だ。


 ノア達が犯人探しに向かってから。

 なんだかんだ、結構時間が経った気がする。

 いつ頃戻ってくるのだろうか。

 謎である。


 まさか、解決したらとか?

 いや、それ何日掛かるのって話だが。

 流石に勘弁してほしい。

 井戸に縛り付けられたまま。

 やることもなく。

 そのせいか、時間の流れもやけに遅いし。


 せめて酒でもあれば話は別なのだけど。

 不思議なもので。

 飲んでると時間が過ぎるのもあっという間。

 待ち時間が苦にもならない。

 気がついたら朝とか。

 あるあるだ。

 考えてると余計飲みたい欲が……

 ちょっとぐらいなら、行けるか?

 バレへん、バレへん。

 そう頭の中で囁くもう1人の自分が居る。


 欲に負け、アイテムボックスを使おうとした瞬間。

 視線を感じた。

 ノアかと思って一瞬ビクッとしたが。

 なんてことない。

 子供だ。

 おそらく共用であろう井戸に人が縛り付けられてる訳だからね。

 そりゃ、視線も集めるってもの。

 俺だって気になるし。

 あまり人通りが多いとは言えないが。

 通りかかる人間からは総じて視線を向けられてはいた。


 ここは貴族街ではない。

 あの子も多分庶民の子供だろう。

 服装やら、雰囲気やら。

 大方そんな感じだし。


 大人は視線を向けても近寄っては来ない。

 あからさまに厄介事だからね。

 縛り付けられた人間に関わって良いことなど何もない。

 貴族もそんなことはしないだろう。

 子供も教育されてるし。

 でも、庶民の子なら。

 ……これ、ワンチャンあるんじゃね?


 縄、解いてくれたりしませんかね。

 自分で解けるんだけど。

 ほら、子供が親切で助けてくれたって言えば。

 言い訳にはなるし。

 誰へのかって、もちろんノアである。

 嘘をついてもバレる気しかしないからね。

 その点で言えば好都合。

 お礼に屋台の飯とか奢ってやるよ。

 自分の分を買うついでだが。

 Win-Winだろ?

 この方法、結構名案なのでは?


「あー、そこの君」

「なに?」

「お兄さんの状態見て何か思う事ない?」

「……」

「例えば、助けてあげようとか」


 目が合った。

 逃げられる可能性も考えてはいたが。

 そのつもりはなさそう。

 こっちを見つめたまま。

 近づくでも逃げるでもなく。

 停止している。


 しゃがむ。

 ?

 動いたと思ったら、何を。

 近くに落ちていたビンを拾った。

 って、おい。

 投げてきやがった。


 子供の力だ。

 山なり。

 綺麗に弧を描いて腹に当たった。

 避けようと思えば避けられたけど。

 動くと縄が千切れるからね。

 仕方ないね。


「おま!」


 人が縛られてるのを良い事に。

 このクソガキ。


 視線を戻した時には、既に逃げ出していた。

 なんだあいつ。

 ……まぁ、子供相手だ。

 キレてもしゃーない。

 大人しく。

 これで追ったら、本末転倒だ。

 クソガキにやり返すどうこうってのより。

 ノアの方が怖い。


 もうそろそろ、日が傾いてきた。

 通りかかる人はいても、視線を向けられるだけ。

 関わってこようとはしない。

 衛兵とかならそうでもないのだろうけど。

 庶民街。

 ただでさえ見回りは少ないし。

 今は、暴動の件もあって忙しいのだろう。


 にしても、なかなか帰ってこないな。

 忘れられてたりとか。

 ないよな?

 ちゃんと帰ってくるよね?

 夜までとか。

 それすら通り過ぎて、日を跨いだりとか。

 流石にキツいぞ?


 足音が聞こえた。

 クソガキが悪戯でもしに戻ってきたのかと警戒したが。

 ノア達だ。

 帰ってきたらしい。


 良かった。

 日が落ちる前にちゃんと帰ってきてくれた。

 それだって結構長かったけどな。

 機嫌も良さそうだ。

 戻ってきてくれたからと言って。

 別に解放されるとも限らないし。

 このまま放置される可能性もあるからな。

 機嫌は良いに越したことはない。


「先輩、ちゃんと待ってて偉いですね」


 膝立ちになって、頭を撫でられる。

 俺はペットではないのだが。

 それに、待ってるも何も縛って置いてったのはお前だろ。

 言ってもしょうがない。

 まぁ、頭撫でられるのも別に悪い気はしないしな。

 受け入れるけど。

 大人しく待ってたおかげだろうか。

 機嫌が良さげなのも相待って。

 なんか、許してくれそうな雰囲気を感じる。


「……そこに転がってる物はなんですか?」


 転がってる物?

 声のトーンが一段下がったような気が。

 嫌な予感。

 今回に限っては俺本当に何もしてないぞ。

 いや、本当に。


 ノアの視線の先。

 そこには、無造作に捨てられた酒ビン。


 えっと、これはですね。

 通り掛かったクソガキに投げつけられただけで。

 別に飲んでた訳じゃ。


「これは、お仕置きが必要みたいですね」

「いや……」

「言い訳は無用です」


 あ、マズい。

 信じてくれそうにない。


「でも、僕だけだと心許ないので。良ければフィオナ先生も一緒に」

「はい!」


 嬉しそう。

 なんかアイコンタクトまで取り合っちゃって。

 何をするつもりだ。

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