清算 13

「先輩。そんな場所知ってたんですか?」

「……ま、まぁ」


 ノアの問いかけに曖昧な返事を返す。

 なぜそれを早く言ってくれなかったんですかと言わんばかり。

 あまり納得いって無さそうな様子。

 さっきの二の舞、それは自分でも理解しているのだが。

 やはり、人間の性格って物はそう簡単に変わらないらしい。

 自分から言った方がいい。

 そう思いつつ。

 後回しにしてしまうのが俺の悪い癖だ。


 だって、ここで言ったら絶対怒られるし。

 どうにかして誤魔化したい。

 いや、どうせ怒られるし。

 早い方が被害が少ないってのはなんとなく理解してはいるのだが。

 頭と心は別。

 これまでの件で、ただでさえ白い目で見られているのだ。

 ここでそんな恐ろしい自白、俺にそんな勇気はない。


 微妙な空気にはなりつつも。

 そこまで追求はされず。

 ま、別に何か確信があるわけでもないだろうし。

 ただ疑問に思っただけ。

 俺が気づかなかったといえば、それまでで。

 問いかけの意図もそんな所なのだろう。


 ただ、追求はされなかったものの話は終わらなかった。

 ここで話していても仕方がない。

 俺は個人的な物だが。

 ノアは、一応学園で講師やってるし。

 メスガキと先生に関しては貴族。

 王都での暴動、これを見過ごしていい立場にないのだ。

 心当たりがあるなら。

 解決しておきたいところだろう。


 子供の話とはいえ、戯言だとは思って無さそうだし。

 実際に何かあるかはともかく。

 一旦、その場所まで行ってみて。

 そこで判断。

 という事になったらしい。

 俺としては参考程度にそのまま流して欲しかったんだけど。

 まぁ、そう都合よくはいかないよね。


 真面目な人たちである。

 とても騒動を放置してお茶、そのままホテル行こうとしてた人には見えない。

 これなら、誘惑に負けて2回戦でもやってた方が良かったのでは?

 もっと時間たてば。

 メスガキも流石に帰宅してたかもしれないし。

 そうすれば……

 いや、先延ばしでしかないのだけど。


 結局言い出せないまま、移動。

 メスガキに連れてこられた場所は予想通り。

 貴族街と庶民街の境目。

 そこにある井戸だ。

 もしかしたら違う場所だったりとか。

 今回の暴動で周囲が瓦礫になってたりとか。

 そんな奇跡を期待していたのだが。

 当然のように空振りである。


 移動中、3人は周囲を警戒していたのだが。

 俺だけ心ここに在らず。

 何か良い言い訳がないものかと。

 ずっとそんなくだらないことを考えていたのだけど。

 特にひらめかず。

 さて、どう誤魔化したものか。


 メスガキが井戸の縁に手を当て魔力を流す。

 その行為に他2人がハテナを浮かべる。


「あれ? おかしい」


 一瞬、何をしてるのかと疑問に思ったが。

 アレだ。

 前回来た時、魔力を流して例の部屋に移動したから。

 それを試しているのだろう。

 真っ赤な嘘な訳だが。


 あの部屋に行く方法なんて。

 俺の転移か。

 それこそ、地下まで掘るしかない。


「もしかして、閉じられた?」


 魔力を流し続けても、うんともすんとも言わない井戸。

 メスガキはそんな結論に達したらしい。

 まぁ、今回の暴動と結びつけるならその可能性もありか。

 最近まで放棄されてた訳だが。

 再度使われ始め。

 パスが変わったか、証拠隠滅で拠点自体が封鎖されたか。

 何も、そうおかしな話ではない。


 ……それじゃね?

