騒動 14
拷問部屋を出る前にもう一度。
最終確認である。
鏡の前で自分の姿に違和感がないか、一通りチェック。
しかし、改めて見ても。
本当にまんまだな。
自分でやっておいてなんだが、ちょっと怖いレベルの再現度だ。
対面でのオレオレ詐欺とか。
そんな無法が成立しそうなレベル感。
まぁ、今から衛兵相手に似たようなことやる訳だし。
それぐらい出来ないと。
使い物にならないんだけど。
……ただ、顔の再現度に比べて。
表情の方が。
少し、いやかなり硬いな。
当然と言えば当然ではあるか。
マスク被ってるだけだし、神経なんて通ってるはずもなく。
一応、皮膚一枚通して俺の筋肉と密着してる訳だから。
そこまで不自然ではないのだけど。
頼む!
無口キャラであってくれ。
まぁ、多分大丈夫だとは思うが。
だって、ほら……
この顔面で陽気って事は無いでしょ。
想像出来ない。
ただの偏見だけど。
そうあって欲しいのでそう言うことで。
違っても、ね。
仕事でミスしたから口数少ないと。
適当に察してもらおう。
作戦のシミュレーションとしては。
俺が隊長にトラブルを起こしたと報告入れて。
内容を聞かれた所で。
拷問中に容疑者を殺してしまった事を告白。
当然激怒されるだろうが。
そこを潔く責任を取ると宣言。
方法を聞かれ。
拷問官の職を辞任する意思を伝える。
……完璧では?
一応、懸念点としては普通に仕事辞めさせて貰えるのか問題もあるが。
これ、かなりでかいミスではあるし。
普通に適当な容疑者を殺しちゃったとかならともかく。
今回の暴動はかなり大規模だったからね。
可能かどうかは置いておいて。
向こうから見れば、情報が黒幕まで繋がった可能性もあった訳だ。
冤罪なので完全な言いがかりではあるけど。
犯人は俺が殺してしまっているので、その言いがかりを正すのは不可能。
こう確認してみると。
やっぱ、仕事を辞めるだけじゃ釣り合ってない気もしてくる。
まぁ、アレだな。
最悪指の一本ぐらいなら詰めてもいいか。
そんな文化あるかは知らんが。
少なくともこっちの誠意ぐらいは伝わるだろうし。
それでも無理ならまたその時考えよう。
と言っても、別に馬鹿正直に自分の指なんて切るつもりはない。
痛いのは嫌いなのだ。
拷問官の死体から適当に一本持っていこう。
相場は小指だろうか?
自分の指を切り落とすフリをして、これを切断するのだ。
繋ぎ目は変装の魔法で誤魔化して。
手本はここにある。
少なくとも、他人の顔に化けるよりはよほど簡単なはず。
マジシャンの様な要領だ。
そんなテクニック俺にはないが、代わりにチートがあるからね。
初めからそうと分かってでもない限り。
問題はない。
その後は堂々と詰所を出て……
これで脱獄成功と。
ただ、死んだままと言う訳にもいかないからね。
退職して。
それではい終わりと出来ないのがなんとも。
俺の事知られてなければこれでおさらばでもいいんだけど。
学園祭には招待で来てるし。
身分証も見せちゃったし。
身元は割れてるっぽいんだよね。
このまま帰っても。
ウーヌで冒険者やって、直ぐは問題ないだろう。
しかし、いずれ騒ぎになる。
そんな未来しか見えない。
このまま元拷問官として生きる?
それはちょっと。
ここまで苦労した意味ないっていうか。
全部捨てるならねぇ。
他国にでも。
適当に高跳びすればいいだけだし。
今の生活を結構気に入ってるのだ。
簡単に手放すのは惜しい。
幸いこの世界の情報の伝達速度は遅い。
しかも、今は冬だし。
他の街にまで伝わるのにはタイムラグがある。
それは王国内でも同じ。
その間に事件が解決しちゃって。
そうなれば。
実は生きてましたとなってもね。
この罪に問われることはないだろうし。
うるさく言われないはず。
俺としてまた日常を謳歌出来るって寸法。
ただ、その時の言い訳だよな。
脱獄してましたはちょっと。
別の罪が増えるような気がしないでもない。
そもそも死んだことにするのだ。
何処まで詳細に伝わるかは置いておいて。
死体まであるのにそれは……
かなり無理がある。
……あ、いい物もってるじゃん!
全部正直に話してしまおう。
死体の偽装も含め。
その上で、それもこいつに罪被せて仕舞えばいいのだ。
供述としては、そうだな。
一目見て思った。
拷問官としての直感。
無罪。
だから逃した、と。
実際にそんなものがあるのかは知らんけど。
殺しても逃してもどっちみち失格だから。
辞めた。
そういうことで。
この内容で手紙でも送って仕舞えばいいのだ。
確認しようにも。
その時には存在ごと消えてるからね。
見つけようもない。
後の祭りだ。
便利だな。
そこまで深く考えてなかったが。
この体。
結構有用である。
……でも、これ。
勝手に解決してくれるって期待するのは。
流石にね。
可能性が低い気がする。
俺がこの騒ぎ解決するのが無難か。
まぁ、しゃーない。
渋々やってみますか。
魔結晶なんてそうあるもんじゃないし。
持ってるやつ全部消せば。
多分解決するでしょ。
根本は無理だが、暴動自体は終わるはず。
その後のことは知らん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます