騒動 15
周囲を警戒しつつ、部屋を出た。
目が合う。
そりゃ、見張りの兵士ぐらいいるわな。
万が一ってこともある。
脱獄の警戒ぐらいしていて当然。
中にいなかったのは。
拷問が仮にも違法だからかな?
その言い訳のためってところだろう。
実際、見張りがいると言っても一名だけ。
見るからに若そうな兵士だ。
本当に一応立ってるだけって感じ。
しかし、中で結構な物音を立てた自覚があるのだが。
特に警戒してる様子もない。
石造りで防音性能高そうではあるが、完全防音って事もないだろうし。
ある程度は漏れてるはず。
まぁ、拷問部屋だしな。
それぐらいなら平気なのか。
普通の拷問じゃまず出ない様な音も立てた気がするけど。
普段から手酷い事をやっていたのだろう。
別段。
気に留める様な事ではないらしい。
部屋から出てきた俺に対しても疑惑の目は無し。
変装も上手くいってる様子。
ただ……
何を思ってるのか視線は向けられたまま。
話しかけて来るでもなく、視線を逸らされるでもなく。
気まずい沈黙が流れる。
事前情報がほぼない中での乗っ取り。
俺もどうすればいいのか分からないのだが。
おそらく、向こうも同じ様子。
いや、何故に?
考えられるとすれば。
拷問が終わる予定の時間よりかなり早いからだろうか。
普段対応してる兵士と違うのかもしれない。
取り敢えずで立たされてるだけ。
新人っぽいな。
どう接していいかすら分かってなさそうだ。
見るからに友好度は低い。
以前からの知り合いって線はなさげ。
対応に苦心しつつも。
見張りがこの兵士だったのは、好都合ではある。
親しかったら詰みまであった。
なんせ、似せてるのは見た目だけなのだ。
中身は何も知らないし。
ボロしか出ないだろうから。
「あ〜、すまんそこの兄ちゃん」
「え、はい」
待っていても埒があかないので、こちらから声を掛ける。
すると、予想外といった反応。
おそらく俺の予測通り拷問官は無口気味な人間だったのだろう。
話しかけられるとは思ってなかった様子。
しかし、それだけ。
違和感を抱かれるまではいってない。
今の所は問題なさそうだな。
長引くのは好ましくない。
出来るだけ、速攻で決着を付けたい所。
「隊長はどこにおられるのだろうか」
「えっと、おそらく上にいらっしゃると思いますけど」
「案内を頼んでもいいか?」
「まぁ、はい」
「ありがとう、助かった」
「あの……」
「なんだ」
「お仕事の方は?」
「実は、その事で隊長に報告があってな」
「……はぁ」
見るからに、頭にハテナを浮かべている。
今までなかったのだろう。
あまり得心いってなさそうな様子。
まぁ、ほぼ形骸化してるとは言っても拷問は仮にも違法行為だからな。
隊長のような立場の人間が直接接触するのは望ましくないだろうし。
分からなくはない。
でも、案内はしてくれるらしい。
ラッキー。
新人特有の独断専行だろうか?
まぁ、どっちでもいいけど。
詰所の構造とか知らないし。
隊長の元まで連れてってくれるならありがたい。
しかし、友好的って訳ではなさそうだが。
差別されてるって感じでも無いのか?
拷問官とか。
衛兵と違ってグレーな仕事だし。
立場的に。
最底辺だと思っていたけど。
どうも、そういうわけでもなさそうな感じ。
考えてみれば、違法だからこそ好きに任命出来る訳だしな。
上からの口出しはあまりされないはず。
大ぴらには存在しない事になってるのだから。
口の出し用が無い。
まぁ、高い採用率を見ると。
拷問官用の予算とかはありそうだが。
別の名義で予算が発行されて、そこから独自に雇ってるとかありそう。
天下りとかその類。
この説ありだな。
といっても本当に天下りとかではなく。
グレーな仕事だ。
そんな好き好んで付くものでも無い。
多分、関係のあるマフィアから引っ張ってきてるとか。
そんな感じ。
結構あり得そうだな。
そりゃ、扱いは悪くなりようが無いか。
そう考えると、一応あまり会わない様にしてるだけで。
別に会わせちゃいけないって事はないのか?
新人兵士くんの独断専行って決めつけるのも早計だな。
考え事してるうちについたらしい。
ここか。
詰所のくせに、扉がすでに他と比べて豪華な気がする。
国民の血税をこんなことに使いやがって。
まぁ、俺は大して収めてないんだが。
最低限の暮らししかしてないからね。
稼ぎが少ないのだ。
当然、納める額もたがが知れてる。
「……どうした?」
ドアをノックし、見張りに続いて入る。
中にはついさっき俺を取り調べしてきた隊長が。
革張りの椅子に座ってる。
なんか、想像通りすぎて逆に感想がない。
ザ、悪徳公務員って感じだ。
さて、どう首にされに行くか。
扱いが悪く無いとはいっても下っ端なことに変わりはなさそうだし。
予定通りでいいか。
罪を告白して。
誠心誠意謝って。
ま、変に工夫する理由も無いしな。
「すいませんでした!」
「?」
「誤って、対象を殺してしまいました」
「なに?」
「申し訳ございません」
頭を下げて、簡潔に全て言い切った。
隊長の様子は?
俺のことを見つめたまま……
完全に固まっている。
突然の出来事にかなり驚いてるらしい。
予想ではそのまま怒鳴ってくるかと思ったんだが。
まぁ、そうか。
突然過ぎて反応に困るか。
そもそも、俺がここ来たの自体予想外って感じだったし。
これまで殺したことなかったのか。
報告に来なかっただけなのか。
まぁ、いい。
今回は大事だからね。
これまでと違ってもそれが理由ってことで。
「暴動の全貌が捉えられるかもしれなかったのに」
「……そうか」
「本当に申し訳ございませんでした」
「ま、まぁ……」
「なので」
「?」
「その責任を取って、この仕事を辞職しようかと」
言った。
なんか、謎にスッキリするな。
別に俺が働いてた訳でもないのに。
有り体に言って。
何の関係もない仕事である。
あぁ、でも考えてみたら当然か。
思い返してみれば俺って死ぬまで仕事辞められなかったんだもんな。
新卒で就職して。
ブラックと気付きつつも、ダラダラと働き。
そのまま過労死。
それがこんなあっさりと。
我ながらバカだった。
まぁ、当時はね。
これを言う勇気すら無かった訳だが。
これ、もはや退職代行なのでは?
依頼者死んでるけど。
成長だな。
転生して変わってないと思ってたけど、それなりに成長してたらしい。
過労死してた奴が。
まさか他人の退職を代行する側に回るとは。
想像もしなかった。
見てるか?
……特に語りかける相手はいないけど。
異世界で立派にやってるで。
「そんな気にするな」
「へ?」
「まぁ、なんだ。仕事にはミスはつきもの」
「しかし」
「確かに今回の事件は大きかった」
「……」
「でも、それを任せた俺の責任でもある」
あれ?
「辞める必要なんてない、次改善すればいいんだ」
周りを見回す。
隊長も、見張りの兵士も優しい目をしている。
腐ってる。
言い換えれば身内には甘いってことだ。
つまり。
簡単に辞められる訳ない。
いや、辞められるんだろうけど。
責任をとってとか。
そんなのは不可能。
ここで一身上の都合で辞めるのは……
流石に。
不自然が過ぎるか。
死ぬまで仕事辞められなかったんだもんな。
一回死んだぐらいで。
そう簡単に変わるわけなかったわ。
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