 もういっそなかった事にしてしまおう。

 変に理屈こねて誤魔化すより。

 見せないのが最善手。

 ノアには杖のこと回収頼む時にちょっと怪しまれてるし。

 あの時は先輩から話してくれるの待とうかなって言ってくれたが。

 今でもそれを期待するほどお花畑ではない。

 壁一面のミスリル。

 あれ結構地雷な気もする。


 メスガキから、視線を感じる。

 俺に助けを求める物。

 本当は頼りたくないのだろうが、役に立ちたいのだろう。

 国のため。

 ってのはどうか不明だけど。

 少なくとも、ノアの前でいいとこ見せたいのだ。

 暴動の犯人への手がかり。

 これは十分なアピールポイントになる。


 それとは別に、大会もどうにかして出たがってたしな。

 魔力の制御も安定しない状態なのに。

 名誉に興味がある。

 というより、必要に迫られてって所だろうか?

 まぁ、考えたって分かりようも無いのだが。

 彼女の根本、それこそ魔力が不安定だった件とか関係ありそうな気もするけど。

 結局ズルして治療しちゃったから、詳しいとこ知らないんだよね。


「ダメだな。閉鎖されたか、鍵を変えられたのか」

「そっか……」


 魔力を流して、そんなことを言う。

 我ながら名演技である。


「先輩?」

「はい」


 ノアに声をかけられた。

 振り返ると。

 ジト目。

 あれ、デジャブ。

 なんか嫌な予感が……


「正直に答えて欲しいんだけど」

「うむ」

「また何か誤魔化そうとしてます?」

「……」


 どうにかなる。

 証拠なんてないし。

 でも、流石に。


 自分から言い出すのはあれだけど。

 聞かれたらね。

 もはや、答えた方がいい気がする。

 さっきまで散々誤魔化そうとしておいてあれだが。

 洒落にならない。

 そんな雰囲気を感じた。


 ……それに、だ。

 さっき行動に出る前に悟られたじゃないか。

 今も。

 実は気づいてて自首のチャンスを与えてるだけなんじゃ?

 そんな予感が。


 殺されたりとか、そんな事はしないだろうけど。

 じゃあどうなるんだって言われれば……

 ふと、ベッドに縛り付けられ監禁される未来の自分の姿を想像した。

 そこまで行かずとも。

 さっき以上に激しくなったら、本当に死んでしまう!


「すみません」


 突然の謝罪にメスガキと先生が驚いてる。

 おかしいな。

 2人は騙せてたっぽいんだけど。

 ノアはいつの間にこんな鋭くなってしまったのだろうか。

 元は騙されやすかったくせに。

 喜んでノートを買ってた。

 あの頃の純粋無垢な君はどこへ。


 いやまぁ、俺のせいですよね。

 くだらない嘘をつくから。

 耐性がついてしまったのだろう。


「説明して?」


 暴動と関連することはあり得ない事。

 そもそも、俺以外入れない事。

 あの部屋は昔魔法の練習のために作った事。


 一通り白状した。


「そんなのいつ作ったの?」

「えっと、学園で学生やってた時に……」

「へぇ〜」


 入学したばかりの庶民なんて。

 学園の施設を満足に使えないからね。

 特に魔法を使えるような練習場とか。

 だから。

 自分専用の部屋。

 これを作る必要があったのだ。


 説明してると。

 ふと、鼻を啜る音が。


「役に立てると思ったのに、間男のバカ」

「うちの先輩がバカでごめんね」


 メスガキがノアに慰められている。

 女教師もあらあらといった感じ。


 色々決壊したらしい。

 なんか、すまん。

 これに関してはほんとに悪気はなかった。

 ……いや、本当に。


 嘘はついてないんだけど。

 魔術師もどきが作ったって話も。

 俺は魔術師もどきだし。

 学園だけが魔法を学ぶな所じゃないってのも。

 実際あそこで練習はしたし。

 新しい魔法をもいくつか作った気がする。

 後ろ暗いことがどうたらってのは。

 それはメスガキが言い出した事。

 つまりはただの想像だ。


「あの……」

「先輩は黙っててください」

「……はい」


 でも、言い訳はやめた方が良さそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る