清算 14

 なんか、メスガキの間男呼びもいつの間にか定着しているし。

 これ、まずくね?

 ノアどころか女教師からも冷めた視線が……

 このままここに居るのはよろしくないと直感が告げている。


「あー、じゃあここは空振りって事で他に」


 別に、逃げるわけではない。

 これは、そう。

 犯人を捕まえないと。

 メスガキの心当たりが空振りだったわけだからね。

 手がかりなしだ。

 国のために早いとこ解決したほうがいいし。

 だから、お国のために働こうって話。


「逃げないでください」


 ただ、ノアにはお見通しだったらしい。

 離れようと動いたら。

 一瞬で捕まってしまった。

 我ながらバカだと思う。

 さっき、似たようなことして一瞬でバレたのに。

 咄嗟に同じことをしてしまった。


 声をかけられるぐらいならあれだが。

 ガッツリ腕を掴まれる。

 ここで振り払って行ったらそれこそ逃げたみたいだし。

 俺にそんなつもりはありませんよと。

 逃げる訳にもいかない。

 ノアとの関係はこれっきりって訳には行かないしね。

 体裁も大切だ。

 ボロボロ?

 ……それでもないよりマシって事で。


「どこ行こうとしてたんですか?」

「いや、彼女の心当たりもハズレだったからさ」

「それで?」

「早めに解決しないとと思って」

「すぐ動こうとしたって事は、先輩は犯人に心当たりがあると?」

「別に、そういう訳じゃないんだけど」

「……ふーん、なるほどなるほど」


 俺にそんな質問をしながら。

 含みのある笑みを浮かべ。

 言外に、なら逃げようとしてたんじゃんと言わんばかり。

 言い訳したい所だが。

 口を開いても、ボロが出る気しかしないので。

 大人しく受け入れるしかない。

 

 どこに隠し持っていたのか、ロープを取り出す。

 抵抗せず、捕まってた訳だが。

 それを良い事にゆっくりと腕を後ろに回す形で縛られ。

 ちょうどいいとばかりに。

 体ごと、近くにあった井戸。

 その支柱にくるくると巻きつけられた。


「えっと、何で……」

「先輩はそこで反省しててください」

「……はい」


 俺に発言の権利はないらしい。

 さもありなん。

 縛られたまま放置される。


「ごめんね頑張ってくれたのに」

「あ、いえ」

「馬鹿な先輩のせいで。僕が代わりに責任取るからねぇ」


 メスガキを慰めると見せつつ。

 その内容としては、俺に言いたい放題である。

 まぁ、客観的に見て?

 我ながら酷いなと思わないでもないが。

 ちょっとだけ。


 メスガキが言葉に目を輝かせる。

 ん?

 あぁ、なるほど。

 責任って、多分そういう意味じゃないと思うぞ。

 いや、分かってるとは思うが。

 そういうお年頃ってやつだ。


「でも、エリスが国のことそこまで大切にしてたなんて。僕ちょっと感動しちゃった」

「……へ?」

「僕みたいな冒険者と違って、流石は貴族様だね」


 多分そういう意図じゃなかったのだろうけど。

 そう解釈されたらしい。

 なるほど、そんな純粋な思いを邪魔した俺は確かに極悪人である。

 違うと思うけどね。

 いや、その思いが無かったと言わないが。

 単純にノアにいいとこ見せたかっただけだと思う。


「フィオナ先生も、そうですよね?」

「……」


 女教師がすーっと目を逸らす。

 俺と目があった。

 まぁ、あんだけ露骨だったら普通気づくよね。

 特に彼女なんて。

 恋愛経験豊富だろうし。

 何かを訴えかけるような視線。

 こっちに助けを求めるな。

 今縛られてるんだ。

 むしろ、助けてほしいぐらい。


「先輩が言うのには納得いかないけど、早く解決したほうがいいのは間違いないし。僕たちで解決しましょう!」


 ただ、盛り上がってしまったらしい。

 メスガキの愛国心、これに感化されたのか。

 一通り慰めてたと思ったら。

 次は先生に標的が移り。

 最後には、そんな事言い出した。


 ノアに英雄願望ってのがあるのかは知らないが。

 酒場で酔っ払いから渡されたノート。

 アレ信じてたぐらいだしな。

 英雄譚とか、好んでてもおかしくはない。

 そもそもAランクなんて普通は辿りつかない領域だし。

 才能はあっても。

 これは、実力につけられたランクではないのだ。

 依頼の達成実績。

 それを元にギルドが独自に評価する。

 この若さでその地位にいるって事は。

 偉業に相当する何かを達成したってことだ。

 相応の危険を犯したって証明。


 なんか、止まりそうに無いな。

 2人を連れそのまま何処かに行かんとばかり。

 あのー。

 せめて縄ほどいてってくれませんかね?

 ……

 反省したんで。

 なんなら、俺もちゃんと協力しますよ?

 ダメもとで提案してみたが。

 先輩連れてくと面倒ごとが起きる気しかしない。

 との事。

 なるほど、否定は出来ない。

 王都に来てから散々だし。

 何かしようとするたびに失敗してる気がする。


 でも、解決しようなんて。

 口で言うのは簡単だが。

 手がかりなんてあるのだろうか?


 いや、まぁ。

 事情はほぼ把握していないのだが。

 何となく。

 もしかしたら、国の方で調査が進んでるのかも。

 女教師がいればそことも連携効くし。

 戦力はノアがいるのだ。

 一騎当千。

 数はあまり問題にはならない。


 ……あれ?

 案外行けるのか?


「先輩、出してください」

「え、何を?」

「手がかりになりそうな証拠品です」


 俺を置いて離れて行ったと思ったら。

 何か思い出したのか。

 不意に戻ってきた。

 そして、手を伸ばしてこんな事を。


 持ってるんでしょと言わんばかりの要求。

 まぁ、持ってるんだけど。

 ただしアイテムボックスの中だ。

 人前で出すのは。

 でも、なんか確信してそうな感じだし。

 隠してもバレる気しかしない。

 精一杯の抵抗。

 服の下に出口を作って。

 あたかも元からそこにありましたよ的な感じに。

 違和感ある気がするが、一応ね。


「ポッケに入ってる」


 魔力結晶の欠片と銀貨のネックレス。


 ネックレスの方は見覚えあるのだろう。

 目を細める。

 何となく、今回の暴動の一部犯人像が思い浮かんでそう。

 まぁ、俺と同じような予想だろう。

 ノアって今でこそAランク冒険者なんてやってるけど。

 生まれは庶民。

 全然、貴族とかじゃないからな。

 苦しみもわかるだろうし、同情もするか。


 結晶の方には首を傾げていた。

 魔力ないからな。

 明らかに不自然。

 そもそも、魔力結晶だと気づいてすらいないかも。

 証拠に、魔力結晶だと言うと目を細めた。

 そして疑惑の視線。

 なぜお前は知ってるんだと言わんばかり。

 やばい。

 余計なこと言わなきゃ良かった。


「どこにいると思います?」

「何が、」

「暴動の首謀者」


 言い方的に、実際に犯行を起こした人間は駒だと。

 そういう判断なのだろう。

 俺もそうだと思う。


 ……探せと?

 口には出していないが、視線がそう言っている。

 まぁ、どちらかと言えば。

 魔力結晶のこと口滑らしたからな。

 なんか知ってそうだと。

 そう疑われているのだろう。

 魔眼のことなんて話した覚えはないし。

 多分、そうだ。


 先輩としての信頼が失われたのに。

 俺の実力に対する信用だけは上がってるのが。

 どうしてこうなったと。


 誤魔化しは許さないとそんな視線を感じる。

 知らないのは嘘じゃない。

 でも、今のノア相手に色々隠すのは悪手だよな。

 流石に学習した。

 ボロ出して。

 知らないけど探せはするってバレる。

 そんな気がしてならない。


 本当はやりたくなかったんだが。

 これ以上あれだと。

 流石に、いろいろと危ない気がする。

 まぁ、多少勿体無いぐらいで。

 魔力は自然回復するのだ。

 本来、勿体ぶるものでもない。


 久々に頑張りますか。

 闘技場で魔法を押し流した時、それ以上の魔力を瞳に集中させる。

 魔眼。

 とは言っても、首謀者個人は知りようがない。

 分かりやすく。

 魔力結晶の位置を探す。

 いくつか集まってるような所が王都内に点在している様子。

 それ以上は直接出向くしかない。


 とりあえず、心当たりとして場所を伝える。


 満足してくれたらしく。

 頭を撫でて。

 そのまま2人の元に戻って行った。


 一瞬ドキッとしてしまった。

 これが飴と鞭ってやつか。

 ノアにはDVの素質があるのでは?

 あと、さっきまで慰められてたメスガキ。

 より沼にハマってる予感が……


 それと、縄は縛ったままなのね。

 ついでに解いてくれても良かったんだけど。

 まぁ、これはしゃーなしか。


 尊敬できる先輩だったはずが。

 気がついたら立場が逆転している様な。

 いや、嬢に手紙出してたりと。

 王都来る前からすでに怪しくなって気もするが。

 こっちで完全に破綻した。

 良かったような。

 ちょっと寂しいような。

 まぁ、変に虚勢張らずに済むと思えば。

 そう悪いものでもない、か。


 成長したな、色んな意味で。

 それに、考えてみれば。

 元から今回の暴動押し付けるつもりではあったし。

 自分でやらなくていいと。

 結果オーライなのでは?


 ……後は、この縄をどうした物か。

 別に特別な物でもない。

 自力で解けるけど。

 このまま待ってるのが吉かな?

 うん。

 ほどいて酒片手に待ってたりしたら。

 また怒られる気がするし。

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