十三章
清算
事前に毒を飲んでいて、それで死んでしまった。
って事でどう?
隊長は、少し考えるような動作をした後。
なんでも無いように。
そう言い放った。
一瞬何のことか分からなかったが。
どうやら、カバーストーリーまで作ってくれるつもりの様だ。
俺が捕まったの。
少なくとも詰所の兵士は知ってるだろうからね。
これを共有するつもりなのだろう。
リーダーがどう言おうとミスである事に変わりはない。
それもかなり大きなミス。
辞めさせないだけではなく。
拷問官の組織内での立場まで守ってくれるつもりらしい。
本当甘いな。
腐ってやがる。
でも、中にいる分には相当居心地いいんだろうな。
「にしても、お前がそこまで真面目な奴だとは思わなかった」
「そうですか?」
「ずっとまともに喋らなかっただろ」
「ま、まぁ……」
「会話も本当に必要最低限って感じだったし」
案の定キャラが違ったらしい。
やっぱ、寡黙系のキャラだったか。
予想通りと言えばそう。
でも、辞職する都合上そういう訳にもいかないしな。
黙ってても話が進まない。
と言っても、これでも意識はしてたんだけどね。
これぐらいなら。
寡黙なやつでも喋るだろって予想の元。
下手から辞職を申し出たのだ。
常識で考えればその方が自然だろうと思って。
どうも、そんな必要すらない。
身内に駄々甘の組織だったらしいが。
ってか、こいつ。
俺を拷問してる時はどちらかと言えば饒舌だったんだけどね。
寡黙どころか、まともに喋らないって……
仕事人って感じでも無いんか。
外様だからな。
隊長は甘そうだし、兵士同士は中良さげだし。
実は、居心地悪かったのかもしれん。
それに、拷問なんて仕事をしているのだ。
日常的に、人体を痛めつける仕事。
そりゃ、おかしくもなる。
こいつにとって日常でも。
いや、日常になってるからこそスイッチが入るのだろう。
仕事中にキャラが変わるのも納得は出来る。
俺は全然トレース出来て無かった訳だが。
寡黙方向で助かったわ。
仕事に真面目だったけどミスしたから動揺した。
そういう事で。
これが逆だったらね。
少し喋っただけでバレてた説ある。
違和感は覚えられてる訳だが。
バレさえしなければ、全くもって問題は無いのだ。
「ま、なんだ。せっかくだし飲みにでも行くか?」
「……はい」
ヤバい、どうしよう。
仕事辞められる気配がないんだけど。
それどころか別方向へ。
飲みとか。
むしろ以前の拷問官より仲が深まりかけてるんじゃ。
あれ?
このまま働く感じ?
案外いい職場説あるし、ありなのでは。
腐ってはいるけど。
中にいる分には、前世で働いてブラック企業もびっくりの白さ。
まぁ、仕事内容が拷問ってのが玉に瑕だが。
……いやいや。
俺はもうまともな労働をするつもりはないのだ。
それに、絶対面倒なことになるって。
ここは誤魔化せても。
拷問官なんて他と繋がりあるだろうし。
マフィアとは限らないが、それに類する何か。
そっち方向で絶対バレる。
この場だけ適当に誤魔化して。
飛ぶのが吉か。
違和感やばいだろうが。
どうしたものか。
もともと行き当たりばったりだったからね。
色々と、完全に失敗した気がする。
「隊長、失礼します」
ドアがノックされ、兵士が入ってきた。
少し急いでるような。
焦ってるような。
どことなく、そんな雰囲気を感じる。
途中、俺の事が目に入ったのだろう。
一瞬固まっていた。
やっぱり。
この拷問官浮いてたらしい。
ここに居るのが珍しいとでも言いたげ。
しかし、それどころではなさそうだ。
すぐに視線を逸らす。
気にはなってはいそうだが。
もっと、大事な用件なのだろう。
「本部からお客様が」
「なに?」
隊長が予想外とでもいった反応。
「すまんが、部屋を開けてもらっていいか」
「あ、はい」
追い出されてしまった。
まぁ、ここだけやたら豪華だしな。
応接間も兼ねてるのかもしれない。
本部か……
衛兵のって事かな?
俺のことをすでに報告してたのだろうか。
事件の情報を求めて。
にしては早い様な気もする。
自白も取れてない訳だし。
まぁ、現在進行形で大事件起こってる訳だからな。
他の用事で来ても。
別におかしいって事はないが。
お客様って言い方だと連絡とかとは違いそう。
考えても仕方ないか。
俺は未来のことを考えなければ。
部屋から出て、集団とすれ違った。
例のお客様だろう。
早くね?
今さっき、兵士から伝言来たばかりなのに。
すぐ外にいたらしい。
一目見て、装備のレベルが違う。
これが本部の兵士か。
へぇ。
予算とかもかなり潤沢なんだろうな。
……って、あれ?
一緒にいるのって例の女教師じゃね。
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